ててご | ナノ



悪魔と天使じゃなくて悪魔

※ペット×写表現あり



 朝、目が覚めたらまずは顔にへばりつく生き物を引き剥がして呼吸の経路を確保し、次に胸にすり寄る小動物の首根っこを掴んでは、篭る熱を逃がす。やっと一息つけたところで 
噛み殺した欠伸をひとつ。最近の日常風景である。
いったいどこから入ってきたのか? 聞いたところで返事なんてきたことはない。ベッドの中に潜り込んでくる白と黒の生き物は、傍若無人でやりたい放題。本日も小さな体を擦り寄せては「んにー」とオリジナルそっくりの声を上げるのだ。

「全く、誰に似たんだろうね」

 無遠慮で密着したがりの黒と、顔色を窺うのに寂しがり屋な白。同時に彼らを見ることができるこのホムンクルスは、なんという皮肉なのだろう。多少乱暴に扱ったというのに、目覚める気配はなく無邪気な寝息を立て続ける。仕方がないから、羽布団の中に2人を押し込み、服を着替えようとした時だった。

「むっ」
「に?」

 まるで初めから起きていたかのように、パチリと目を開いては、勢いよく跳ね起きたのだ。
瞬く丸い黄色い目に、むぅむぅと意味のない言葉が繰り返される。
「寝てなよ」と頭を撫でたところで、大きく横に振っては抵抗の意思を示す。
起きてしまったのなら無理に寝かせることもない。交互に頬を撫でて愛でてから、服を抱えて脱衣所へと向かおうとしたのだが、2人もベッドから飛び降りてはついてくるではないか。
 ペットではあるが恋人を模しているのだ。男であるため、恥ずかしがることはないとわかっているのだが、どうにも彼らの前で肌を晒すのは後ろめたく感じる。
妙に懐いてくれて、昨晩も勝手に部屋へと入ってきた。可愛らしい容姿でありながら、積極的に身を寄せてくるのだ。身に余った熱が疼いてしまうのがわかった。

「ダメだ。お菓子をあげるから待っていなさい」

 邪な感情から目をそらしながら、色とりどりの砂糖星の詰まった小さな瓶を手渡した。小さな手を目一杯広げて、受けとりはしたが唇を尖らせるのだ。

「やっ!」
「んに!」

 ついには、言いつけを守らずに特攻してきた。足元にすがり付いては上目使いで様子を伺う。
この目に弱いのは自覚済み。無碍にも出来ず、再びベッドに落ち着くとため息をついた。

「わかった、わかった。どこにも行かない。だけど、その粒羅な瞳で見つめてくるのはやめてくれ」

 大きなため息をつこうとも、本人たちは預かり知らず。嬉しそうに跳ね回ると、対称の位置から身を寄せては喉をならすのだ。
渋々とバスローブを開いていくと「手伝おう」と思ったらしい。足ともに、正確には股ぐらへと潜り込むと、勢いよく衣服を左右へとはね除けたのだ。
 眠るときに下着はつけていない。露になった裸体に、目を白黒とさせていたが、嬉しそうに太ももに乗り上げてきた黒いやんちゃ坊主の感触に、顔が熱くなる。

「うぁっ……」

 白は無邪気に肌をよじ登り、胸へとすり寄ってくるわ、敏感で開発されてしまった箇所への攻撃はやめてほしい。本当にオリジナルに似て、性格が悪い。

「ちょっと、待って……」
「ジョゼフさん、ご飯はどうしま……」

 なんと間が悪いことか。朗らかに現れたのは謝必安で、全裸で人形たちにまとわりつかれている姿を見て、目と口を開いたままだ。

「無咎落ちついて。私も必死で我慢してますがこの光景を眺めているのも一興でしょう?」
「なんの話をしているんだ! 助けたまえ!!」

 局地的な地震が起きているのかと疑いたくなるほど震える傘を握りしめ、据わった目が恐ろしい。
完全にスイッチが入ってしまった2人を他所に、欲のないホムンクルスたちは無邪気なものだ。

「まんま?」
「マッマ!」

 好き勝手にはしゃぎ回り、下腹部に抱きついてくるわ、胸にしゃぶりついてくるわとてんてこ舞い。
流石にこれ以上は我慢の限界だったのだろう。突然傘が突き立てられる音がしたと思えば、黒いスライム状の物体が地面に落ちる。ドロリと床を這いずり、急に目の前で人の形を成す。

「貴様ら、どけ」

 目付きも口の効き方も悪いのは、范無咎か。黒く侵食された顔に、点と輝く金色の瞳がギラギラと光り、小さい邪魔者の首根っこを掴んでは引き剥がす。
すっかり勃起してしまった性感帯に抵抗の爪が当たり、背筋が震えたのは内緒だ。まるで虫でも扱うように、窓から乱暴に雑木林へと放り投げると、ゆっくりとベッドへと乗り上げてくるではないか。

「やるか」
「え?」
「どうせ抜かないと着替えられないだろう」

 どうやら大きな狂犬は、お預けができないらしい。これが弟分の謝必安ならば、服をかけられて紳士的な対応で終わっただろうに。
いや、足元で激しく揺れる傘を見る限り、そうでもないらしい。恨めしそうに猛抗議をする無機物を蹴飛ばしたくなったが、それどころではない。
脇腹へと細い指が滑り、骨を確かめるように鷲掴みにされるのだ。まだ序の口だが、飢えた雄は収まることを知らない、このままでは全身を好き勝手にまさぐられてしまう。

「先に朝御飯だ!」
「お前を食べたい」
「私はご飯が食べたい!」
「……ヨーグルトなら」
「貴様!!」

 真顔で返すものだから相当我慢が効かないらしい。せめてもの抵抗と立てた足ですら割って入られ、隠す手段も失ってしまう。

「このまま抱かれろ」
「誰が……!」

 気分じゃない、理由なんてそれで十分だ。殴ってやろうと拳を握った時だった。突然窓から黒い物体が高速で飛んできたのは。

「ンニー!!」

 投げられたのは手ほどの大きさの傘だ。だが、先端を特攻隊長に顔面へと飛んでこられては大きさなんて関係ない。目の前の御馳走に夢中になっていたのが祟って、額へ勢いよくぶち当たったのだ。刺さらなかったのが奇跡とも言える。
 しばらく痛みに震えていたが、再び黒い流動体となってすごすごと姿を消すではないか。窓からよじ登ってきた小さい悪魔たちに、礼を言っていいのか怒ったほうがいいのか、複雑である。

「全く、出し抜こうとするからこうなるんです」

 やれやれと、幻想痛の残るこめかみ擦りながら、シーツを頭から被せられた。「一歩間違えばお前が犠牲になったはずだ」と口にしようとしたが、言葉にする元気もない。
我先にと、懲りずに薄布へと入り込もうとする2人は手で制し、とりあえず言うことがある。

「朝御飯、まだ?」

+END
++++
20.8.18

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