ててご | ナノ



晴れ姿を貴方に

※女体化
※新衣装設定
※魂移動的な、後天的


「あらまぁ似合ってるわぁ」
「この衣装、私も欲しいわ!」
「申し訳ございません。こちらは特注品でして」
「なら似たようなものを作ってくださる?」
「またの機会に合うお色で仕立てましょう、血の女王」
「いいわねぇ、ドレス。私も包帯を染色してみようかしら」
「私も……シスター服以外をもらえないかしら」

 女性とはマイペースで困った生き物だ。1人2人だと華やかではあるが、4人集まると姦しい。目の前で怒りに震える男がいようとも、腰へ、肩へとボディタッチをしては自分勝手な感想を述べてくる。貴族の定例会は、ここまで無礼な女性はいなかった。無遠慮で、強引で、怪力で。

「私は見世物じゃないぞ! 着せ替え人形にするな!」
「申し訳ありません。衣装はまだ一着のみとなっております」
「まだ!? 私はもういらないぞ!」
「え、いらないの? じゃあ私がほしいわ」
「ヴィオレッタが着るとなると、手間がかかりそう」

 きゃあきゃあと盛り上がる話に混ざる気にもなれない。ズンズンと脇を抜けて扉から出て行こうとすれば、不思議そうな10つの目が一点に集まり、使徒の猫が無邪気に足元にすり寄ってきた。

「ゲームのお時間はまだですが」
「部屋に戻る! 脱いだらまだ返す!」
「さっきもここで着替えたんでしょう?」
「あの時はナイチンゲール嬢しかいなかったから!」
「ここで着替えたらいいじゃないの」
「レディーの前で肌を晒せるわけないでしょう!」
「でも、今はめんこい女の子やろ?」

 どれだけ恨み言を連ねても、打開策にもなりはしない。あっけらかんと言い放つ芸者を睨みつけるが、カンラカンラと笑うだけ。花のように笑う彼女は何も悪くはないし、部外者たちを責めたところで元に戻ることもできない。
ジョゼフ=デソルニエーズ伯爵は男だった。今は違う。私が笑い者になっているのも、それもこれも、荘園の主人のせいだ!

 ことの発端は、秘書代わりのナイチンゲールが、懐かしい祖国の婦人のドレスを持ってきたことだ。あろうことか血の女王ではなく私に手渡してきたのだ。「女王陛下に渡せばいいのかな?」と尋ねれば「貴方の衣装です」と感情も鷹揚もない声で告げてきて。あろうことか、男である私に女性の服を充てがうなど屈辱的である!
魂1つあれば、立場も服も能力も変わる不思議な園だ。「体なんて、器にすぎません」と、荘園に来た時に第一声で告げられたのは記憶に新しい。この荘園には「不可能なんてことはない」。死人である者たちがハンターをやっているのだ、言い返す言葉は何もない。

「どうぞ。ご試着ください」
「強制なのか!」
「主人より承っております故」

 一体何を考えて男に女物を進めるのかはわからない。今度女装大会でも開くのだろうか。皮肉を込めて言ってやっても無感情な彼女からは、必要最低限の言葉以外は返ってこない。無言の圧力でただ見つめられると、とりあえずは従順なふりをしておくしかないと悟った。
おずおずと、明らかにサイズの合わないドレスへと袖を通すと、急に視界がブレた。痛みではない、まるで内部から引っ張られるような感覚に目を抑えると、ぐらりと世界が回った。立っている地面すら信じられなくなるような浮遊感は、地球が揺れているわけではない。写真家の世界だけが揺れているのだ。
静かに響く拍手の音で、目が覚めた。一体何が起きたのか理解する前に、感じたのは胸の重みである。縮んでしまった体と、丸くふくよかになった体型。確かめたくはないが、腰にはめられたコルセットは、己の筋肉が失われたという証拠。両手で掴めるほどの細さと、大きく突き出た丸い臀部。それに、女王よりは自重はしているが胸部の誇張された青と白の空の模したドレス。思わず悲鳴を上げそうになった口を抑えて、着ていた上着で上半身を隠しては青ざめてしまった。

「では、今日はこちらの衣装でお楽しみください」

 何を楽しめと言うのだ、何を!!
怒り狂い吐き出そうとした言葉は飲み込まれ、闇に溶けるように消えた彼女に深いため息が漏れた。



 ゲームなんて出る気はなかった。だが、急な棄権は品性を疑われるし主人に目をつけられかねない。この場所では、荘園の主が全て、それ以前に試合放棄はプライドが許さない。しかしサバイバーたちにこの姿を見られるのもゴメン被る。どうしたものかとヒールを地面に打ち付けていると、対戦相手の4人がぞろぞろと薄暗い控え室へと姿を現した。
一方的に姿が確認できる場所でよかった。それに、今日はついているらしい。悠々と周囲の声に耳を傾ける彼にターゲットを絞ると、無地の写真を投げつけてはマジックミラーに突き立てる。
他の3人は狙わない、姿を晒すのは1人だけ。この人ならきっと余計なことは言わないし、秘密は守ってくれるだろう。今日の獲物が決まった。
 だが、いざ4分の1を探し当てるとなれば難しい。気配を察知して見つけては相手を確認し、違う者ならば写真世界へと隠れる。その繰り返し。フィールドはただでさえ広いのだし、骨が折れるというものではない。他の者に見つかれば確実に笑い者にされて、サバイバーたちの間に広まってしまうだろう。私が何か悪いことをしただろうか、主人を怒らせるようなことをした覚えはないのだが、起こってしまったことを嘆いても仕方ない。今はこの状況をいかに打開するかである。
 次は当たりだろうか。勢いよく動くアンテナと、単調で止まることのないタイピング音。今までのたどたどしい動きとは違うから、これはもしかして。ゆっくりと背中からにじり寄ると、壁の裏から聞き耳を立ててみることにした。

『そっちはどうだ?』
「こちらは問題ないよ。ハンターの姿はない」
『油断すんな。相手はあのジョゼフだ。変なこと企んでいるに決まってる』
「はは。彼の特殊な戦術には毎度驚かせられるからね」

 やっと見つけた。周囲に目配せをすることなく、機械だけを見つける後ろ姿は機械が恋人と言っても過言ではない汚い囚人である。近づいても多少の物音では気がつかないとは、さすがの集中力か。顔を綻ばせて、サーベルを強く握りしめた。

『お前、アイツが来るといつも嬉しそうだよな』
「そうだね。嬉しい」
『俺はアイツが嫌いだな。ゲームでも頭を使うなんて面倒くせえよ』
「パズルのようで面白いじゃあないか」
『お偉い博士が考えることはわからねぇな』

 失笑混じりの声も、気にした様子はない。もうすでに解読に夢中になったようで、彼の皮肉にも返答がない。『何かあったら連絡しろよ』とだけ伝えると、通信機からの電子音も途絶えた。
訪れた静寂の中、響くのは回る機械の音と、放電する装置の音。言葉もなく一心不乱に打ち込む姿は、見ていても面白い。顔を覗かせて傍から眺めていると、カシャンと装置が止まる音がして彼が顔を上げた。青い目と、腫れぼったい紫の瞼。瞬きをせずに見つめていると、先に反応を示したのは囚人だった。

「わっ!」

 転びそうな勢いで駆け出すと、近くにある板を倒して影から様子を見てくる。まるで怯えた野生動物だ、兎でも見ている気持ちになってクスクス笑っていると、訝しげな表情で距離を取る。何も言葉を発することなく、動くこともせずに見つめる時間が過ぎる。ただ、この状況で聡明な彼は察してくれるのではないだろうか。淡い期待を込めて見つめていると、観念したように両手を上げたのは囚人である。

「そうか。女王かと思ったが……貴方だったね」

 食えない男だ。青い電撃を放つ鉄の輪は、いつでも臨戦態勢をとっている。彼の電極体質は予想以上のもので、本人は焦げはしないのにこちらには頭が真っ白になるくらいの衝撃が襲ってくる代物。
じりじりと距離を詰めると、相手も下がる。やっと壁に追い詰めた。あとは好きに料理するだと、お互いに目を光らせたところで、大きなため息を吐いたのは写真家だった。

「私で悪かったね」
「ドレスを着ているなんて思わないじゃないか」

 今日は、元から戦う気にはなれなかった。ため息をつきながら剣を細いベルトに帯刀すると、背を向けて反対側の壁へと背をつけた。値踏みをするようにゆっくりと近づいてはくるが、不用意な行動はしない。サバイバーの間では、攻撃をしてこない気の抜けたハンターのことを、優しい鬼「優鬼」と皮肉を込めて呼ぶらしい。
荘園の主人に睨まれようとも、今日はどう言われても心変わりはしない。強制された言われのない罰ゲーム中。この姿を他のサバイバーに晒すのも気が引けていたのだ。いつもは責め苦用に使う椅子に自ら座り込むと、手を後ろに組んだままゆっくりと近づいてくるのが見える。

「悪いとは言ってないさ。切られるのはのは御免被りたいけどね」

 戦意がない者には攻撃しない主義らしい。細心の注意を払いながらも近くの暗号解読に勤しみ始めた姿を眺め、頬杖をついた。
カタカタカタ。
手慣れたキーがバネを叩く音に少し瞼も降りてきた。座り心地の悪い椅子ではあるが、もとより小柄な体型にピッタリで眠気を誘う。眠るわけではない、そう言い聞かせて瞼を閉じると、陽気な声に妨害される。

「それは、新しい衣装?」
「そうだよ」
「女性物、だね」
「無理矢理着せられた。今日1日は脱げそうにはない」

 カンカン、カタカタ。
リズムを刻む無機質な箱を、子供のように目で見つめる彼。一体何が楽しいのかはわからないが、この薄汚れた博士はこのゲームに対しても協力的である。
写真家としては一方的に殴られるなんて御免被る。そんな趣味があるのかはわからないが、「囚人」という肩書きから、外の世界が楽しいのだろう。退屈だった牢獄と比べたら、さぞかしこのゲームは刺激的で創作意欲が擽られることだろう。

「性別も変わっているのは、その衣装のせい?」
「多分」
「どういう原理なのだろうか」
「知るわけないだろう。死者すら蘇り、魂を人形に移せるなんて芸当ができる主の力ではないのかな」

 主人の力については知るものはいない。それどころか顔すらまともに見たものはいないのだ。もし出会う機会があれば、真っ先に今日のことについて問い詰めてやる。そう小さな拳を握りしめた。

「ならば、衣装を脱げば元に戻れるのか。よかった」

 心なしか明るい声色に、眉を寄せる。心配されるいわれもないし、敵に情けをかけられるのも癪である。
余裕がなくなると、気の短いところがあるのは自覚済みだ。だが、あまりに嬉しそうにヘラリと笑う顔を見せられて、思わず息を飲んでしまった。

「あっ」

 撮らなければ。
写真家として、本能的に指が動いていた。近くのカメラを手繰り寄せては、パシャリと光で彼を包む。広がった写真世界への入り口は、綺麗に彼の笑顔を永遠のものとして切り取っていた。
悔しい。思ったよりもいい作品だ。無邪気で、楽しそうに、自然体に笑う被写体に出会えたのは、いつぶりだろうか。フィルムのように白黒の、生前の思い出を探ってみても答えはでない。最高の出来栄えが不服で狼狽していると、ゆっくりと宙に浮かぶ写真を見つめていた彼が呟いた。

「貴女のカメラを、借りてもいいかな?」
「どうするのかね」
「今の君を永遠に遺したい。今日だけじゃもったいないじゃないか」

 作品には、許可があるまで手をつけない。発明家らしい殊勝な考え方だ。キラキラとした、無邪気な目で言われたところで、答えなんて1つである。

「生憎、素人にカメラを触って欲しくない」
「それは残念」

 本当にそう思っているのかはわからないが、肩をすくめて見せては解読機の完了ボタンを押す。終了を意味する電気と、サバイバーとハンターの最終決戦の開始を示すサイレン。しかし、彼は走り出すそぶりもせずに、無謀にもハンターへと近づいてくるのだ。

「なら、今の貴女を目に焼き付けておこう」

 背もたれへと手がつかれ、上から影がさす。相手は仮の人形の体ではあるが、今の姿ではきっと身長は同じほどだろう。不愉快極まりないと、反射的に腹へと剣の柄をねじ込ませれば、呻き声を上げて座り込む。
だが、すぐによろめきながら立ち上がったと思えば、再び顔の真横に手を立てるのだ。

「貴方は頭がいい博士だと小耳に挟んだが、そうでもないらしい」
「そうかな。私は思ったこと、やりたいことしかやらないよ」

 笑いながら、照れ隠しに顔を隠す前髪をかきあげて、また無邪気に彼は笑う。
無礼にも頬を手で包み込み、品定めをするかのようにゆっくりと滑らせる。大の男をねじ伏せられる怪力は健在だ、いつだってこの馴れ馴れしい男は払いのけることはできる。だが、しなかった。真っ直ぐに見つめ返すと、近づいてきた彼の顔を隠すように目を閉じる。
待ち望んでいる熱は、降ってこない。焦れったくなって目を開こうとすると、耳元に熱い風が吹き込んでくる。「期待してくれているのかな」と。
 しっとりと、唇が手の甲を滑るまで時間はかからなかった。跪いて、一方的に向けられる単調な感情に眉を寄せる。優しく、ご機嫌を取るかのように、ゆっくりと味わうように。なんだか壊れ物として扱われているような気になり、ムカッ腹が立ってきた。
 私は男だ。女扱いされる謂れはない。
勢いよく頭を鷲掴みにすると、アイアンクローで乱暴に引き剥がす。痛みで呻く声が聞こえるが構いはしない。優位なのはどちらなのか、教え込んでやる必要があるのだから。

「……体はレディーでも、私は男。不愉快だ」
「他意はなかったんだ。不快にしたのなら申し訳ない」

 腰に手をかけ、抱き寄せられ、コルセットに締められた腰が痛んだ。それでも嫌な痛みではなく、ただの慣れない筋肉痛のようなもの。おとなしく
されるがままになるのは柄ではない。

「感情というものは、性別では測れないものじゃないか」
「わけのわからないことを」
「異性でも同性でも、やりたいと思えば口付けもするだろう?」
「悪趣味め」

 まるで姫のように扱われるのは癪だ。敬意を向けられようとも男なのだ、嬉しくもなんともない。脛を蹴り飛ばしてやれば、簡単にバランスを崩して顔面から土に体当たり。少しやりすぎただろうかとかがんで手を差し伸べれば、ヘラヘラと笑いながら頭をさする。
と、また通信機から電子音が響いたのだ。

『ルカさん、今どこにいるの?』
「ああ、すまない。写真家に追われているところだよ」
『大変なの! 今すぐ助けにいくの!』
「皆はゲートかな?」
『教会の南にいるの!』
「先に行ってくれ。ハッチが見えた」
『わ、わかったな』

 業務的に早口で伝え終えると、一方的に電源を落とすのが見えた。焦燥感を演じたのだろうが、乱れていない息から嘘だとすぐにバレそうではある。改めて手を掴んで引き上げようとすれば、顔を赤くして目をそらす。何事かと思えば、かがんだ拍子に胸元が開いたせいだろう。手に余る魅惑の谷間が無防備に尻込みして、逃げようとする初な視線があった。

「胸元が開きすぎている衣服は、なんとかするべきでは?」
「荘園の主の趣味だろう。私も露出の多い服は好かない」
「ふぅん。貴方の肌を拝めるのは今日だけになってしまうのか」
「言い方が気持ち悪いぞ」

 嫌悪感を露わにして距離をおけば、慌てて弁明しようとはするのだが、何を言われても「ムッツリ」というレッテルを変えるつもりはない。欲を全て知識に奪われたような印象があったのだが、色にも興味はあったらしい。

「欲情できるのか」
「うーん、男だからね」
「私にはわからない。鏡を見るのも怖気が走ると言うのに」
「それは、もったいない!」
「自分に欲情してどうするんだ」

 自分であるのに自分ではない。双子だと「別人だ」とお互いで認識できているからいいのだが、鏡だとそうはいかない。自分は男であるのに、そこに写るのは女。似合いたいとは思わないのだが、目の前に写る女にはぴったりの衣装。ちぐはぐで歪で、気持ちが悪い。いつもと違う日常が不快で眉を寄せていたのだが、彼にとっては違うらしい。
見知った人間の容姿が変わったところで何も感じないのだろうか。臆せずに無防備に近寄ってくると、頬に手を添えて微笑むのだ。

「いつも貴方を見ていたけれど、新鮮な貴方も素敵だ。デソルニエーズ伯爵」
「え」

 パシャリ。
カメラが鳴る軽快な音に目が覚めた。ああ、一体どんな顔をしていたのかもわからない。ただ、呆けて相手を凝視していると、満足そうに出てきた写真を見つめて、微笑むのだ。

「うん、いい顔だね」

 目尻を下げて真っ赤になり、唇を引き結ぶ令嬢。普段は恐ろしい怪物のような強さを持つ小綺麗な男なのだが、その面影はない。
まるで、男を知らない初々しい生娘だ。ダンスの誘いにすら戸惑い手を取りあぐねている、可愛らしい年相応なレディー。珍しい姿を写真の収めることができ、彼は満足そうだった。勝手に触るな、と言ったはずなのに御構い無しである。

「さて、ゲームの続きだ。私はこのまま逃げようと思うが、貴方はどうする?」
「そうだね。他の者が逃げてしまったのなら、腹いせに貴方だけでも引き止めるとしよう」
「ならば改めてゲーム開始だ」

 「隙あり」と駆け出す姿は、どこか幼い。純粋にこの理不尽なゲームを楽しむ者などいるわけはないのに、満面の笑みで泥を跳ねてはくるくる回るのだ。

「私が勝ったら、今の写真はもらおう」
「写真、でいいのか」
「貴重な一枚さ。私はこれがほしい」

 手の中にあったのは、不意打ちで撮られた不満げな女性の写った写真である。取り返そうと手を伸ばせば、窓枠を飛び越えて躱された。

「賭けをしようというのか。この私相手に」
「せっかくだからね。貴方は何が欲しい?」

 軽快な足取りで駆ける速さが、いつもと違う。今までは不真面目にやっていたのかと怒鳴りたくなったが、今はどうでもいいことだ。早く彼を捕まえなければ、彼の願いが成就してしまう。

「ならば、私も貴方の写真が……いや、勝った時に伝えよう」
「そうか、それは楽しみだ! 貴方の願いが聞けぬように頑張るとしよう!」

 写真を大切そうにポケットにしまうと、楽しそうに手袋をはめ直して中央の教会内へと消えていくのが見えた。
さすがにハンターとサバイバーは歩幅が違う。言われたわけでもないが、しばらくハンデを渡してから追うことにしよう。こちらも勝負に関して手を抜くつもりはないが、美学が優先事項である。目を閉じて瞑想をしてから、ふと瞼を上げて前を見据える。足跡は、もうない。
さて、こちらが勝ったら何を志望してやろうか。

「彼を、部屋にでも誘おう」

 お茶をして、語らい、ディナーを共にして、それから。多分この魔法は今日1日溶けそうにない。それならば開き直って楽しませてもらおうじゃないか。

「私が欲しいと言っても、くれてやったというのに……」

 サーベルを握り、いつも着用しているスカーフタイで胸元を隠す。無理をして露出をしたのはいいが、やはり落ち着かないし視線が気になって本気も出せない。愛用のカメラを手に取ると、被写体もいない空間の中に再び彼を写すために、シャッターをきった。

++++
20.8.10


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