いぬやしゃ | ナノ



ある少女の一日

※かごめがなんか腐ってる
※犬かご、殺→りん前提


ーーーーーー
 今日は旅もお休み。殺生丸さまが野原に連れていってくれたから、りんは阿吽とお花で冠を作ったの!
邪見さまはずっと殺生丸さまのお側にいたけど、ずっとそわそわしていたよ。殺生丸さまは寝ていたから、何しても怒られないのにね。
 いつもどこかに行っては、ずっと頑張ってる殺生丸さま。頭に花の冠をのせてあげたら、とっても似合ってたよ! とってもとっても綺麗で、怒ってた邪見さまもすぐ機嫌がよくなっちゃった。
起きたら冠をりんに被せてくれたの。すっごく嬉しかったよ!
ーーーーーー

 花柄のノートをゆっくりと閉じると、りんは息をついた。
手に持つのは、この時代には稀有である桃色の花が印刷されたリングノートと、シャープペンである。現代に住まう、かごめが手に入れたものであり、物覚えの早い子供はあっという間に使いこなしていた。筆の持ち方すら知らない上に文字もうまく書けないが、知っている文字と絵だけで白い紙を埋めていく。

「でーきた!」
「何をやっとる?」

 不思議そうに彼女の持ち物を覗き込む阿吽と、やってきた小妖怪にりんは顔を輝かせた。

「えっとね、かごめさまにもらった『のーと』に日記を書いてるの!」

 嬉しそうに花柄のノートを見せるりんに、目を見開いた。

「ほぉ……変わった紙の束じゃな。それに筆かこれは?」
「しゃーぺんって言ってたよ?」
「しゃーぺん?」

 かごめの現代グッズは、未だ彼女らでは理解ができないものばかり。しばらく互いに首を傾げていろんな角度から眺めてはいたが。

「んー、またかごめ様に聞こう!」

 すぐ諦め、満面の笑みを浮かべた。邪見はまだ納得がいかない表情を浮かべていたが、いくら観察したところで答えが出るものではない。小さなカラクリを押したことで飛び出した黒鉛に驚き、人頭杖を構える始末である。諦める他ない。

「して、一体何を書いてるのだ?」
「人に見せちゃダメって言ってたもん!」
「いいじゃろ別に」

 りんは膨れっ面でノートを掴み、胸に抱き込む。いくら守ったところで、

「ぷらいばしーの侵害だって!」
「ぷらいばしー?」

 聞き慣れない言葉を聞いた邪見は更に首を傾げ、意味はわかっていないりんも同じく首をかしげる。かごめの言う現代語に2人で唸っていると、悠々と周囲の様子を探ってきた主人が帰ってきた。

「何をしている」
「せ、殺生丸様! りんの奴めが日記を書いていて、見せようとしないのです!」

 もしかして、ただの寝起きの散歩だったのだろうか。少しふわふわとした声音であるが、威圧感を感じるのは彼の気品がなせる技だろう。慌てて平伏する召使いを見下ろして、嬉しそうに見上げてくる少女を見比べた。

「無理強いしてやるな」
「は、はいっ!」

 りんには悉く甘い大妖怪である。元気に跳ねる髪を優しく撫でると、見晴らしのいい大きな岩の上に座り込んだ。

「殺生丸さま、ありがとう!」
「耳障り故に止めたまでだ」

 元気一杯に頭を下げるが、帰ってくる言葉は静かで落ち着きはらっている。だが、心なしか機嫌がいいことに少女は気づいているのだ。そんな優しい主に微笑み、阿吽の背によじ登った。



 次の日は、朝から移動だった。眠い目をこすりながら起床をしようとはするのだが、阿吽の規則正しい足踏みに揺られて、再び夢の中へと戻されそうになってしまう。
小さな手で頬を張ると、「無理をするな」と優しい言葉が投げかけられる。
最前列を進む殺生丸に邪見、のそのそ後ろを歩く阿吽だったが、ピタリと先頭が止まることで行進が滞った。

「殺生丸様?」

 邪見が下から様子を伺うと、切れ長の目が細まった。自分のせいかと思って飛び退いたが、どうやら違うらしい。急に早歩きになった主人に追従すると、前方にたむろしている人影たちが見えてきたのだ。
見覚えのある、車輪のついた異国の馬と、男1人と女2人。人の目でも確認ができるようになったところで、少女の表情が明るくなった。

「あ、かごめさまたちだ!」

 りんの嬉しそうな声。阿吽からピョイと飛び降りて駆け寄った。大手を振って駆け寄ってくる少女に気がついた一行は、両手を広げて迎え入れる。

「りんちゃん! 元気そうね」
「うん! 殺生丸さまと邪見さまと阿吽がいるから!」

 きゃあきゃあと盛り上がる女性陣は、すっかり仲良しである。りんを妹のようにねこっ可愛がるかごめと珊瑚に、3人に撫で回される七宝と雲母。微笑ましい女たちとは裏腹に、蚊帳の外の様子は。

「奇遇ですね兄上様。相変わらずお美しい……」
「相変わらず酔狂だな法師。相手をしてくれる女がおらぬのか」
「これは手厳しいお言葉……私は本気ですよ?」
「ぬかせ」

 男たちは至極微妙な距離感である。歯の浮くような台詞を投げかける弥勒であるが、歯牙にもかけられていない状態。美しい花には棘があるとはよくいったもの。何度声をかけようとも、美しい妖怪は振り向くそぶりはない。
 そこでふと違和感を感じて周囲を見回した。何か足りない。こう、赤くて、独特の匂いで、銀色の犬が。

「あの煩いのはどうした」
「犬夜叉は水を探しに。心配ですか?」
「寝言は寝て言え」

 他の男を気にかける姿に、口をへの字に結ぶ弥勒であるが、殺生丸は周囲を見回して鼻を動かすのみ。北東に見知った強い匂いを感じ、ふらりと足を向けると慌てて邪見が駆け寄ってきた。

「殺生丸様、どちらへ!?」
「すぐ戻る。しばらくりんを見ていろ」
「犬夜叉を探しにですか?」
「違う。ここは騒がしいからな」

 2人の怒気に似た視線を避わし、楽しげなりんを一瞥して鬱蒼とした森へと歩を進めた。慌てて邪見が後を追おうとしたところで、蛇に睨まれた蛙のどこく動けなくなる。「1人にしろ」と無言の圧力に負け、弥勒も取り残されてしまった。腹いせに、べそをかく小妖怪に拳骨をお見舞いしてやった。
 一方そのころの女性陣は。

「りんちゃんは殺生丸のところで何やってるの?」
「阿吽と邪見さまと遊んでるよ。あとは殺生丸さまと一緒!」
「殺生丸が怖くないのか?」
「殺生丸さまは優しいし、可愛いもん!」
「「「可愛い!?」」」

 先ほどから妖怪と共に行動している、年端もいかない少女の話を心配げに聞いていたのだが、発言に驚かされっぱなしである。
もしかして、怖い目に遭っているのではないかと危惧していたのだが「ご飯は畑でとった野菜と、お肉は殺生丸さまがくれるよ」「困ったら、邪見さまが助けてくれるよ」「いつも阿吽がいるから寂しくないよ」と曇りのない笑顔で告げるのだ。

「朝に寝惚けてる顔は可愛いし、かごめさまからもらったもを見たとき、こう、くりくりしてる目も可愛いの!」
「あの殺生丸が……」
「意外じゃの……」

 いつも冷淡に犬夜叉を追い払う姿を見ていると、本当に同一人物なのかも疑わしい話である。珊瑚と七宝が顔を見合わせて目をぱちくりさせ、雲母が「キュウ」とくぐもった声で鳴いた。
初めは急に襲いかかってきた、いけ好かない青年だったのに。改めて姿を確認しようと、姿が見えないことに気がついた。

「あれ、その殺生丸は?」
「本当だ。どこ行っちゃったんだろう」

 不安になってちょろちょろと動き回るりんに、邪見が慌てて駆け寄り裾を引く。

「殺生丸様なら散歩じゃ。待っとれ」

 いつものりんならば、おとなしく頷いた。だが、彼の話をしていたことで無性に会いたくなってしまったのだ。決心した顔で頷くと、邪見から着物の裾を取り戻して。

「私、今日は探しに行く!」
「待てと言うのがわからんのか! このままじゃワシが怒られ」
「まぁまぁ私も行くから、ね!」

 かごめがずいっと前へ出て諌めるが、納得いくものではない。未だにギャアギャアと騒ぐ小姓を脳天に、再び弥勒の拳が炸裂した。どうやらこちらも機嫌がよろしくないようだ。
姿を消したと思われる森を見て、不安になったのだろう。人間の子供がいるし、妖怪が出た時は1人でも多いほうがいい。珊瑚が飛来骨を背負うと、そわそわとやってきた。

「じゃあ私も……」
「珊瑚ちゃんは待ってて。大勢で行くと追い返される可能性が高くなるわ」

 だが、かごめの力強い言葉に気圧されてしまった。特に、爛々と煌めいているかごめの目に、だ。
弥勒と、虐められている邪見を放っておくのも酷な話。ひとまず雲母をお供に、ということで納得していざ出発。こうしてりんは阿吽に、かごめは雲母に跨がり森へ入ったのだった。
 この辺りは大きな妖怪の気配もなく、木々が生い茂るだけ。人が入った後はないが、動物の爪の跡がいくつかの幹にあり、奥へと続いている。
人の手ほどの大きさである為、これが犬の兄弟のものと見て間違いはないだろう。

「殺生丸さま、どこかなー?」
「まだ遠くへは行ってない筈だわ」

 妖怪の背に掴まり空を行くと、見つけた。森の中を優雅に歩く、毛皮をまとった長身の男の姿を。

「いた! 殺生丸だわ!」
「殺生丸さー」

 大声を出して名を呼ぼうとするりんに、口の前で指を立てて静寂を促す。咄嗟に口を抑えた素直な少女に微笑むと、ちょっと離れたの繁みに静かに降りたった。

「りんちゃんも、普段殺生丸が何をしてるのか、気にならない?」
「うん、気になる!」
「なら、様子を見ましょ」

 姿が黙認できるほどの距離の茂みに隠れたのだが、振り返ったのは気が付いたからだろうか。すぐさま前を見つめると、再び進行を開始したことに安堵の息をつくと、ふいにかごめが周囲へと視線を走らせた。

「アイツ、どこにいったのかしら……せっかくお兄さんがきてるのに」
「?」

 ブツブツ文句を言うかごめだが、りんは首を傾げるばかり。アイツ、とは一体誰なのだろうか。尋ねようとした瞬間に足が止まり、自然の風とは違う音に木々が揺れた。

「殺生丸ー!」

 前方から現れたのはかごめ達の一行中心、犬夜叉である。嬉々とした声を張り上げては勢いよく駆け寄ってきた。そのまま抱きつこうと両腕を広げていたのだが、冷たい視線と不機嫌そうな表情で、難なくとびすさってしまった。すまし顔で砂埃を払う姿を見て唇を尖らせながら、だが犬夜叉には反省の色はなく楽しそうである。

「久しぶりだな! もしかして会いにきてくれたのか?」
「ぬかせ。ただの散歩だ」
「チェッ。会いに来てくれたかと思ったのによぉ……。まぁお前、だもんな」

 冷淡な妖怪を尻目に、半妖は笑顔を絶やさない。肩を勢いよく叩けば、容赦無く抓られる。それでも満面の笑みである。
仲の良いと言えない空気ではあるが、それでも自然と身を寄せ合う兄弟にりんはキョトンと首を傾げていた。
そして、横にいるかごめは何だか嬉しそうであるのもわからない。喧嘩ばかりだった彼らが仲良く並んでいる姿に、喜んでいるのだろうか。
そんな犬の兄弟たちを、身を乗り出して草陰から見守る2人だったが、突然金の目がこちらを向いて光り、ぎょっとした。

「かごめ、ホラよ」

 いきなりペットボトルが放物線絵を描きながらも飛んできたことで、慌てて立ち上がったかごめがなんとか抱えるようにして受け止める。
きっと居場所はとっくの昔に匂いでバレていたのだろうか、改めて視線が集まると居心地の悪さを感じるものでる。

「危ないじゃない!」
「ケッ。覗き見なんて悪趣味な真似した罰だ」
「何よそれ! 少しくらいいいじゃない!」

 喧嘩というよりは和やかな言い合いに、りんは朗らかな気持ちになる。喧嘩するほど仲がいいとはいうが、殺生丸と邪見のやりとりしか見てこなかったりんにとって、おとなしい光景だと思ってしまう。どつきどつかれではあるが、きっと主人は照れ隠しをしているだけで、仲がいい証だと思っている。そうに違いない。

「いいからお前ら帰れ!」
「私も2人が仲良くしてるか心配なのよ!」
「別にお前には関係ねーだろ!」
「関係ないことない! 殺生丸が逃げないのが珍しいから見守るだけ! 何もしないし!」

 話題の中心人物といえば、喧騒に全く興味がない様子で、りんの元へとやってきては頭を撫でているだけだ。澄ました無表情から感情は読み取れないが、りんにはかすかに口角が上がったのが見てとれた。主人は怒ってはいないようで、久しぶりに構ってくれている。嬉しくなって背伸びをしては、「もっと撫でてくれ」と意思表示をすれば、仕方がないと髪へ指を通しては指を絡める。
それに反応したのが、かごめである。素早く背中の黄色い鞄に手を詰めると犬夜叉が距離を詰めてきた。

「テメェはいつも邪魔しやがって……手に隠してる『かめら』を渡しやがれ」
「まだ何も撮ってないのに!」
「人の兄貴を勝手に撮るんじゃねぇ!」

 ひったくるようにカメラを奪い、犬夜叉は懐に入れて殺生丸の腕を引く。
目を見開きながらも大人しくついてくるが、名残惜しそうにりんを振り返っている。少女もまだ撫でて欲しかったと不満顔であるが、対する私物を取られた巫女はご立腹である。

「あ、逃げた! 追いかけるわよ、りんちゃん!」
「うん!」

 ムキになるかごめとは裏腹に、構ってもらえたりんは半分満足していた。2人が仲良くしているならば、邪魔をしなくてもいいのではないか。そんな言葉を燃えているかごめに伝える勇気は、少女にはなかった。
 欠伸を漏らす雲母と阿吽を急がせ、更に奥へと進む。自分たちは人間だから鼻は効かない。だから雲母と阿吽が感じる妖気が頼りなのだ。しかし。

「見失ったわね……」

 周囲を見回しながら、不安げに鳴く2匹の声に、行進は止まってしまった。悔しそうに呟くかごめと、2匹を慰めるりん。嬉しそうに頭を擦り付けてくるものだから、勢いに気圧されて尻餅をついてしい、かごめに抱き起こされる。
 しばらく妖怪たちとじゃれあい、木の実を齧りと駆け回っていた。疲れて雲母の背に顔を埋めていると、物思いにふけっていたかごめが手をポン、と叩いた。

「そうだわ。りんちゃん、耳塞いでてくれる?」
「わかった!」

 一体何をするのかはわからないが、言われたように耳を塞ぎ、目も瞑ると息を吸い込む音がした。

「お座り―――――――――っっっ!」

 バキンッ!
遠くから枝が折れるような音がして、鳥たちが驚き飛び上がる。何が起きたかはわからないが、かごめは満足した表情で驚き毛を逆立てる化け猫の背に飛び乗った。

「よし、こっちね」
「かごめさまの声スゴーい!」
「伊達にいつも叫んでないわ。じゃあ急ぎましょ!」

 急いて音源へと向かう一行であるが、近くにつれて人影が見えてきた。
内緒話でもしているのだろうか。妙に距離の近い2人に疑問を浮かべていたが、近づいてわかった。

「んっ……」

 木の幹に押し付けられて、唇を拭う主の姿。整えられた髪は乱れて、紅を塗ったかのように赤い頬は、ついこちらも紅潮してしまうほど。
かごめは興奮気味で予備のカメラを取り出そうとして、取り落としてしまうほど。
 ゆっくりと開かれた目が見開かれ、りんと視線が合った途端抵抗が始まる。腹を蹴り、背中を引っ掻きと、まるで駄々をこねているかのような粗雑な暴れ方。不満げだが、これ以上鳩尾を蹴られては敵わない、とおとなしく体を離して振り返った。

「何だよ」
「りんが……っ」
「いいじゃねえか」

 耳元で何かを囁いたかと思えば、バチンと甲高い音が響きわたる。本日2度目の音は、周囲の動物たちおも驚き、逃げ去って行った。

ーーーーーーーーー
今日はかごめさまに会ったの。
一緒にいなくなった殺生丸さまを探しに行ったら、殺生丸さまと犬夜叉さまがいたの。
殺生丸さまは、犬夜叉さまの話をすると怒るけど、とても仲がよさそうに口を吸っていたよ。
確か、男の人と女の人がやるものだけど、殺生丸さまは女の人みたいに綺麗だもんね!
それに殺生丸さま、真っ赤になって可愛かったよ! りんも今度やってみようかな?
ーーーーーーーーー




※犬夜叉side

 殺生丸の手を引いて、やってきたのは大きな老木の上。
この辺りは群生する木々が多く、空すら満足に見えない場所である。見通しは悪いが、犬の妖怪である兄弟には何の問題もない。

「ここまでくればいいだろ」

 追手がいないか周囲を見回し、いないとわかっても少し戻っては影を確認し。嗅覚と視覚、聴覚をふんだんに使って、大丈夫とわかれば傍らに戻ってきては抱きついてきた。
いくら耳元で不機嫌な低いな声が響いても御構い無しだ。

「離せ」
「ついてきてそれかよ。同意してるから来たんだろ?」

 木の幹に押し付けて男らしく犬歯を見せる笑みから、目線をそらして頬を桃色に染める。
確かに、最近顔を見ていなかったから見にきた。だが、情欲が溜まっていたわけではない。それでもこんなにまっすぐに、素直にぶつけられると火照ってしまうというものだ。木に押し付けられたところで、抵抗する気も失せてしまった。
 半妖なれど馬鹿力には自信はあるし、殺生丸は隻腕だ。それに、自由である右腕を振りかざそうとしないのは、ただの照れ隠し。ゆっくりと端正な顔に近づき、薄く開かれて濡れた唇。色めかしい柔らかい果実に、ゆっくりと舌を這わせれば肩が強張り薄く息が吐き出される。

「如何わしい真似をするな」
「どうしてほしいか、お前の口から聞きてぇ」
「悪趣味め」

 色白な頬を舐めては耳を食み、情欲を掻き立てようとしているがそうはいかない。
叩いて躾け、目を見て「ならぬ」と叱ろうが我関せず。まるで求愛でもするかのようにすり寄ってくるものだから、仕方ないと聞こえよがしに息を吐いた。
望みを叶えてやれば、おとなしくなるのだろうか。肩を叩いて視線を合わせ、ゆっくり目を閉じてやれば、面白いほどに肌が赤らみ挙動不審になる。
そのまま引き寄せて熱をぶつけるようとした時だった。

「お座り―――――――――っっっ!」
「へぶっ!」

 急に首の数珠に引かれ、そのまま地面に引き寄せられた。手を離して腕の中から抜け出すと、バキンと重々しい音を立てて、木の幹へと熱烈な接吻をしているではないか。確か、巫女の生まれ変わりである彼女の言霊の力である。抵抗もできずに伸びている弟を哀れと思うと同時に、間の抜けた此奴のどこがいいのかと心配になってしまった。

「……間抜けな声だ」

 呆れながらも、傍らに近づき小突いてやる。半妖でしかも丈夫な彼だ。死ぬどころか怪我一つない。だが、なかなか頭を上げないところを見ると、伸びてしまっているのかもしれない。時間を割くのも勿体ないと、待ち人の気配を探る。

「寝ているなら私は戻るぞ」

 大股で通り過ぎようとすれば、まるで死者が蘇るかのように足を捕まれて腰へと腕が巻きついた。
目が覚めていたのなら心配はないだろう。天然に、冷静な思想を巡らせて見下ろしていれば、そのまま引き倒されて許可もなく口付けられた。
別に抵抗する気も起きないのだが、見知った匂いが近づいてくる。これは、りんと巫女の匂いである。
「童女の前で何をする!」と肩を引っ掻いたところで、挑戦的な金の目が光、更に深く舌までも入り込んでくる。まずい。このままでは流されてしまう。
ゆっくりと近づいてくる2人が、何をしているのか視認するより前に、本気で腹に蹴りを入れることで離れることに成功したが、不満な表情が全面に出ている。

「何だよ」
「りんが……っ」
「いいじゃねえか。お前の可愛いところ、見せつけてやろうぜ……」

 自分は気にしない、と着物に手をかけた瞬間。
唐突に顔に衝撃が走った。容赦躊躇いなく叩かれたらしい。おまけに人の揉み上げを乱暴に掴むと、紐代わりにして体制を保つと、体を起こしたのだ。
青年の体躯である、重いに決まっている。首にかかる鋭い痛みに目を見開くが、何事もなかったかのようにりんと阿吽を連れて背を向けられた。
 何が起きたのか、一瞬理解はできなかったが、彼の後ろ姿を見つめているとゆっくりと時が動き出すように痛みが湧き上がってくる。

「痛ぇー!」

 顔の痛みと髪の痛み。おまけに先ほど叩きつけられた額の痛みが一斉に襲いかかってきて、どこに苦悶の声をあげればいいのかもわからない。悶えていると、傍らに立つかごめが、絆創膏なる不思議な布を当てがい、止血を手伝ってくれた。

「ん。ありがとよ」
「バカねぇ、自業自得よ。情操教育上悪いでしょ? あ、次は写真撮るから言いなさい」
「お前、浮気だって騒がねぇのかよ」
「義兄さんが綺麗なのは確かだし、これは許すわ。ファイト!」

 犬夜叉はかごめが初めて奈落より得体の知れないと思えたのだった。

+END

++++
犬かご < 殺りんが好きです。
2人がちゃんとくっつくのは、2人が各々結婚して妻と一生添い遂げてから、がいいですそれまではただの不倫です

09.1
修正20.5.20

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