しんげき | ナノ



小さい大人

一回りも年下で、新兵である部下に告白された。

恐怖に駆られながらも顔は真っ赤で、必死に言葉を紡ぐ姿は可愛らしくもあり、愉快でもあった。
エレンのことは気に入っている。嫌いではない。しかし、"好きか"と問われてはノーである。至ってノーマルであるし、男を掘る趣味もない、別段どうにかなりたいわけでもない。
しかし告白以来なにもなく、前より距離があることが酷く心を騒がせた。


「おい」

1日が終わった途端に逃げ出した背中を、ドスの利いた声が呼び止める。それでも図太い精神は止まらず部屋を目指すのが、また神経を逆撫でした。

「無視かよ。いい度胸だなオイ」

兵長の座はだてじゃない。素早く首根っこをひっつかんで壁へと叩きつけると、ボロい土の壁はパラパラと埃を落とす。お構いなしに胸ぐらを締め上げると、緑の目が見開かれた。

「テメェ、俺の事を好きっつったろ」

質問にしては恐ろしい地を這う声は、ただエレンの恐怖を助長させた。逃げようと体を捩れば、足で塞いで邪魔をする。しばらくもがいていたが、締め上げるとすぐにおとなしくはなった。

「そ、そうですけど…」
「枯れたジジイかてめえ」
「いや、どうしてそうなるんですか」

男のくせにしどろもどろなのがまた神経を逆なでする。顔を近づけてガンをたれると、遠くからエレンの名前が聞こえてきた。

「おーい! なにかトラブル……って、この小さいのはリヴァイか」

メガネをかけ直すハンジのイヤミという挨拶と同時に、無理矢理引き剥がされてしまう。その一瞬で逃げ出したエレンに舌打ちをすれば、頭に本の制裁を受けた。

「もー。いい年したオッサンが新兵を虐めるなんて」
「そんなんじゃねえよ」

興味のなさそうな返事をしながらも、詮索の視線が突き刺さる。睨み返せば「怖い怖い」とおどけ、冷静な顔に戻った。

「最近よく一緒にいるけどさ。リヴァイはエレンのこと、どう思ってるの?」
「お前にはクソほども関係ねえだろ」
「エレンのこと、好きなんだろう?」

一番知られたくないハンジに知られているとは、血の気が引いた。無意識に目線を逸らすが、研究者の目に冷や汗が流れる。もったいぶった沈黙を向けられるくらいなら、いっそ気持ちが悪いと罵られたほうが気が楽だと唇を噛み締めた。

「あれ、図星? まるで恋人に相手にされず、拗ねてるみたいだったから」
「ちっ。カマかけかよ」
「確信はしてたけどね」

ハンジはエレンの背中だけを見つめていた。リヴァイに向けるものとは違う、優しい顔に怒りが湧き上がる。

「しつこいから妥協しただけだ。部下以外のなんでもねえよ」
「嘘」

鋭く睨みつけるが、ハンジはくすくす笑う。手のひらの上で踊らされていたと気づいた時には顔は真っ赤になっていた。

「認めたくないだけだろう?」
「うるせえな。ほしけりゃくれてやる」

そっけない返事と胡散臭いものを見る目。怖じ気ずに睨み返せば深くイヤミな溜め息が聞こえてきた。

「あの子、最近凛々しくなったよね」
「まだケツの青いガキだ」
「いい男だって、女子に人気なんだよ」
「アイツのこと知らねえくせに」
「じゃあ貴方はエレンの何を知っているの?」

ハンジの目はまっすぐだった。詰問されて驚くリヴァイに、ハンジは怒りすら孕んだ顔をする。

「貴方はエレンの何?」
「上司だろ」
「上司は部下にいちいち嫉妬なんかしないね」
「嫉妬なんざしてねえ」

これは最早意地だ。意地でも答えは言ってやらない、とハンジを睨みつける。わざとらしい溜め息に呆れた目はもうなれた。
本当はわかっていた。それでもプライドが抵抗しているのだ。

「いい加減に素直にならないと、本当に私がもらっちゃうよ」

素っ気なく歩き去るハンジが見えなくなり、壁にもたれかかり頭を抑える。背中に当たるざらざらした感覚も、落ちてくる埃も気にしてられなかった。

最初からわかっていた。それでも認めたらいけない気がしていた。真っ直ぐな好意は心地がいい。あの殺意と決意の入り混じる目も好きだ。エレンのことは決して嫌いでもなければ、好きというわけでもない。

そんなのは嘘だ。

幼なじみや、同期の女と話しているのと見る度、イライラして無性に引き剥がしたくなる。
近くにいないだけで、目で追ってしまう。
巨人化実験の時も細心の注意を払ってしまう。
願わくば、この手にかけたくないと日々願ってしまう。

(くそ、自分の気持ちなんざ、とっくに気づいてるんだよ)

いつからこんなにも臆病になってしまったのだろう。誰かに咎められたわけでもないが、小さく逞しい腕さえ掴めない。深いため息をつきながらも体は壁を伝って地に落ちていく。
誰もいない廊下に後悔と悪態だけが広がっていく。

+END

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16.5.4

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