しんげき | ナノ



四月バカと恋愛音痴と

※時間軸は駆逐されました


「好きだ」

唐突もない言葉に、眼前の男は目を瞬かせるだけだった。

すれ違い様、誰が通るかわからない廊下、ムードもなにもない日常の挨拶。
朝食後から昼食まで続いていた清掃が終わり、廊下ですれ違った。「おつかれさまです」と部下たちから労いの挨拶はいつも通り短い言葉で返しておいた。何人かと言葉を交わして廊下を歩いていると、二人が談笑しながら歩いてくるのが見えた。

「いいだろう腕の一本二本くらい。また生えてくるし、生えてくる過程をこの目で見たいし、サンプルも欲しいし!」
「いや、切られたら痛いんスけど」
「これも人類の為だと思って!」
「アンタ“だけ“のためじゃないのか......」

鼻息荒くいつもより興奮した様子の奇行種はおいておこう、いつも通りだ。それよりも振り回されている隣の少年から視線を離さず、通りすぎざまに声をかけた。

「なにか用ですか?」

驚いたような、怖がるような目はもその奥で煮えたぎる、抑えきれない殺意も相変わらずだ。慣れてしまえばその視線すら心地よく体に突き刺さる。不思議そうな表情で足を止めた二人分の視線を一身に浴びながら、少年へとまっすぐ告げる。「好きだ」と。
強い輝きを帯びた目が、幼く丸くなる様は見ていて面白い。赤くなり青くなりながら慌てふためき、横の奇行種へと救済を求めると、「なるほどね」と声が上がる。

「そうか。今日はエイプリルフールだ」

わかっている奴がいれば話が早い。「そういうことだ」と顔を歪めるとあからさまな安堵のため息。「兵長も冗談なんて言うんですね」と赤くなった顔で渇いた笑いをあげている。

「顔、真っ赤だよ」
「そ、そうですか?」
「憧れの人に好きって言われて照れてるのかなー?」
「そっ! そんなんじゃ......ありますけど、そういう意味ではっ」

見るからに慌てる少年の頭を撫で回す奇行種を言葉だけで諌めながら、二人の横を通りすぎる。肩を軽く叩けば慌てた声で呼び止められた。

「俺も好きです!」

嘘が下手な目で言われたら何も言い返せなくなる。「そうか」と短く返すと、また同じペースで廊下を歩き出した。

「私は? 私のことは?」
「えっ、あ、ごめんなさい怖いです」
「怖いの反対は優しいってことかな?」
「いや、これは本音ですけど......」
「照れなくてもいいのにー」

二人のじゃれる声がどんどん小さくなっていく。できればあの場所でしばらく談笑に加わっていたかったが、この顔を隠すためならしょうがない。
嘘に紛れてしか言えない心の内が伝わったかは知らない。
伝える気のなかった想いはどうなったか、四月バカに振り回される恋愛オンチのお話。

+END

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初書きエレリ

16.4.1

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