パニック!モンスター編
Eモンスター編
※擬人化注意
ここはデュエルモンスターズ界。
ペガサスの考案したデュエルモンスターたちが住まう、現実とは裏の世界。
おとぎ話のような話だが、現にこの世界は存在してモンスターたちが住まっている。
絵本のような風景の、広い野原に広大な自然。いつも平和な世界で、マナことブラックマジシャンガールは散歩をしていた。
「んーっ!気持ちいい!」
気持ちよさそうに自然の空気を吸い込み、伸びたところで杖に軽く叩かれた。ブラックマジシャンである。
「ただの休憩だからな。しばらく散歩をしたら、修行に戻るぞ。」
「はぁい…」
厳しい師匠に唇を尖らせて改めて周りを見回す。先程は浮いた気持ちで明るく見えていた景色も、沈んだ心だと単調なものにしか見えない。しかし、その中でも不思議な物を見つけた。
「お師匠様、あれあれっ!」
「なんだガール。」
ブラックマジシャンガールが指さした先を追うと、原っぱが続いているはずの丘の一カ所だけ毛皮が密集していた。
「クリボーとスケープゴートか。何かあったのだろうか?」
いつも自由気ままで、楽しいことが好きな彼らは一カ所に集まるのは珍しい。目を細めてその毛玉を見るが、何かに群がっているように見える。何だか何時もより嬉しそにはしゃいでいる。一体何があるのだろう?
「あ、私見てきまーす。」
「そのまま逃げるなよ。」
「わ、わかってますって!」
ガールが逃げるように飛んでいき、毛玉の群れを覗き込む。そして驚いた顔をしたと思えば、言い争いを始めた。いつも仲がいいのに珍しい。見張りをかねて眺めていると、やや乱暴にガールが毛玉の群れから誰かを抱き寄せた。
全身は見えないが、見覚えのある髪型がガールの腕から覗く。
「あの星のような髪型、確か…。マスター!?」
ブラックマジシャンが駆け出そうとした時、喧騒が始まった。
「クリッ!クリクリ!」
「ダメですっ!ファラオが困ってるでしょ!」
その人物を奪え返そうと、ガールに飛びつき時にはタックルまでするクリボー。いつもな温厚で争いが嫌いなはずなのに珍しい。しかしガールも負けず劣らず抱擁を強くして守る。その強さに、苦しげに腕が伸びてガールの肩を叩いた。
「マナ、俺はもう"ファラオ"じゃないんだが…っ!」
「じゃあ王子がいいですか?」
どうあっても改める気はないらしい。
そんなガールにため息をつく人物に、クリボーとスケープゴートがガールの腕越ししがみついた。絶対諦めない、と言わんばかりの渋とさにガールはぷりぷり怒るしかない。
「クリボーもスケープゴートもしつこいですよっ!」
終わりの見えない戦いを制したのは、ブラックマジシャンである。呆れた顔で両者に分けはいると対象を素早く抱き上げる。流石のガールも師匠には逆らえず目をぱちくりさせるのみだ。
「クリクリっ!」
「メー!メーメー!!」
「お師匠様ズルいですっ!」
「お前たち、静かにしろ!」
ブラックマジシャンの余裕のない怒声に、1人と5匹は縮こまるしかない。やっと静かになったと改めて救出した腕の中の相手を見る。間違いない。この独特な髪型と意志の強い目はファラオである、アテムである。
「大丈夫ですかマスター?どうやってここに入ってきたのかは存じませ―――!?」
「マハード…久しぶり……だな。」
怖ず怖ずと挨拶をするアテムの声は、きっとブラックマジシャンには届いていないだろう。それもそのはず。
今ブラックマジシャンの気は1点に集中していた。小さくも不自然に膨らんだ胸に。
「ふ、服はどうなさったのです!?それにそのお体!女性のものではありませんか!」
「俺もどういう訳かわからないが…帰ってきたらこうなってたんだ。あまりジロジロ見ないでくれ…」
「も、申し訳ありません…っ」
謝りつつも、真っ赤になりながら胸や裸体をさ迷う視線が逸らされることはない。一向に注がれ続ける視線に、アテムは体、特に胸を隠すよう肩を抱き丸くなった。そこへ割り込むのはこの場の女性であるガールだ。
「お師匠様!レディの肌をジロジロ見るのは失礼ですよっ!」
割り込んだガールは、ここぞとばかりにマジシャンからアテムを奪い返し、隠すように抱き寄せる。オマケに体を隠すようにクリボーとスケープゴートが集まってきて、瞬く間にアテムは顔以外が隠されてしまった。
皆がブラックマジシャンを睨んでいるが、彼は冤罪である。
「さ。着替えましょうか、王子♪」
邪魔者はいなくなったと言わんばかりの清々しい笑顔のガールにアテムは少したじろいだ。
「いや、服なんてないぜ。」
「大丈夫ですよー。服なら私のものをお貸ししますから!」
杖を軽く振ると、ガールの着ているものと同じ洋服が現れた。胸元を誇張するデザインに気が引けるアテムだったが、ガールの有無を言わせぬ押しに渋々折れたのだった。
「言っときますが、覗いちゃダメですよ!?」
珍しくガールの言うことに素直な首肯で返すブラックマジシャン。顔は真っ赤であり、アテムのガールコスプレに興奮している様子だ。
ニコニコと上機嫌なガールの顔は、毛玉の壁に消えていった。
*
しばらく時間が経ち、ガールの満足げな声があがった。
「でーきた!やっぱり王子は可愛いです〜っ!お師匠様、変な気起こさないで下さいね♪!」
それはそれは楽しそうにアテムの腕を引くガールに、まだ対面していないアテムもブラックマジシャンも真っ赤である。普段は堅物であるブラックマジシャンが、アテムが出てくるのを仰視しているのが、また異端である。
「ガール、恥ずかしいぜ…」
「何言ってるんですか!可愛いですよ!」
「胸ないから開いてるし……」
「あぁ、逆にこれは悩殺効果がつきますねぇ…」
しみじみと言うガールに、アテムは恥ずかしがり再び毛玉の盾に隠れてしまった。しかし既にブラックマジシャンは鼻を押さえていた。
それに毛玉たちも着替えが終わったことで、一斉にアテムへと抱擁攻撃を仕掛けたのだ。四方八方からこすりつけられる柔らかい毛に、アテムは真っ赤だ。胸に触れる度に小さく声も漏れているのがまたエロい。
「っ、クリボー…っ」
すりよってくるのは可愛いが、胸はやめてほしい。しかしそんなアテムの心の声などわかるはずもなく、クリボーもスケープゴートも嬉しそうだ。
ガールに助けの視線を向けるが「王子が取られた!」と頬を膨らませるばかり。アテムの視線の意図など気づく余裕もない。ブラックマジシャンはうずくまって鼻血に耐えていた。彼はもうダメだろう。
そんな中、天気の良かったはずの空に雲がかかり稲光が光る。重厚なうなり声と共に、黄色い鳥、赤い竜、青い巨人が雲を割いて現れた。
『煩いぞ貴様ら。』
『何騒いでんだ。』
『…』
巨大な翼を広げて舞い降りる姿は、凛々しく威厳と迫力に満ちている。それもそのはず。デュエルモンスターの中でも神と言われる存在なのだから。
怖がるクリボーとスケープゴートに、厄介なライバル登場に、明らかに顔をしかめて嫌がってるガール。目聡く見つけたオシリスが睨み返すと、アテムの影に隠れてしまった。そこで3匹はアテムに気がついた。
ゆっくりと地上に降り立つと、各々が各々の角度からアテムを見つめて硬直してしまった。還ったはずのマスターがいるのだ。仕方ないだろう。
『マスター…?』
『ファラオ!ファラオではありませぬか!』
『まさか戻ってるとはな!』
顔を近づけ嬉しそうなオシリスだが、アテムはその視線に後退る。迫力がある顔だ、仕方ないだろう。
「ひ、久しぶりだなオシリス。」
『貴様は阿呆か。嫌がっておるのがわからぬか。』
頭上から威厳のある声が降り注ぎ、金の翼が視界を覆う。まるで抱き留められたような状態にアテムは真っ赤になる。
『ラー…テメェ…』
『やるのか?貴様ごときが我に勝てるとでも?』
飛び散る火花に不穏な空気が流れ出す。
2匹はアテムを挟んで対峙し、しばらく睨み合い唸り声を漏らしていた。先に口火を切ったのはオシリスだった。口にエネルギーを集め出し、口を大きく開いた。
『"サンダーフォース"!』
『"ゴッドブレイズキャノン"!』
派手に争い始めた神々に、唖然と見守る面々。話の筋すらわからないモンスターたちは怯え、上がる火花と雷に震え上がっていた。
『一番長くアテムといたのは俺だぜ!?』
『一番使えなかったのもお前だがな!』
罵声と怒号が交差する中、アテムは1人慌てふためいていた。ブラックマジシャンは相変わらず鼻血を流して床に手を突いている。
助けを求めてマナを見るが、神を恐れて何も出来な
「王子がかかってるなら、私も黙ってられません!!"黒魔導爆裂波(ブラック・バーニング)"!」
「クリクリー!」
「メェェッ!」
「ええっ!?」
まさかクリボーたちまでもが果敢に立ち向かう様に、アテムも驚きを隠せない。ブラックマジシャンは未だにお察しください。
もうどうしていいかわからず、1人混乱するアテムに、巨大な影が近づいた。
『マスター。』
「オベリスク?」
『ここは、危ない。』
巨大に軽々と抱き上げられたと思えば、弾かれ飛んできた黒魔導爆裂波を手の甲で易々と弾き返す。右手と羽で二重のシェルターを作ると、普段の無表情さを感じさせない優しい声でアテムに語りかける。
『私が守る』
「ありがとう…。」
漁夫の利。
この言葉を今戦ってる皆は知っているのだろうか、いや知る由もない。争いの渦中である彼らがそれに気付いたのは2時間も後である。
+END
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モンスターを喋らせるのは楽しいです。
最初は擬人化の予定でした。
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女体化の意味がそこまでない長編?でしたが、ここまで見てくれてありがとうございました。
修正15.8.3
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