パニック!マリク編
Dマリク編
「ハイ。遊戯。元気だったか?」
「マリク君!?」
朝、いきなり母に「友達がきたわよ」と呼ばれ、玄関に降りていけば見知った2人がいた。過去に敵として戦ったこともある墓守の一族の1人、マリク=イシュタールである。
いきなり訪ねてきた理由を問うより先に、「お邪魔します」と上がり込んできたために、部屋まで話しはお預け。どこで知ったのかまっすぐ遊戯の部屋まで入り、4人が座ったところで1番の疑問である。
「マリク君。闇マリクが復活してるんですけど。」
「あぁ、うん。」
マリクはいい。
問題は横にいるもう一人のマリクである。かつては仲間とアテムの魂を賭けての戦いすらした仲だ。こう普通にいられるのも違和感がある。
「いや『うん』じゃなくてさ。」
しかもその某6歳児は疑わしい視線を向けられながらもケラケラ笑うだけである。
しかも飴を持って。
「僕たち困ってるんだ。でも姉様は『気にしてはいけません』って言うだけなんだ。」
「イシズさん、相変わらず強いね。それと何でマリクは飴持ってるのかも気になる。」
闇マリクが持っているもの、それは大きなペロペロキャンディーだ。昔手にしていた千年ロッドを彷彿とさせられるソレは、あまり気分のいいものではない。
しかし闇マリクは上機嫌。アテムに纏わりついては鬱陶しそうに顔をしかめられていた。
「千年ロッドがなくなったから、その代わりさ。喚いてうるさいからね。」
「やっぱり千年ロッドだったんだ。」
ひきつった笑顔で生返事をして、当初の目的を思い出した。マリクが突然訪ねてきた理由である。
アテム復活にも驚いた様子はないため、きっとその事についてではないか、と予想は出来るが。
「何しに来たの?」
「姉さんが『ファラオが困ってるから、力になってあげなさい』って。」
「ああ、予想通りだ。」
「最初はファラオが復活してるなんて信じてなかったけど、流石姉さん。」
「あれ。墓守の一族が関わってる事件かと思ってたのに。」
「ないない。姉さんは元から感がいいだけさ。」
暗く遠い目をしてるのは、何か嫌な思い出があるのだろうか。気になるが、聞いてはいけないだろう、そうに違いない。とりあえず聞かなかったことにした。
早々に立ち直ったマリクはアテムをまじまじ見つめた。
「ファラオ。女性の体には慣れた?」
「えっ、知ってたの…」
「姉さんがちょっとねって、お前。ユウギが困ってるから飴を振り回すな。」
遊戯に説明しつつも、ちゃんと保護者の役割は怠らないマリクである。はしゃぎ暴れまわる闇マリクを諫めることは忘れない。しかし大人しく言うことを聞く闇マリクではない。止まることなく部屋を走り回りだしたことに、諦めの溜め息が2つ。マリクと遊戯のものである。
「そこまでわかってるなら問題ないね。アテム、隠さなくていいって。」
「やはりイシズは知ってたのか…」
安堵しながらも、アテムは複雑な面もちだ。一体イシズは何者なのだろうか。真相は闇の中だ。
とにかく、騒ぎ回る闇マリクは遊戯に任せておくとして。マリクとアテムは正座で向かい合い原因究明だ。
「あまり変わったところはないね。でも、なんか…雰囲気が違うね。」
真っ直ぐ向けられるマリクの視線。頭から足までマジマジと見つめられ照れ臭くなり、アテムは少し顎が引けている。しかし目は逸らしたら負けだ、と負けず嫌いな精神でマリクを見つめ返すと、マリクが赤くなった。
「あ、ごめん…」
アテムも赤くなっているのは、無意識である。しかしこの状態は"付き合い始めて間もない、初々しいカップル"にしか見えない。
気付いた遊戯は、好き勝手に部屋を漁る闇マリクになんて構っていられなかった。アテムが取られるピンチかもしれないのだ。慌てて2人の間に分け入ろうとすると、それよりも速く、容赦なく。闇マリクが割り込んだ。
「主人格様ぁ。」
「煩い。暇なら飴でも食べてろ。その為に買ってやったんだぞ。この年にもなって恥ずかしい思いをしてさ!」
めいっぱいの恨みを込めるが、その程度で闇マリクが反省するわけもない。ゲラゲラと品なく笑いながら、マリクの頭を叩き回す。
「他人事だと思って、コイツ…」
険悪な空気が流れ出した訳だが、1人だけ爽やかに笑う者がいた。勿論遊戯である。親指を立てながら、心の中で闇マリクを程に2人の甘い空気に嫉妬していたのである。
友情なんてあったものではない。
だがマリクはその程度でめげない。何事もなかったように話を進め始めた。
「で、ファラオ。困ったことは?」
カウンセラーよろしく、まじめに座って見つめる2人に、再び遊戯が悪鬼の表情となる。
「ん…特にはないぜ。だが、強いて言うなら、女の子の体のことをほとんど知らないから困ってるぜ。」
これにはマリクも遊戯も顔をひきつらせた。説明しても、セクハラにならないかが不安なところである。
アテムが
顔を見合わせ、同時に溜め息をついた。
「えっと、言ってもいいのかな…」
「普通に説明ちゃえば?」
「うぅ…僕の口からはちょっと…」
知識はあるが、男の口からいうには酷な内容だ。ましてや相手は本は男と言えども今は立派な女。セクハラで訴えられないか不安である。しかし説明しなければ後程質問責めにあう。
頭を抱える遊戯。彼の意識がアテムから逸れている隙に、とマリクがアテムに忍び寄った。
「王様ぁ…暇なら俺と遊ぼうぜぇ…?」
「…マリク。お前は何故復活しているんだ。」
今更ながら、もっともな疑問である。
「元々俺と主人格は1つの存在…俺が復活してもおかしくはないだろう?」
「光と闇は対…ということか。」
「ウヘヘ、そういうことだ。ところでユウギよぉ…」
「何だーっ!?」
いきなり顔が近くなったと思えば、頬をベロリと舐められた。急なことのために、反応は出来なかった。オマケに舌の生暖かい感触に鳥肌が立ち、アテムは身震いした。
「柔らかくなったじゃねぇか…へへへ…」
「ヒィッ!や、やめろっ!」
ニヤリと笑って押し倒され、アテムは抵抗はするが腕を押さえ込まれて逃げ出せない。
「女になったと聞いたが、見た目じゃわからねえなぁ……?」
「ッッ」
舌なめずりをしながら、胸に置かれる手。明らかに性的な意図を持って胸を這う手にアテムは真っ赤になる。
「くくくっ……感じてやがるのかぁ…?」
せめてもの抵抗、と顔を逸らすが闇マリクのにやけた顔が近づいてくる。頬を舌で舐めあげ、アテムの体が震え上がった瞬間に遊戯がこちらを見た。それはそれは恐ろしい形相で。
「はい、そこまでっ!」
マリクは近くにあった分厚い雑誌で闇マリクを殴り、遊戯は容赦躊躇いなく横脇腹を蹴っ飛ばした。倒れて呻く闇マリクだが、心配する者はいない。呆れた冷たい視線が送られるだけだ。
「それ、セクハラだよ。」
「何調子にのってるんだよお前は…。」
「アテムに近づかないで貰えるかな変態。」
罵詈雑言を浴びせられるが、闇マリクは怯まない。ゆっくりとゾンビのようにふらつきながらも立ち上がると、肩を震わせ笑い始めた。
「ふ、ふふふ…」
「何だよ。まだ意識はあるのか?」
マリクの冷たい言葉に反応すら返さない。
「小さいな」
「う、うるさいぜ!黙ってろ!」
このユウギの一撃が止めとなり、闇マリクは倒された。うつ伏せになりピクリとも動かない闇マリクに、顔を真っ赤にさせながら拳を握りしめるアテム。
横では遊戯とマリクが同時につぶやいた。
「自業自得だよ。」
と。
++++
当初の予定ではキスさせて、甘々っぽく終わらせるつもりだった(過去形)
修正15.6.28
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