ゆぎお | ナノ



2.キング乱入


2.キング乱入


『不動遊星、蟹疑惑事件』から数日。
遊星は遊戯たちとの生活に慣れ、置いてきた仲間達を案じながらものんびりとした日々を過ごしていた。
最初は順応性はあるが、無口で生活観が違う遊星に戸惑うことも多かった遊戯たち。でも機械に強い遊星に、遊戯もアテムも大いに助けられた。特にアテムはよく機械を壊していた。遊戯にとってはありがたい戦力である。
とまあ、状況説明はこのくらいにしておこう。




「相棒、頑張ってこいよ。」

「…お気をつけて。」

「うん、ありがとう♪じゃあ二人も怪しい人が来たら、絶対扉を開けちゃダメだよ?もし強行突破されたら、玄関に金属バットで殴る。狙うは延髄。わかった?」

「わかったぜ!」

「玄関には金属バット…か。」

今日は朝から遊戯の講習があり、はアテムと遊星は彼の見送りだ。
遊戯とアテムが遊星に戸惑うこともある。が、遊星もまたしかり。この家には普通のマンションにはない、不可思議なものが多々あるのだ。
その一例が、この金属バット。
遊ぶ目的ではなく、明らかに相手を仕留めるために置かれた金属バットにはうっすら血痕を洗い流した後がある。
理由は何度か誘拐されかけたアテムを守るために置いたもの。誘拐も犯罪だが、凶器もアウトである。しかし天然なアテムはツッコミすらしない。そして新しい居候の遊星も、治安が悪いサテライトに育ったため、特にツッコミはいれない。天然とは恐ろしい。
今や玄関を中心に、凶器もとい防犯グッズは勢力を増すばかりだ。

不安なのはそんな思想の遊戯と二人が同居してることだが、万が一つっこめば、隠しているスタンガンの餌食にされてしまうだろう。改造担当は勿論遊星だ。

「むー、相棒がいないとどこにも行けないぜ…」

「…遊戯さんが煩いからな。」

アテムは基本、遊戯がいないと外出禁止である。理由は言わずもがな、例の高笑いをする人物や、盗賊王に浚われそうになった前科があるからだ。

問題は遊星である。
この前帰る道を探すためという名目で外出を許可したところ、興味のあるゴミという名の電化製品を見つけ拾ってきた。迷子になり、深夜まで帰ってこないときもあった。
遊星も意外と無防備なところがある。それを遊戯が心配したのだ。
アテムは遊星がどんな変な物を持って帰ってくるのかと、ワクワクしていたが遊戯が怒ればしょうがない。

「じゃあ、ゲームでもするか。」

「今日も勝つぜ!」

リビングへ仲良く引き返そうとした瞬間。

ピンポーン

一話に続き、またもや朝っぱらから呼び鈴が鳴った。二人の心は一つである。

「「無視するか。」しようぜ。」



遊戯宅俺ルール@
【遊戯がいない時は、呼び鈴は無視してよい。】

気にする素振りも全く見せず、二人は玄関から背を向け歩き出す。居留守もいいところだ。だが、玄関から不審な金属音が響き、挙げ句バンッと音が聞こえた。ピッキングをされた、とか特攻された、とか犯罪はいくつもある。
だが、彼にはもっと大きな問題が降りかかった。

「遊星ぇぇぇぇぇぇ!キング直々にむk」

ドカッ

バンッッ


ガチャン


リズミカルな音がして、遊星がツカツカと目の前を無言で横切っていった。音の説明をすると。
侵入者Jを外に蹴り出した音。
扉を躊躇なく閉めた音。
鍵を閉めた音。

遊星は強かった。

「今の男は知り合いか?」

「そんなわけがない。」

真顔で即答すると、振り返りもしない。アテムに「行くぞ。」と玄関から一刻も速く立ち去ることを促し――

「遊星ぇぇぇぇぇぇ!何故だ!感動の再開なのに何故そんなにも冷たい!ここは始めは驚き、次に顔を赤らめて『・・・遅い。』と―」

なんとピッキングの挙げ句鍵を粉砕玉砕して、不法侵入したこの金髪の男。馬鹿力もいいところである。
見たことが不快なのか、遊星は極力その男の顔を見ないようにしている。そして表情を歪めている。
振り返ってあげてるだけ、優しさはあります。多分。…おそらく。

「お前……頼むから帰ってくれないか?」

「…フッ、相変わらずのツンデレっぷりだな、遊星。」

「何故ここがわかった。」

「何故だと?それは俺がキングだからだ!」

「アテム。ダンボールはないか?…折り畳んで入れるから、サイズは問わない。」

慣れた様子で金髪男をあしらう遊星だが、如何せんやり口が物騒である。

「遊星、ダンボールあったぜー。やっぱり知り合いなんだろ?誰だ?」

ダンボールを持ってきている割に、冷静な質問である。ドン引きしてないあたり、アテムも慣れているのだ、この手の男の扱いに。

「ジャック・アトラス。……かつて仲間だった奴だ。」

「そう、かつては仲間、今は恋人だ!」

「アテム。ガムテープと鎖も頼む。」

遊星が、ツカツカと距離を詰めてきたジャックの腹部に一撃。「グハッ!」という音がして、ジャックはその場に踞った。

WIN 遊星

「今は俺とは全く無関係な男だ。」

「ゆ、遊星…っ!」

真顔で淡々と述べる遊星。眉間のシワと、目の光りを見てアテムは瞬時に察した。
怒っている。かなり怒っている。
遊戯を見てきたアテムにはすぐわかった。そしジャックを横目で見て、助けもせず呟いた。

「コイツ、海馬と同じ種族だぜ…」

属性:電波属
種族:妄想族

「お前も苦労してるんだな…」

殴ったことでストレスが僅かでも発散され遊星の怒りが少し和らいでいる。二人は顔を合わせ溜め息をついた。

しかし空気を読まない男こと、ジャック・アトラス。
素早い復活を遂げると同時、アテムの顔を穴が開くほど見つめている。アテムはどん引きである。

「こっちを見ないでほしいぜ!」

「遊星、子供が出来たのか!?俺達の子が!」

この台詞を聞いた途端、この空間の空気が凍った。


***


時は流れて二時間後。
遊星とアテムはのんびりデュエルをしていた。

あの後躊躇いなく遊星が金属バットでジャックの頭を殴り、気絶させた。
それ以来、ジャックは全く起きない。アテム曰わく、綺麗に延髄に入っていたそうだ。
それをチャンスととり、ロープで縛って部屋の隅に放置してるのが今の現状。本当は見たくもないのだが、玄関に置いていたり外に放りだしたら、いつ起きて何をするかわからない。だったら目に見えるところで管理しよう、苦渋の決断なのだ。

ふと時計に目をやると、13時。

「もう昼か…」

「相棒も帰ってくる頃だぜ!」

「だったら、もう大丈夫か。」

「そうだな。」

二人はコクリと頷くと、ジャックを担ぎ上げる。
そして容赦なく窓から捨てた。
普通に二人のやってることは酷いし犯罪である。
しかし二人の満足そうな笑顔である。守りたい、ような気がするこの笑顔。一仕事終えた満足した笑顔で手をはたくのがまた恐ろしい。そこに遊戯が丁度帰ってきた。

「二人共。…鍵壊したの誰?」

「「あ。」」

そういえば、すっかり忘れていた。

「俺達じゃないぜ相棒!海馬似の金髪男が不法侵入してきたんぜ!」

「さっきまでここにいましたが、今この窓から捨て――」

その窓を振り返り、指差しそうとした時に、見てしまった。

窓に人の手がかかっていることを。

「「「……」」」

これは何のホラーだろうか。反応し辛い展開に硬直していると、先程捨てた筈の男が勢いよく顔を出した。すごい指圧だ。

「何をするんだ遊星、ヒトデお化け!キングじゃなかったら死んでいたぞ!?」

「キングでも死ぬだろう…普通。」

「お化けにお化けって言われる筋合いないぜ!」

「というか遊星。何故俺の手を触ってるんだ。恥ずかしがりのお前が大胆だな!…しかし、窓枠から離そうとしないでくれ。お願いだから。落ちるから。」

得意のスルースキルを発動させ、無表情でジャックを落としにかかっている遊星の目は本気だ。それを見た遊戯も納得したようだ。

「海馬族だね。」

行き着く先はアテムと同じ。

「遊星が困ってるんだぜ。」

ジャックを落とそうと頑張る遊星と、這い上がるのと遊星からのダイレクトアタックに必死なジャック。
そこへ遊戯が近づいてきた。嫌な予感がする。

「はい遊星君。これを使ってよ。」

「あ、ハイ。すみません。」

遊星の猛攻が止み、ジャックがホッとしたのも束の間だった。遊星の見下してくる目の光が怖い、ではなく。何かを構えて…

バチッ

遊戯の装備魔法発動。
遊星:装備魔法『スタンガン(改造済)』

「ギャアアアア!!」

ジャックのキングどころか人にあるまじき悲鳴が聞こえ、今度こそ彼は下に落ちた。転落王者・モトキングである。
バキバキや、ドカンやら、破壊している音が下へと消えていくのを確認すると、3人は恐る恐る下を覗き込んだ。

「生きてる…よな?」

アテムが疑い深く身を乗り出すと、倒れてる彼が見えた。驚くべきデュエリストの視力である。ここは10階ですよ。
驚くべきことに赤いものは見えない。ということは死んでいない。

「アーテム。彼は海馬族だよ?そう簡単に死ぬわけないでしょ。」

恐るべし海馬族。恐るべし武藤遊戯。
ヒョイアテムを抱き上げ、遊戯は窓を容赦なく閉めた。後は無関心を決め込む気である。軽い事件が起きたというのに、加害者たちがいち早く寛ぎモードに入るとは何事か。

さて、問題が一つ片付いた。
と思いきや、油断大敵。次は窓ではなく玄関からだ。

「遊戯ぃぃぃぃぃぃ!!貴様はこの俺を何だと思っているのだぁぁぁぁぁぁ!!」

DM時代の電波代表、海馬社長が不法侵入である。
遊星はビクッとして、思わず遊戯の後ろへ避難。無表情であるが、怖いらしい。そんな彼の年相応なところに苦笑しながら、遊戯から海馬の自己紹介。。

「僕らの身近な電波塔、海馬君だよ。
出会ったら容赦なんかしなくていいから、スタンガンでも金属バットでもおみまいしてあげてね♪」

もとい事故紹介。

「わかりました。」

納得しました遊星。わかっちゃいけません遊星。

「ところで海馬君。今日どんな電波を受信したの?」

「フッ、その―」

「相棒。遊星の胸元に金属探知機が反応してるぜ。」

「盗聴器か……」

遊戯は海馬を軽蔑した目で見ている。遊星は何故この家には金属探知機まであるんだろう、と思考停止。アテムは背の高い遊星まで手が届かず、拗ねてしまった。

「海馬の馬鹿!」

挙げ句逆ギレである。

「アテム貴様ァァァァァ!遊戯に似てきたな!?」

「そういう海馬はドンドンおかしくなったな!」

おや、下の階から何かが走ってくるような音が。

「遊星ぇぇぇぇぇぇ!!酷いだろう!?いくらツンデレでも許せるものと許せないものはあるぞ!」

「うわぁ…復活早いよ。」

また面倒な人物が増えてきたことに、遊戯は溜め息をつき頭を抱えた。遊星だけならば問題はないが、厄介な人物が増えるのは聞いていない。そしていらない。
そんな遊戯を憂いてアテムが傍らで見上げてくる。

「相棒、アイツを呼ぶか?」

「そうだね。僕だけじゃ心細いし。」

「了解だぜ!」

+続く?

+++++
続けてほしいと要望があり、昔続けていましたが、誰もこんなカオスは望んでいないと思われます。
だがギャグは書きやすいです。

修正14.9.18



[ 1259/1295 ]

[] [TOP] []



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -