3.状態は悪化するもの
3.状態は悪化するもの
今日は快晴。雲一つない陽気である。
おや、陽気と言いましたが嘘です。段々雲が出てきて…あ、あれ?あっという間に曇りになりました。そしてただならぬ妖気が。
その妖気の発生源はとあるマンションの一室だった。なにこのマンションこわい。
「二人共。何か言うことは?」
「「…。」」
前回に続き、乱入してきた海馬族たちを取り押さえたのは遊戯。只今絶賛詰問中だ。
勿論二人の手は縛っている。アテムと遊星という可愛いマスコットに何をするかわからないからである。
「相棒ー、連絡ついたぜー。」
「ありがとう♪う〜ん…海馬君は木馬君に言うとして、こっちの…えっと」
「ジャックです。」
「そうそう。彼はどこに連絡すべき…いや、それより何で海馬君が遊星君盗聴器つけてたか聞かなきゃね。」
「すみません。不覚でした。」
しょんぼりと落ち込むする遊星を、口を開けた間抜け面で見てたジャックが、フッと笑って「好印象だ。」。
勿論遊星に膝を蹴飛ばされた。
「フゥン。この俺に不可能はない!!」
「じゃあ逆立ちしながら鼻から牛乳飲んで、口から出してみてよ。」
「非科学的だぁぁぁぁ!」
さすがの海馬も実行不可能らしい。
非科学的かは知らないが、物理的に無理だ。
「しょうがないなぁ…アテム。」
遊戯が溜め息交じり、いや明らかにニヤリと笑ってアテムを呼ぶ。首を傾げながらてけてけとやってきたアテムではあるが、遊戯の「作戦O」で通じたらしい。少し困った顔を作り、身長差のある海馬を見上げた。
「海馬、無理なのか?俺、海馬のこと信じてたのに…」
「フゥン、この俺に不可能なことはない!」
鶴の一声ならぬ、アテムの一声。
海馬は「ワハハハハ」と笑いながら牛乳を携帯で磯野に命令を始めた。
因みにアテムはこれでもかというほど棒読みである。そして断ってはおくが、アテムは別に上目使いや声を変えた訳ではない。どちらかというと、真顔で声はちょっとバカにした感じだ。
しかし海馬の頭の中で超都合よく脳内変換が行われたようである。おめでたい限りである。
「結果オーライで海馬君は処理完了!」
「次は…」
三人の視線がジャックに集まった瞬間。玄関のドアが勢いよく開かれた。見事にジャックに命中し、蛙のつぶれたような声がした。アテムが連絡をつけた人物がきたのだ。決してジャック暗殺部隊ではないとだけ弁解させてもらおう。
「お邪魔しまーす♪」
「邪魔するぜー。」
「獏良君。丁度いいタイミングで。」
遊星はジャックを心配そうに見つめているのだが、遊戯とアテムは完全にスルーである。しかも遊戯に腕を引かれ、遊星も引っ張っていかれる。ジャックは…想像にお任せします。
「久しぶり、遊戯君!そして君が遊星君かな?僕は獏良了、ヨロシクね。」
アテムが事前に電話で紹介をしていたおかげか、すんなりと話が通った。順応性が高い人は楽である。
「で。こっちの金魚の糞がバクラね。」
「宿主!せめて付き添いとかで!金魚の糞はやめろ!」
「二人共相変わらずだぜ。」
いつの間にか獏良に抱き締められているアテムは苦笑した。
この相手が海馬やバクラだったら、遊戯はマジ切れ決定なのだが獏良だから笑顔で許す。様子を伺ってはいるが、サーチアンドデストロイはしないのだ。
「よお。久しぶりだな王様。宿主じゃなくて俺様んとこ来いよ。」
「笑顔が下品だからイヤだぜ。」
誰か守ってくれる人がいれば、強くなるのが子供というもの。獏良も笑顔でバクラを威圧し、アテムはベッと舌を出し挑発する。可愛い動作だが、今手を出せば宿主と遊戯に確実に殺される。
諦めて視線を反らせば、遊星と目が合った。状況を理解してはいないが、なんとなくで順応している顔をしている遊星の上から下まで観察しての結論。
「遊戯の野郎、可愛い奴連れ込みやがって3p」
「バクラ君と同じにしないでよ下品だなぁ、アテムバット取って。」
捲し立てるように一息で辛辣な言葉を並べる遊戯。目は本気で、バットを催促するように手が動いている。
「遊星君は確かに可愛いけど、僕にはアテムがいるし。…彼とアテムがいるだけで百合状態で和むし。」
「今普通に問題発言したろ。」
「バクラ君に言われたらおしまいだね☆」
遊戯の爆弾発言に突っ込める者はここにはいない。
「百合…?」
「花か。」
否、知識がなくて突っ込めなかっただけのようだ。
世の中、知らない方が幸せなこともあるのだ。
「とにかく相棒。はい金属バット。」
「え゛。」
「ありがとう。」
バクラ危機一髪。
そのタイミングで救世主というかはた迷惑というか、突然ジャックが起き上がった。
「貴様!俺の遊星にナニするつもりだ!?身体を舐め回すように見て視姦するつもりか!?」
「え、俺のとか言ってるけど。彼氏か?」
「違う。」
遊星の必殺の一撃が見事に腹部に入り、また倒れこんだジャック。必殺技とは『必ず殺す』と書くのです。
「じゃあお前はフリーってわけか。」
ニヤリと笑って遊星の腕を掴んだと思った瞬間、素早く手を引き腕の中に引き寄せた。
「ぇ、なっ…!?」
「俺様と付き合わねえ?悪いようにはしねえぜ?」
大人びた笑いを浮かべて遊星を見つめると、顔が仄かに赤い。悪い男の色気というか、そういう類のオーラにあてられたようだ。遊星も治安の悪いところ出のはずだが、ツッコミはなしにしよう。
ちなみに、ジャックの鼻より下も赤い。鼻血か怪我がはご想像にお任せします。
「年下好きだね、このロリコン☆」
「宿主、笑顔が怖い。ロリコン言うな。」
ニコニコと黒い笑いを浮かべる獏良に、バクラは汗が止まらない。遊星を自由にしようと、掴んだ腕が痛い。バクラの汗は冷や汗に変わった。
「ロリコンには、アテムー。例の紐引いてよ。」
「例の…??あ、わかったぜ☆」
獏良が興味深そうに一旦腕の力を緩めてやり、アテムの動きを眺める。
玄関から伸びている一本の紐。いつからあったかわからないそれを、アテムは思い切り引っ張った。
「罠発動!」
「グヘェ!!」
遊戯の嬉々として声と、アニメで血を吹いたときの声がして、バクラの後頭部にフライパンがブチ当る。遊星は力が緩んだ瞬間に立ち退き、バクラの最期を驚いた顔で見届けた。最期と言っても死んではない。まだ。
「で。何でバクラ君も連れてきたの?いらないのに。」
「勝手についてきたの。言うこと聞かないしさ。」
二人がなんだか酷い会話をしてる中アテムはバクラの、遊星はジャックを憐れみの視線で見ていた。
正しくは見下していた。
玄関で伸びる人々を無理矢理引きずって、部屋へ戻った一同。バクラは床に放置、問題の人物たちは出所不明の鎖で縛って転がされている。
「本題だけど、今日獏良君を呼んだのは、キャラ紹介のためなんだ。」
ぶっちゃけ過ぎである。そしてメタ発言である。
「うん。そんなことだと思ってた。」
「でも予想以上に処理が大変だから、手伝ってほしいなー。」
「いいよー。」
軽いノリではあるが、内容はなかなかエグい。
「そういえば。遊星君、ジャック?君とは昔から親しいの?」
「ジャックであってます。…親しいというか腐れ縁というか…面倒だったというか。」
最後が酷い。
「で、相棒。話し合いは具体的に」
「アテム君、遊星君。チョコ食べる?」
「食べる!」
「!」
獏良の手には、どこからともなく現れた。高級そうなチョコレートが掲げられていた。
間髪入れずに答えるアテムと無言だが反応する遊星。
獏良はニッコリ笑って手土産のチョコレートを渡すと、アテムは素直に受け取り躊躇わずに頬張った。
遊星は物珍しそうに眺め、獏良の様子を警戒はしている。遠慮しているようだが、獏良が笑顔で催促すれば、パクリと口に入れた。
何か入っていたらどうするつもりだったのだろう。
「二人が食べてるうちに。」
二人が仲良くチョコを食べてる隙に作戦会議。
「木馬君を呼べば?」
「僕もそれが最良だと思ったんだけどね。木馬君はダメな社長の尻拭いだってさ。さっき来た磯野さんも嘆いてたよ。」
アテムが好きなのは嫌という程わかったが、仕事はしてほしい。
「あ。今日は丁度発信器持ってるし、これ飲ませとこっか。」
何で丁度発信機なんて持っているんだろう。何故そんな高価なものを持っているんだろう。勿論突っ込んだら負けである。
だがこれだけ言っておこう。
今までのスタンガンなどの行き過ぎ護身用グッズは、獏良からもらったものだということを。
「発信機か、ありがとう。助かるよ!」
遊戯は笑顔で受け取り、無言で獏良が二人の口を開けさせて。
遊戯が口の中へと、見えない速さで突っ込んだ。
その間に一秒。手加減躊躇いは一切なし。
「「ゴファッ!」」
思い切り咽せた挙げ句、流石の海馬族達も目が覚めた。
アテムと遊星はその声の唐突さと条件反射で、チョコの箱と共に距離をおいた。
デュエリストたるもの、運動神経と条件反射はないといけません。
「あ、起きた。」
「起きたね。」
意外な顔をする遊戯と獏良だが、乱暴に口へと手を突っ込めば誰だって起きる。
「起きたなら丁度いいや。海馬君。木馬君が困ってたから、仕事に戻ってよ。」
「断る。」
「うわぁ最低だ。」
「俺はこのジャックと取引を終えるまで帰らん!」
「なんの?」
「遊星というこの少年とアテムをな!」
「どういう意味だ海馬!」
アテムが聞き捨てならない恐ろしい台詞を聞いて、とんできた。2、3個チョコレートを死守してきたあたり、美味しかったようだ。
「わははは!そのままの意味d」
「アテム、口回りに付いてる。」
アテムの頬に付いたチョコレートを遊戯が舐めとってやれば、顔を赤くするアテム。見せつけるようにどや顔で海馬を見下す遊戯に、ワナワナと震え始めた。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁ!アテムは俺のだぁぁぁ!」
「煩い。少し黙ってろ。」
「はい。」
遊戯に真顔で返され、海馬は案外素直な返事を1つ。怖かったようです。
そんな漫才をスルーし、遊星はジャックと向き合っていた。
遊星が距離を空けて。
「ジャック。…さっきの取引について、聞かせてもらおうか。」
「お前はツンデレだから、俺に素直についてこない。ならば無理矢理にでも連れてくればいいという考えだ!」
「キングだからか?」
「キングだからだ!」
なるほどウザイ。
「海馬の奴が間違ってここに送ってしまってな。しかしアテムとやらがここにいれば交換成立だ。さぁ寂しかっただろう、そうだろう。だが安心するがいい。愛の力で繋がってる限り、俺はお前が何処にいても迎えにくるからな!」
腕を広げ「俺の胸に飛び込んでこい!」と言うジャックに、遊星はドン引きである。
クサイ、そして長い。読みにくいので、会話は3行でお願いします。
「えー、なにそれー。ストーカー?」
「何を言う!これは俺の愛だ!」
「重い愛はいらない。」
バクラに茶化され、冷静な遊星の対応に必死にならざるを得ないジャックの胸ぐらを誰かが掴んだ。遊戯である。
「君達……永遠にお別れだ!!」
片手には海馬を掴んでおり、そのまま背負い投げの形でベランダから二人を投げ捨てた。断末魔の叫びが消えると発信器レーダーを見て、遊戯の一言。
「レーダーが反応したら、容赦はいらないよ。」
「「はい。」」
+END
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ギャグになれば、いじられキャラが出来るのが我が家の宿命なのです。
修正14.10.6
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