パニック!バクラ編
C獏良&バクラ編
今日の朝の目覚ましは、「獏良から電話がかかってきた」と母の呼ぶ声だった。眠い目をこすりながら、電話を取ると楽しそうな獏良の声が聞こえてきた。
『遊戯君。君のところにもアテム君が帰ってきた?』
「『君のところにも』ってことは、もしかして獏良君のところにも?」
獏良の言い方から推測して、獏良に千年リングを通じて憑依していた、盗賊王の魂であるバクラも帰ってきたようだ。
『よかったぁ〜。僕だけ変な奴に憑かれたのかと思ったよぉ。』
『宿主?失礼だろ!!』
耳をつくバクラの叫び声に遊戯は確信を得た。相変わらずのギスギスした微妙な関係のようで安心したような心配なような。複雑な面もちだ。また質の悪い霊にとり憑かれたものである。
『今日起きたら、いきなりいてビックリしてちゃったよ。痴漢かと思って殴っちゃったもん。』
「それはビックリするよね。」
のほほんとした二人の会話の裏から『笑い事じゃねぇっての』とバクラの呟きが聞こえた。根に持っているらしい。
そこに、後を追ってきたアテムが降りてきた。家族には説明してあるし、初対面も同然なのにスパイのような目配せをしているのは癖なのだろう。遊戯は最早何も言わないようにしている。
「獏良君がどうしたんだ?バクラも復活したのか?」
「そうみたい。」
アテムも予想はできていたようだ。アテムが興味津々に電話を見ていると、獏良側の受話器が騒がしい音を立て声がガラリと変わった。
『おい器の遊戯。』
ドスのきいたこの声は噂のバクラだ。
「僕もう器じゃないんだけど。」
『んなことはどうてもいいんだよ。王様がいるんだろ?代われ。』
「嫌だぜ。」
『テメェ…』
いくら殺気を込めても遊戯は怯まない。毅然とバクラに立ち向かっていると、再び受話器が騒がしくなる。そしてゴンっという鈍い音。
これはもしかしなくても。
『ゴメンねぇ〜。よかったらだけど、今から家に来ない?』
「遊びに来ないか、だって。アテム、どうしようか?」
「心配しなくとも、居候は押さえ込んでおくよ。』
先ほどの鈍い音もきっとその居候を抑えた音だろう。
「遊びにこないかだって。どうする?」
しかし特に気にもとめずにアテムに問う遊戯。未だに他の家族を警戒していたアテムは、遊戯に話しかけられたことに驚き、体が跳ねた。
「バクラに聞きたいことがあるから行くぜ。」
「でもバクラ君に会うのは危険だよ?」
バクラに対する認識は共通なようで、アテムは苦い顔をしながら目線を逸らした。それを踏まえて改めて悩んだ末に。
「でも行こう。いざとなったら獏良君と、なにより相棒がいるぜ。」
「可愛いことを言ってくれるなぁ…。」
頭を撫でると、顔を真っ赤にしながらも抵抗はしない。そのことに気をよくした遊戯だが、アテムが我に返った。
「早く行こうぜ相棒!」
今までは友人と会うことをごねていたアテムだったが、獏良に関してはないような気がする。遊戯の素朴な疑問だった。
「何で他の皆に会うのは嫌がるのに、獏良君はいいの?」
少し刺のある言い方をしてしまったのは、嫉妬故だ。むくれながら訪ねると、アテムは困ったように笑った。
「そりゃあこんな姿だ。嫌と言ったら嫌だぜ。」
「じゃあ…」
「でもあのバクラと一緒にいたくらいだ。多生のハプニングにも驚かず、何か知ってることもないかってな。」
「まぁ、君が行ってもいいっていうなら僕は止めないけど…」
他の友人より特別視されている獏良には嫉妬してしまうが、仕方のないことだ。
その気持ちを振り払うように首を振ると、アテムの手を取った。
「さ、行こうか!」
アテムも素直に頷いた。
*
獏良の家につくと、勿論トラブルが発生した。
バクラが呼び鈴と共に扉を蹴り開け、アテムへ飛びかかろうとする。そこへすかさず遊戯がわけ入り、横から獏良が押さえつける。
硬直して動けなかったのはアテムだけだ。
「こいつがのびてる間に入って入ってー。」
「お、おう。」
「お邪魔しまーす。」
「や、宿主テメェ…っ」
アテムは心配そうにバクラを眺めるが、遊戯においては踏みつけていく始末。これには同情せざるをえない。
「ごめんね、見苦しいものを。」
「相変わらず仲いいねー。」
「やだなぁ遊戯君。それ、誉めてないよ。」
ベランダに向かう途中で失礼な会話をしているうちに、バクラがゆらりと立ち上がった。そして憎々しいという目で2人の背中を睨みつけている…と思えば、自然をアテムに移してニヤリと笑った。暴君2人が部屋に入って消えた瞬間に最後尾のアテムに飛びついた。
「ひゃっ!?」
「王様、細くなったか?」
「は、離せっっ!」
アテムは必死にもがき抵抗するが、元から力の差があった。おまけに女になった今では尚更敵うはずはない。そのまま抱き込まれてしまった。
「油断も隙もない!やっぱりす巻きにしてベランダに出しておくんだった!」
「今からでも遅くないよ!」
とんでもない台詞を吐く2人を警戒しながら、バクラは改めてアテムを見つめた。冷や汗を流しながらもバクラの顎を押すという抵抗を止めないアテムに、耳元で囁いた。
「王様。女みてぇな体になったなぁ?」
「!?」
痛いところを突かれて動きを止めたアテムに、バクラの口角がニンマリと上がる。舐めるように反応を観察して後ろから抱きかかえる。
「いつもより小さいし、柔らかいし、まさかなぁ…?」
煽るように続けるバクラに、獏良のケロリとした声が被さった。
「何を言ってるんだ!女の子"みたい"じゃなくて、女の子に"なった"でしょ?」
何も言っていないのに確信をつき言い当てた獏良にアテムと遊戯は目を剥き獏良を見た。しかし本人は至って普通だ。まるで最初から知っていたかのように。
「言ってないはずなのに…っ!どうしてわかったの?」
「会ったときから気になっていたんだよねぇ。全体的に柔らかくなったっというか、なんか……男独特の気が和らいだっていうのが確信かな?」
遊戯が慌ててバクラを引き剥がし、獏良を問い詰めるとのんびりとした笑顔が返ってきた。何だかふわふわした言い方ではあるが、間違っていないところが恐ろしい。「まさか本当だとは思わなかったよ」と笑う獏良の誘導尋問に遊戯は戦慄を覚えた。
「アテムだけがこうなった理由はわからない?」
「さすがにそこまではわからないかなぁ…」
「そうか……」
肩を落とすアテムに、遊戯が安心させるように肩を叩こうとして張り付くバクラと目があった。無言でバクラの顎を押し引き剥がすと獏良がアテムに近づいた。
「アーテム君。」
「なんだ?」
「可愛いっ!」
女子高生みたいなノリで、獏良がアテムに抱きついた。突然の出来事に慌てるアテム。しかし女の力では強い抱擁から抜け出すことが出来ない。身長差も仇となってしまった。
「こういう可愛い子見ると、ついつい弄りたくなるよね♪」
「獏良君、やめてよね。アテムが怯えてるでしょ。」
「はは、ごめんごめん。ところでさ。僕、フィギュア作ってるんだけどモデルになってくれない?」
アテムを抱きしめる手を緩めない獏良がニコニコしながら言う。後ろで遊戯が悔しそうに爪をかんでいるのは秘密だ。
「フィギュア?」
「そうそう!ただ色んな服を着てもらうだけだよ。」
「マジか!」
何故か喜ぶバクラを遊戯は見逃さなかった。素早く肩を掴むと笑顔で引き寄せる。その笑顔の裏に隠された般若のようなオーラにバクラは察した。逆らわない方がいい、と。
「バクラ君。フィギュアについて知ってることを詳しく聞かせてもらおうか。」
「いや、少々マニアックな服を着せるだけだ…」
「バクラっ!あながち間違ってないけど、余計なことは言わないの!」
あながち間違っていないとはどういうことであろうか。その疑問は解消される間もなくバクラの胸ぐらを掴みビンタをかます獏良。遠目でその様子を見つめながら、アテムは察した。
「関わらない方が身のためだぜ。」
「そうだね。」
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獏良>バクラ
修正15.5.15
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