ゆぎお | ナノ



パニック!城之内編

B城之内編


遊戯は悩みながら早足で外を歩いていた。
理由はアテムの腹の虫が鳴ったことである。今は別の体の為、アテムが食事をするのは初めてと言っても過言ではない。
一体何の料理がいいだろうか。それを悩みながらも早足で進んでいたのだ。
するとお約束。

「オーッス、遊戯!」

「城之内君!」

いきなり親友の城之内が首に腕を絡ませてきたことで、前のめりになってしまった。少し痛かったが、親友とわかれば話は別だ。ガシッと腕に首が捕まりちょっと締まるが自然と笑顔になる。

「なーに急いでんだ?」

「買い物だよ!」

「ん?パックか何かか?」

「ただの食料調達。」

カードのことで頭がいっぱいなのはお互い様。相変わらずな城之内に遊戯は力なく笑った。

「ふーん、お前暇か?最近新しいデッキを作ったんだよ!見てくれないか?」

「うん、いいよ!」

「よっしゃあ!じゃあ今からお前んちな!」
楽しそうな城之内とは裏腹に、遊戯は口元を引きつらせた。いつもは笑顔で了承してくれる遊戯だが、今日は歯切れが悪い。付き合いの長い城之内を誤魔化すことは出来ない。不思議そうな顔で覗き込まれ、遊戯は頬をかきながらから笑いをする。

「どうしたんだよ?都合でも悪いのか?」

「はは、僕は困らないけど、なんというか…」

「お前が困らないならいいんじゃねえのか?」

城之内が不思議に思うのも仕方がない。しかし遊戯の言い分は間違ってもいない。



「お邪魔しまーす。」

「あら、どうぞ。」

遊戯を無理矢理引きずりながらも、遊戯の母と挨拶を交わし部屋へむかう。おかしなものを見る目をしていた遊戯の母だが、いつものことだとすぐに笑顔になるところはさすがである。
小さい抵抗ながら手足をばたつかせていた遊戯だが、身長差と体格差に諦めてすぐにおとなしくなった。

「城之内君……嫌われたら君を恨むよ。」

「へ?誰に?」

遊戯の意味深な言葉に首を傾げたと同時だった。目前だった遊戯の部屋の扉がひとりでに開き、見慣れた奇抜な髪型が見えた。しかしおかしい。見慣れてはしまったが星形なんていう奇抜な髪型の人物は、今脇に抱えている彼しか知らない。

「相棒。こんな服でいいのか?」

遊戯のことを「相棒」と呼ぶ人物は1人しかしらない。古代のエジプトの王であり遊戯の所持していた千年パズルに宿っていたアテム。
しかし戦いの儀式を終えて、元の時代へと帰ったはずだ。そのアテムは遊戯の顔を見て、すぐに横の城之内の視線に気がついた。体を跳ねさせ驚愕で硬直してしまった。

「すごく最悪にいいタイミングだったね。」
遊戯の一言にいち早く我に返ったのがアテムだった。顔しか出していないにも関わらず咄嗟に胸を隠しながら引っ込み扉を閉めてしまった
しばしの沈黙。
未だに状況が理解出来ずに扉を凝視している城之内と頬をかく遊戯。

「あ、相棒!城之内君がいるなんて聞いてないぜ!」

「ごめんね…さっきばったり会っちゃって。」

頭は下げ頭の前で手を合わせるが、アテムには見えないために誠意は伝わらない。扉を開けられないように自分の体重で抑え込むアテムの目は必死である。

「ユウギ、いやアテム!?」

我に返った城之内はお約束な反応をしてくれた。面白いほどパニックになり、遊戯ともう1人の遊戯が消えていった扉を交互に見つめては慌てふためいている。

「今さっき帰ってきたんだよ。」

「今さっきって!」

軽く言う友に最もな反応である。驚きの余りに遊戯を支える手を離してしまい睨まれてしまった。

「もう一人の僕、もう見られちゃったし諦めなよ。」

「い、いや、まだセーフだぜ!」

アテムは意固地になって主張する。

「城之内君には隠し事をしたくないし、ね?」

汐らしい遊戯の一言にアテムの心は揺らがされた。静寂が2階の廊下に訪れ、静かに硬い扉が開かれた。
しかし城之内はその扉をくぐる勇気が湧かない。廊下の真ん中で立ち竦む城之内に遊戯が恨めしい目を向ける。

「わかったぜ…」

折れたのはアテムだった。いつもの彼とは違う、覇気のない弱々しい声がしたと思ったらアテムが姿を現した。
落ち込んでいるような怒っているような、俯いた顔の表情は読み取れない。それよりも服装だ。
同年代の杏子と年上の舞に選んでもらった服は勿論少女のものだ。



「でも何でスカートなんだ?それに身長もなんだか縮んで…。」

身長まで見抜くという鋭い城之内に、アテムは真っ赤である。

「や、やっぱりダメだぜ!!」

慌てて遊戯の部屋へと逃げ込もうとしたアテムの腕を、咄嗟に城之内が掴む。

「見事に拗ねちゃった…。」

確信犯よろしくな遊戯にアテムはむくれてしまった。城之内を盾にするようにしがみつき遊戯を睨み付ける。

「アテム。機嫌直せよ…な?俺も事情は全く知らなかったんだよ。」

城之内のことは許しているのだろうか。しがみついて離れようとしない。しかし遊戯を全く見ないのは、友人を連れてきた上に秘密をバラされたことに拗ねているのだろう。
遊戯が「ごめんね」と笑顔で謝れば少し赤い目が顔を出した。怒っている。これは怒っている。

「俺は知られたくなかったのに……」

「何でだよ?」

城之内が純粋に問えば、赤い顔。

「…恥ずかしいだろう。それに女になったなんて言えば、皆が何て言うか…。」

「ユウギ。」

自分の想像に捕らわれて俯くアテムに、城之内は微笑んだ。

「ユウギはユウギだろ?俺達は気にしないぜ!」

「城之内君……」

顔を上げてはにかむアテムに、城之内は赤くなる。元々アテムも遊戯も童顔で可愛らしい容姿をしていたのだ。アテムの無邪気な微笑みに、城之内の純粋な恋心は刺激される。

「城之内君?」

「いや、何だユウギっ?」

「声が裏返ってるぜ?」

「え、そ、そうかぁ!?」

動揺する城之内。
そんな城之内の心中もわからずに、心配をするアテム。心配してくれるのも、接触出来るのもうれしい。だが不意に感じた怒気に城之内は硬直する。ギリギリと音がたちそうな緩慢な動きで城之内が振り返ると、案の定。視線を感じるのは遊戯からだ。

「城之内君。アテムから離れようか。」

静かだが、怒気の孕んだ声に城之内は冷や汗が止まらない。口は笑ってるが、目は笑っていないところがまた恐怖を煽る。

「アテム。こっちにおいでよ。」

「どうしたんだ相棒?」

アテムが持ち前の天然さで遊戯の要求をはねのける度に、遊戯の視線が細くなる。
今日の城之内の運勢は、最高のち最悪の最高。

++++++
城之内君はどうあがいても片思いになってしまう…

修正15.4.6

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