可愛い人
※女体化
覇王。俺の可愛い覇王。
半身であり自身でもあり、もう一人の俺。
どんな姿をしていても変わらない。
朝起きたら、不機嫌に腕を組む覇王の姿が目に入った。不機嫌なのはいつも通りだ。しかし今日は、なんというかいつも以上なのだ。傍らにはユベルがムスッとしながらも覇王を睨んでいるところを見ると、喧嘩でもしたようだ。
「どうしたんだよ、朝っぱらから…」
「どうもこうもない。」
『十代からも言ってやってよ。ボクは悪くないってさ。』
そんなことを言われても状況を把握しないことには何も言えない。寝ぼけた頭で髪をかきむしりながらベッドから抜け出すと2人の間に分け入った。
「とりあえず状況説明をしてくれよ…。」
「俺の体が女になったことについてだ。」
「は?」
覇王の言葉に驚くのも無理はない。人間の性別が勝手に変わるなどありえないことだ。それに失礼ながらも体のどこが変わったかわからない。女性特有の胸すら判別出来ないほどに。
しかし未だユベルとああだこうだと口論をしているところを見れば、本当のことらしい。十代は頭をかくばかり。
「両性をもつ貴様が十代と融合することによって、男の要素は十代に、女の要素は俺にきたようだ。」
『だから違うって!』
冷静に語る覇王にユベルも負けじと反抗する。
再び意味のない言葉の横行を始めた2人を見つめながら十代はため息をついた。
覇王が女体になったなど、非現実的なことに慣れたとは言え鵜呑みにするには難しい。声も意識すれば微かに高くなったと思える程度である。些細な変化でしかない。
しかし覇王は意味もなく喧嘩を売るタイプではないし、冗談など通じない。言っていることはきっと正しい。
ふと2人の喧騒が消えた。不思議に思い思案を止めると苦い顔をした覇王がいた。人に弱みを見せない覇王が感情を露わにするとは、これには十代も青ざめる。
「どうした!?」
「このくらいで騒ぐな、喧しいぞ。」
「お前が心配だから…」
「くだらん。」
喋り方はいつも通り。冷たく突き放した物言いではあるが、弱々しさがある。支えるために肩を振れると睨まれはしたが、振り払われることはなかった。
「まずは休もう。欲しいものを取ってきてやるよ。」
「……神カード…」
「それは無理だな。」
いつでもデュエルの事を考えているのは流石と言うべきか。ベッドまで誘導してやると、力が抜けたように座り込んだ。
「待ってろ。今トメさんに元気の出るものを作って貰うからな。」
『…僕は原因を探ってみる。』
覇王の弱った姿を見てユベルも焦った。姿を消したユベルを気にもとめず、十代は覇王を見つめていた。体が変化したことで、体調に異変が起きているらしい。眉を寄せる覇王につられて十代までもが胃が痛む思いだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫なわけが―――」
覗き込んできた十代を追い払おうと睨みつけたところで覇王の動きが止まった。
何故だろう。いつも見ていた十代の顔に心臓が高鳴った。
戸惑うと同時に体の力が抜けた。首を傾げる十代に、覇王は熱い息を吐いた。
「十代…」
「覇王、どうし―――」
肩に頭を乗せ、甘えるなんて珍しい。十代も驚き目を瞬かせていると、小さく呻き声が聞こえた。
「十、代…」
日頃聞けないような甘さを含んだ声に、十代の肌が粟立った。体調の変化による腹痛に体と心が弱っているだけだ、そうはわかっているが熱い息と苦しそうに寄せられた眉にはつい息を呑んでしまう。
「大、丈夫か…?」
自然になるよう振る舞い、腹へと手を伸ばせば覇王の金の目とぶつかった。明らかな甘えを含んだ瞳に、顔が熱くなる。
無意識に胸へと伸びた手が振り払われることはなく、寧ろ無骨ながら小さな手に包み込まれた。指を動かすと柔らかい胸の感触。カッと顔が熱くなるのを止められなかった。
「柔らかい…」
「当たり前だ……」
胸を揉まれて感じたのだろう。少し赤い顔の覇王が可愛らしくて夢中で胸に手をはわせる。眉を寄せられはしたが、拒絶はない。
幾度か十代と覇王は友や家族を超えたスキンシップを行ってきた。しかし今日は覇王の体の変化もあり、いつもより興奮してしまう。
「覇王……このまま襲っちまうぜ…?」
「許可をとらないと動けないのか。ヘタレめ。」
「言ったな。」
そのままベッドに押し倒し、ニヤリと笑うが余裕のないことは覇王に見透かされている。
逆に嘲笑うように覇王の手が十代の服へと伸びる。
「やめろと言ってももうやめないからな。」
「ヘタレにお似合いの台詞だな。」
どちらともなく笑いあい、唇を重ねる。覇王が膝を立てて十代の股を刺激すれば、舌が焦ったように絡まり吸い付き求め合う。名残惜くも離れた2人を伝う、銀の糸。そのまま首筋に顔を埋めながら上着を外していくと、わざとらしい溜め息が聞こえてきた。
『全く。ボクが頑張って調べてたってのに、2人だけでイイコトしてたのかい。』
降ってきた声を見上げると、ユベルが腕を組み呆れたように2人を見下ろしている。
今更恥ずかしがることもないし、ユベルも知った関係だ。「ああお帰り」とそっけない返事を返せば、わざとらしい溜め息を再び。傍らに正座で座り込むとじっとりとした視線で覇王の胸を揉む十代の手を見つめる。
「で、どうだった?」
『不本意ながら、ボクの影響であることは間違いないらしい。』
「いつになったら戻れる。」
『そこまではわからない。戻れるかもしれないし、戻れないかもしれない。こればっかりはボクにもわからないよ。』
セクハラをしながらされながら、平然と答える2人には感心するばかりだ。なかなか絶望的なことを言われたのに動じないところもさすがと言うべきか、刹那主義と言うべきか。今まで様々な環境に順応してきただけのことはある。
『しばらくは戻れないと思うから、せいぜい2人でヨロシクやってなよ。ボクは戻るからさ。』
空気を読み消えるユベルを見送り、十代はニンマリと笑った。覇王の上着を勢いよく開くと確かに小ぶりな胸があった。ピンクで色の薄い胸へとしゃぶりつくと覇王からは甘い声。
「先にイったほうが、大人しく言うことを聞くこと。いいな?」
「上等だ。今まで貴様に負けた覚えがないからな。」
「言ってろよ。今日は負けないからな。」
賭事とは色気のない限りではあるが、照れ隠しには丁度いい。2人の曖昧な関係は続く。
+END
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にょた化して体調不良な覇王
むらっときて十代に甘える
15.5.7
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