ゆぎお | ナノ



笑顔の理由(わけ)

※覇王とヘルヨハとユベルが普通にいます

ここは昼下がりのレッド寮。
昼食の時間が終わると、いつもここには似つかわしい青の制服を着た少年が現れる。言わずもがな、少年はヨハン・アンデルセン。ノース校から来た留学生である。
そして、目の前には黒の制服を着た少年。のこ学校にはブラックなどいうランクは存在しない。それでも黒い制服を纏うのは、オシリスレッドの万丈目と、あともう一人。どこにも属さない、しかしこの学校へといつの間にか現れて頂点に君臨した存在、覇王だけだ。

「覇王って何が好きなんだ?」

「何だ急に。」

「だってよ。笑顔とか見たことないし。」

皆から畏怖の存在である覇王に、気さくに話しかけるなど命しらずな、と思うであろう。しかし、何を隠そう彼らは恋人同士なのだ。覇王の半身である十代も認めている。

「笑顔と何の関係がある。」

「好きなもの前にしたら自然に笑顔になるもんだろ?」

「くだらん。」

覇王は細かい活字だらけの本から目を離さず、言葉でヨハンを一刀両断する。そんな覇王の態度は今更だ。だが飽きもせず今日もヨハンは拗ねて膨れっ面を浮かべる。

「くだらなくても答えてくれよー。」

「何故。」

躊躇いも容赦もないこの物言い。反抗を許さない絶対的なこのオーラ。さすがは覇王と呼ばれる存在。
だがそんなことで怯んでいては、覇王の恋人など務まらない。再び問おうと口を開きかけた瞬間だった。扉が勢いよく開かれたのは。

「覇王ーっ!」

ノックもなしに、勢いよく扉が開き入ってきたのは十代だった。覇王と同じ顔、鷲色髪、そっくりな声。違うのは服の色と琥珀色の眼と金色の眼だけ。その覇王の金の目が、乱入者を特定すると煩わしそうに細められた。

「ヨハン。きてたのか。」

「よっ。十代、どうしたんだ?」

勢いに任せて飛び込んだ拍子に覇王に抱きつく形になってるのがちょっと妬ける。しかも何事もなかったように、本を読み続ける覇王の態度にもだ。
仕方ないとはわかってはいるが、この二人には不思議な絆がある。凸凹のコンビようで仲がいいのもそのせいだ。

「ヘルがセクハラかましてきて困ってたんだ。」

「またか。」

覇王とヨハンの声が綺麗に重なった。
ヘルヨハン、通称ヘル。ユベルがヨハンに憑依した際に生まれた人格で、温厚なヨハンと違い非常に好戦的で粗野な性格をしている。
ユベルの影響かはたまたヨハンの影響か、十代と覇王がお気に入りで、よく交流と言う名のセクハラをしているのが悩み。覇王は暴力で解決してしまうが、十代はそのようなことは出来ない。そのためにいつもヨハンは覇王に泣きついてくるのだ。

「そのヘルは?」

「ユベルが交戦中。」

「すっかりユベルは十代の親衛隊だな。」

から笑いをしながら、ヨハンは自分の半身を思い浮かべ顔をかく。十代には覇王以前にユベルがいる。いつも返り討ちに合いながら、それでも諦めないヘルヨハンには困ったものだ。

「覇王もよくセクハラされてるだろ?どうすればいいのか教えてくれよ〜…」

「シメる。ヤられる前に殺れ。やられたら殺り返せ。サーチアンドデストロイだ。」

「やる側は命がけだな。」

先日、顔に青アザを作って帰ってきたヘルヨハンの身に何があったのか、この言葉で全て悟った。覇王にセクハラをしたら、顔面に拳をいただいたのだろう。

「よし、俺も頑張るぜ!」

「待て待て十代!」

「十代、僕を置いていかないでくれよ。」

なんと間の悪いことか、話の中心だったヘルヨハンが入ってきた。彼も覇王と同じ黒い制服を着ている。イレギュラーな彼がどこにも属さないのは同じだ。
十代に抱きつこうとして、ヨハンを見て盛大なため息を一つ。そして、更に視線をずらすと覇王を捉えイヤらしい笑みを浮かべた。ヨハンの眉間の皺が深くなった。

「覇王もいるなんて丁度いー」

お目当ての二人へ歩み寄ろうとした、瞬間。鈍い音がして、ヘルヨハンの体が前のめりになった。
原因はユベル。後ろから容赦ためらいのない飛び膝蹴りを、延髄目掛けてはなったのだ。なかなかエゲツナイことをしているのだが、十代の顔が輝いた。

「ユベル!」

「十代!覇王!とヨハン。」

「あれ、俺オマケ?」

「大丈夫か?どこも怪我をしてないか?」

「十代が無事ならボクは平気だよ。」

駆け寄ってきた十代にユベルはいい笑顔。二人の世界に入る寸前、ヘルの怒声が響いた。

「どけコウモリ!!探したぜ十代…覇王もこんなところにいるし…フフ、」

ユベルを退け十代を抱き寄せる。
再び攻撃をしかけようとするユベルだが、今は十代がいるせいで迂闊に仕掛けられない。慌てる十代とユベルだったが、十代が決心し反撃に出た。

「離せって!」

グーでヘルヨハンの頬を狙うが、いかんせん無意識に手加減してしまう。余裕で受けられてしまい、ヘルヨハンはニッと笑った。

「甘いぜ十代。手加減してくれる優しいところ、可愛いぜ?」

「う…ダメじゃん、はお――」

覇王に助けを求めようとすればヘルヨハンのから響く、本日2度目の爽快で鈍い音。
ヘルヨハンの頬だけに拳を当てながら、十代を引き寄せユベルにアイコンタクトを送る。
そう、「殺れ」と。
ユベルの目が鋭く光り、容赦なく飛びかかる。そのまま部屋の一角で争い始めたユベルとヘルヨハンの様子を、ベッドから見守る十代。困った顔をしてはいるが、止める気も仲介する気もないらしい。
ベッドの下に避難しているは、覇王とヨハン。彼らも同じく、争う二人を止める気などない。

「お前本当にヘルが嫌いだな。」

2人の喧嘩を横目に、苦笑いを浮かべるヨハン。覇王の興味はもう自らのデッキへと移ってしまっているが、小さく返答が帰ってきた。

「似てるからな。」

「誰に?」

「貴様に決まっているだろう、アンデルセン。」

ヨハンは雷に打たれたような衝撃を受けた。それは遠回しに「お前も気に食わない」と言われてるようなものである。目で訴えようとも、覇王はデッキから顔を上げない。ヨハンは益々不安になるだけだ。

「なら俺も嫌いなのか!?」

「紛らわしいからな。」

淡々と言う覇王に、ヨハンは遂に涙目になる。好きな相手に言われたら辛い言葉が『嫌い』だ。これにはいくらポジティブなヨハンも凹まざるを得ない。

「そっか、俺のこと嫌い…。」

「アンデルセン。」

「え、俺だけ?…俺だけ?」

「アンデルセン。何をブツブツ言っている。」

「痛ぇっ!」

自分の世界に浸るヨハンの頭を平手で容赦なく叩く覇王。平手なのに、脳が揺れるかと思った。恨めしそうに見上げるが、「自業自得だ。」と謝罪の言葉1つない。

「貴様は『好きなもの前にしたら自然に笑顔になるもの』だと言ったな。」

「え?言ったけど…。」

突然、話が戻されてヨハンは目を瞬かせた。
「別に笑顔にならんから嫌いだ、とか面白くないとは違うだろう。」

予想外だ、覇王がフォローをするなんて。ヨハンは開いた口が塞がらず、覇王を見つめ続ける。

「勘違いしてるか知らん。が、貴様だと思ったのにヘルだった時、無性に腹が立つだけだ。」

「え、それって自惚れていいのか。」

「フン。」

ちょっぴり顔の赤い覇王を見てヨハンの顔にみるみる笑顔が戻ってくる。
これでも覇王なりの気遣いなのだ。不器用で暴力的なところもあるけれど、覇王はただ自分に素直なだけ。嫌いなものは嫌い、好きなものは好き。それをしっかり態度で表していたではないか。

「へへっ♪覇王、大好きだぜ!」

そのまま頬に軽くキスを落としたが、拳は飛んでこない。これが、覇王の愛情表現だと、前々からヨハンもわかっていたではないか。言葉や表情で表してほしいのはわかる。が、別に目に見えないからと言って、不安になることなんてなかったのだ。
嬉しくなった勢いで抱きつき押し倒し、上着を開こうとした時。覇王のドスの利いた低い声が響いた。

「…アンデルセン。そこまで許した覚えはないぞ。」

下段ベッドから物凄い音が聞こえ、十代の体が跳ね上がった。

+END

++++
相互記念に捧げていました。土下座させてください(震え声)

10.2.1
修正14.10.22

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