酒と勢いと
※アストラルのキャラがかっとビングしてます
街の一角、とある場所。九十九遊馬の住まう家の屋根裏部屋で今日も今日とて事件はおきた。
今夜も遊馬はデッキの構築をしていた。集中してカードを見比べ、頭を抱えていた遊馬は気がつかなかった。背後から近寄る影に。音もなく遊馬へと距離を詰めると、0になる瞬間に首へと抱きついた。
『ゆうみゃ〜っ!』
舌っ足らずの男の声、感じる冷たいながらも火照った体温。この家に男は遊馬と、遊馬にしか認識出来ないアストラルしかいない。しかしアストラルには触れられないはず。だがこの声はアストラルで間違いない。ただ舌っ足らずで浮ついた声であることが気掛かりである。
『でっきこーちくか、ゆうま〜』
「アストラル!?何で触れられて……いや、それよりもなんかおかしくないか!?」
『どきょが…?』
おかしい。明らかにおかしい。
「だ、誰だアストラルに変なことをした奴!?お前かNo.96!?」
舌っ足らずで名前を呼ばれ、首に抱きつかれた遊馬。すっかりパニックになりそこにはいないNo.96を詰問する。すると、父のコレクションをかき分けるようにスライム状の黒い水溜まりが現れ、ヒトに似たの形へと変態する。No.96である。
八つ当たりにも似た詰問は無論照れ隠しだ、顔も真っ赤になり視線はアストラルへとちらちらと向けられている。しかしアストラルの抱擁が緩むわけはなく状況打破にもならない。
No.96はというと反省した様子も困惑した様子もない。ただ観察者のような冷静さで、腕を組みアストラルを眺めている。
『いや、何もしてないぜ。』
「嘘つけ!じゃあなんでアストラルが酒を飲んだみたいに……ん、酒?」
『酒だ。』
No.96が掲げたもの、それは空の一升瓶。酒など遊馬は飲んだことがないためにわからないが、この量は『飲み過ぎだ』ということだけはわかる。みるみる顔が青ざめていった。
『きっかけを作ったのは否定しないが、無理矢理飲ませたわけじゃない。』
「お前が悪いのにはかわりねーだろっ!」
しらを切り続けるNo.96に反省を促すのは最早無駄であろう。歯軋りをしながらアストラルの定位置を浮遊するNo.96を睨みつけていると、首に錘がぶら下がった。
『ゆうま、私をほっといて別のやちゅと、しゃべるにゃ……っ』
抱擁の力が強まり遊馬は緊張に体を強ばらせた。しかし体は正直だ。体は火照り雄も反応を示している。
『ゆうまは、私だけのゆうま……だりぇにも渡さない…』
拗ねた顔でNo.96を睨むと、わざとらしく肩をすくめられた。思考が幼児退行しているために、下手な刺激を加えたら見境なく暴れ出すかもしれない。
我に返った時に自分の痴態を思い出してどんなことをするのかは気になる。しかし記憶が残るとは限らないために、期待は出来ない。そんな現実逃避の思考を凝らしていると幼い目が遊馬を覗き込む。
『ゆーま、なに考えてりゅのぉ?』
いつもの知的で落ち着いたオーラと童顔に似合わない鉄面皮はどこへやら。幼く無邪気なアストラルに心臓の高鳴りが止まらない。ぺたりと地面に座り込み、股を大きく開いている為に遊馬の視線は釘付け。裸なのが相まってイケナイことをしている気になってしまう。
「アストラルのことだよ。」
『ゆうま、しゅきっ!』
感情露わに抱きつき、擦りより甘えてくるアストラルに遊馬の体は硬直した。
手を背中に回したい、だが緊張で固まってしまい動けない。驚きと興奮で険しい表情をしている遊馬にアストラルは首を傾げる。
『ゆうま、どうしたにょ…?どこか痛いのか…?』
「ち、違うから、とりあえず、離れて……」
『ゆうま……ふええ…』
純粋に、興奮がばれないようにと思っての言葉だったがまさか泣き出すとは思わなかった。アストラルらしからぬ豊かな表情に遊馬が困惑させられてしまう。
『ゆうま、私、わたし、ゆうまのこと、好き、すき……』
「うん、俺も好きだから、泣くのをやめてくれよ……」
『本当?ほんとーに…?』
怖ず怖ずと遊馬の様子を伺う上目遣いに、クるものがある。顔を真っ赤にしながら股間を抑える遊馬も気にせずに未だ涙で潤む目はそのまま、へらりと笑った。
『なら、私と…えっちなこと、しよ……?』
「えっ、あ、そ、それはダメだ!!」
遊馬の強い否定にアストラルの細い肩が跳ねた。怯えて丸くなった目はどんどん水の幕に覆われて大粒の涙となり零れ落ちる。
これに驚くのは遊馬の番だ。慰めようとはするが何故泣き出したのかわからない故にどうしようもない。手だけを忙しなく動かしていると、目を擦りながら俯いて声を上げ始めてしまった。
『ゆーまはっヒック、私のことがっ、キライなんだ……ヒック、』
「いや好きだって!だから」
『スキだとえっちなことをすると聞いたの……』
いやな予感はするが、一応聞いておこう。
「誰に?」
『俺か?』
「お前かっ!」
今までおとなしかった為に存在を忘れかけていた。何食わぬ顔で自らを指差すNo.96と衝撃の言葉に遊馬は噛みついた。
『そんなつもりで言った訳じゃないがな。意味を聞かれたから、好きにヤりたいからヤるって答えただけだ。』
「どっちにしろダメだろ!」
『間違ってないだろ。』
態度を改めることはないNo.96に、遊馬は恨めしい視線を送る。また放っておかれた、とアストラルの首への抱擁が強くなったことで強制的に見つめ合う形となった。
『他のやちゅとしゃべったら、らめっ』
体重をかけられるままに体はアストラルへと倒れ込む。押し倒した体制になり遊馬の体が緊張で動けなくなった。
「アストラル…」
『ゆうみゃ…』
見つめ合い、互いの鼓動が聞こえそうな距離。真っ赤な顔で緊張を隠せない遊馬と嬉しそうに笑いながら、遊馬からの愛撫を待ちわびるアストラル。
しかし、アストラルの声が弱々しくなり、伸びてきた腕が力なく床へと落ちる。音もなく落ちた腕に、静かな空間に遊馬の鼓動の音だけが響いているような錯覚に陥った。
「アストラル…?」
まさか今更酒が体に悪影響を及ぼしたのだろうか。青ざめた遊馬だったが、体の下からは穏やかな寝息が聞こえてきたことに肩を落とした。
『やっぱり未成年は酒を飲むものじゃないか。』
「そういう問題じゃねえだろっ!お前のせいで俺が〜!」
『酒の勢いって大切だぜ。ヘタレ君?』
からかいか、それとも2人の仲を応援しているのか。いや、No.96に限って後者はありえない。アストラルを守るように上着を上に被せた。
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ベタネタをやっていなかったです。
15.3.30
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