ゆぎお | ナノ



ほろ苦い甘さ


※アストラル人間転生パロ



久しぶりに風邪をひいた。
何年ぶりか、なんて覚えていない。風邪をひいていたなんて自覚もなかった。今日も元気に玄関を飛び出そうとしたところで姉の明里に呼び止められ、額に手を当てられ物凄く険しい顔をされたのは覚えている。
そこからは無理矢理屋根裏に担ぎ込まれ、土を被せるように布団を乗せられた。今は暖かくなってきたこともあり、薄いタオルケットで眠っていたこともあり熱いし重い。このまま化石にされそうだ。
下に降りようものなら明里に大目玉を食らうし、窓から飛び降りても着地が出来るかも危うい。 いくら運動神経がよくても、体調が悪いと何が起こるかわからない。怪我をして入院する方が休みを延ばす結果になるのはバカでもわかる。体調不良を自覚してしまったせいか、体は重く顔が火照る。あのまま明里が気付かずに見送ってしまえば、知らない間に完治していたかもしれない。しかし気遣ってくれた姉に心の中で愚痴を言っても仕方がない。
けれど遊馬には恨み言を言いたくなるほど、嫌いな学校へ行きたい理由があった。

「あ...」

窓の外に見えたのは、白いシャツに白い肌。家の真ん前の道路を通る姉への恨み言の原因がいた。アストラルだ。家の玄関を横目で見ているのは自意識過剰ではないだろう。
ハンモックから転がり落ちるように窓に駆け寄る。勢いよく窓を開け放したところで、アストラルの驚いた目が遊馬を捉えた。

「アストラーーー」

叫ぼうとしたが、目眩までもが邪魔をするように最後まで名前は呼べなかった。しかし最初の叫びはしっかりと庭の祖母の耳に届いており、目が合った。祖母の目が狩人のように細くなり、背筋に悪寒が走った瞬間。2階への通り道から明里が怒り心頭で顔を出した。

「遊馬!寝てなさいって言ったでしょ!」

窓から引き剥がされ、尾を引かれる思いでへばりつこうとする遊馬だが空手黒帯に勝てるわけがない。再び厚い布団の層へと戻されてしまい、再び恨みがましい目で姉を見る。しかし姉はとりつく島もなく、そのまま仕事へと戻っていく。

「アストラル君には、風邪がうつらないようにお見舞いも断ったわよ。」

「はぁ!?」

遊馬からすっとんきょうな声が上がった。

「当たり前でしょ。バカのアンタでもかかった風邪なんだから。」

「いや、それはねえよ姉ちゃん!」

「言い訳無用。遊びたいなら早く風邪を治しな。」

言い分は最もである。しかし楽しみを奪われては不満不平も出るというもの。遊び盛りの少年が、風邪という障害で動けないという苦痛を合わさり拷問状態である。
おたふく風邪ではないのに膨れる遊馬に、明里はため息をついた。

「アンタの好きなもの作ってあげるから。それで我慢しなさい。」

食べ物に釣られて頷いてしまったことは悔しい。悔しくなって布団を頭から被っていたら、いつの間にか眠っていた。


*


「遊馬、遊馬!ご飯できたわよ!」

眠りを妨げたのは明里の控えめながら、よく通る声だった。目を擦りながら体を起こすと周囲を見回す。
まず目に入ったのが無意識にはね除けてしまい、散乱している布団だ。熱かった故の行動だろうが、我ながらすごい寝相だ。
未だ覚醒しない頭で姉を見ると、手にはお粥が掲げられている。

「どう?起きられる?」

「ねーちゃん、仕事は...?」

「アンタは気にしなくていいの。」

きっと遊馬のために急いで終わらせたのだ。 申し訳ないとは思いながらも、甘えられるのは嬉しい。体が弱っているときは心も弱るとはよくいったものだ。粥を掬って差し出されたレンゲをそのままくわえこみ、粥を咀嚼する。
なるほど、しょっぱくもなく辛くもなく、丁度いい甘さがまた個性的な味わいだ。

「って。姉ちゃん!なんでお粥が甘いんだよ!」

困ったように苦笑しながら、明里も粥を口にいれる。「甘いわよねえ」と他人事な答えが返ってきたことに疑問が湧く。

「姉ちゃんも婆ちゃんも、こんなミスしねーよな?」

「作ったのはアストラル君だからね。」

明里の言葉に遊馬は目を見開いた。思わず窓に駆け寄り外を見るが、アストラルがいるわけもない。すぐに明里に連れ戻されてしまった。

「お見舞いは出来なくても、「手伝いがしたい」...なんて言うからね。作ってもらったのよ。」

遊馬が知っている限り、アストラルは料理を作ったことがない。人間に転生する前はずっと一緒だったし、転生したのもつい最近だ。遊馬が知らないならば確実に0であろう。ならば砂糖と塩を間違えるという初歩的なミスも頷ける。

「そのアストラルは!?」

「夕飯を食べていってもらうから、今下よ。」

「お、俺も!」

「だーめ!うつるって言ってるじゃない!!」

明里に押さえ込まるが、今度ばかりは本気で抵抗を始める。手足をバタつかせるが、風邪により奪われた体力がここで響いた。すぐにおとなしくなった遊馬に明里は満足げに頷き再び甘い粥を口に含む。

「ハンバーグをもってきてあげるから、おとなしく寝てなさい。」

姉がいなくなった部屋で、遊馬は拗ねて丸くなる。

「ハンバーグなんていいって...」

それよりも、甘いお粥だ。決して美味しいとは言えないが、咀嚼していくうちに甘い中に苦味が生まれる。薬だろうか、アストラルの不器用な親切さがたまらなく嬉しかった。

++++
【ゆまアス語り】仕事中、療養中など外に出れない状況で、ガラス越しに相手の姿が見えたとき(すぐ傍にいるか遠くに見えるかはおまかせ)について語りましょう。



確実にわざと砂糖を入れてます。嫌がらせじゃなくて、薬もぶちこんだために苦くないよう優しさです。

15.4.5
修正15.4.7




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