ゆぎお | ナノ



ホワイトデー

※転生パロ
※バレンタインの続き





「ほい。」

下校時間になり騒がしくなる靴箱。男子生徒が女子生徒に贈り物をする姿を見かけることに、学校の寛大さが伺える。
アストラルは1人靴箱に手をかけると、聞き覚えのある声。後ろ手で放物線状に投げ渡された物を、慌ててアストラルは受け止めた。投げ渡されたのは綺麗に包装紙でラッピングをされている、両手ほどの大きさの長方体の箱。柄にない白い包装紙に赤いリボンは丸くなった性格を暗示しているようだ。アストラル驚き目を瞬かせながら箱と投げてきた張本人―――ブラックミストを交互に見つめてブラックミストで視線を止めた。

「なんだこれは。」

「今日は"ホワイトデー"とかいうものだと聞いたんだがな。」

「ホワイトデー?」

首を傾げるアストラル。"白い日"など聞き覚えはないし、ブラックミストが無償で渡すなんて思えない。何か罠でも張り巡らされているのかとアストラルが体と箱を遠ざける。まるで爆発物を扱うような行動にブラックミストは鼻を鳴らす。

「フン。失礼な奴。」

さほど気にした様子もなくブラックミストは背を向けて校庭を歩き出す。はしゃぎ追いかけあう男子生徒とすれ違い、嬉しそうに挨拶をしてくる女子生徒には目で答える。
アストラルは未だに警戒は怠らない。しかし通り過ぎていった男子生徒の冷やかすようなはしゃぎ声に我に返った。箱からは目を離さぬまま釣られるようにブラックミストの背を追いかけ始めた。

ブラックミストはただ空を見つめながら歩き、アストラルも鞄を両手で持ちながらついてくる。なんてことのない学生の帰宅風景だ。しかしアストラルには知らない場所に迷い込んだように落ち着かない。

「いつまでも深刻な顔をされたら俺が落ち着かないな。」

今まで無言だったブラックミストが足を止めアストラルを振り返る。思案に耽っていたために反応が遅れてしまった。鼻からブラックミストに衝突してしまう、そう思っていたが衝撃はまだこない。目を開けるとブラックミストに額を片手で受け止められていた。優しい助け方ではないが、ぶっきらぼうながら優しく笑われた。

「何をぼーっとしているんだ。」

そのまま腕を掴まれてアストラルは身を強ばらせる。いつもの帰路ではない、今度こそ初めて進む道にアストラルは不安を隠さずブラックミストを見上げた。ブラックミストはわき目をふらずにただ前を見つめていた。

「待て。どこへ連れて行く。」

「バレンタインの礼。」

「会話をしろ。」

「ホテルじゃ高いからな。」

鬱蒼と木々が茂る公園の裏道が更に不安を煽る。身を隠せるような道を選ぶブラックミストは、まるで子供の秘密基地探検のよう。
木々が開けると、夕焼け空とアパートが見えた。年期が入っているが、建物としての機能は成している。人の気配を感じさせないこの場所はまさに秘密基地。アストラルをつれて足を踏み入れようとするブラックミストにアストラルは慌てた声を上げる。

「ここはどこだ。」

「オレの家だ。一人暮らしだから常に誰もいない。」

腕を掴み引き寄せようとするが、アストラルは根でもはったかのようにその場に踏ん張ろうとする。一人暮らしの男子生徒が女生徒を家に連れ込もうというのだ、気に入らないことだらけだろう。しかしブラックミストはアストラルがごねる理由がわからない。眉を寄せながらも手を引いてくる。

「私を閉じ込める気か。」

「閉じ込める?連れ込むだけだろ。それとも監禁プレイがお好みかァ?」

アストラルの耳に直接囁かれる甘い声。思わず縦に首を振ってしまいそうになり、アストラルは我に返る為に首を勢いよく横に振る。

「オレとお前の仲だろォ?」

見えない何かに操られるようにアストラルの足はブラックミストのリードに従い進み出す。家と言われた古いアパートの一室に連れ込まれ、背中から鍵が閉まる音がした。外装と同じく古めかしく暗い室内を見回してアストラルは緊張に体を強ばらせた。
そんなアストラルに目もくれず、乱雑に靴を脱ぎ捨てるとブラックミストは鞄を抱えて部屋の奥へと消える。彼の姿が見えなくなっても動かないアストラルに痺れを切らせてブラックミストが顔を出した。

「何してるんだ。早く来いよ。」

客に構わず煎餅をくわえているところは最早何も言うまい。

「あとさっき渡した箱は返せ。」

「くれたのではないのか?」

「持つのが面倒だから持ってもらっただけだ。」

「二人のものであることには違いないけどな」と笑うブラックミストにアストラルは赤くなる。今更ではあるが渡された箱は軽い。振るとカタカタと音がする。何かはわからないが、食べ物ではなく"お礼"というには程遠いものだということはわかった。

「本命はこっち。」

箱よりも乱雑に投げ渡されたのは、小さく光る銀の鍵。慌てて受け取ると、拍子に靴が脱げて家の敷居へと足を踏み入れた。それに満足したブラックミストの笑み。何も言わずに顔を引くとボリボリと咀嚼する音が聞こえてくる。

「見てわかるだろうが合い鍵だ。」

咀嚼音の合間に聞こえた言葉。投げやりな言い方だが、かなり重要なことを言っているではないか。

「お前、不用意にこのようなものを渡すとは。」

「女じゃあるまいし固いこというなよ、アストラルちゃん?ああ、お前は女になったから思想も女々しくなってるのかァ?」

挑発してくるブラックミストの声に呼ばれるように、遠慮なくリビングまで早足で進むと参考書の詰まった鞄で頭をひっぱたく。痛い、とは言うが顔はにやけたままなのが腹ただしい。
質素で必要最低限しか揃っていない、古びたリビング。壁に凭れるよう置かれたスプリングのきかないソファーに、ブラックミストは座っていた。

「まぁ座れ。」

「汚い。」

「じきになれるだろ。ならこっちがいいか?」

聞く耳を持たずに膝を叩くブラックミストに、アストラルは呆れた顔をしながらわざと勢いよく膝に乗りかかった。

+END

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安定の遅刻

15.3.17

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