ゆぎお | ナノ



路地裏での恋

※古代編


「チッ、メンドクセェ…」

バクラは不快そうに舌打ちをした。

衛兵の追っ手を振り切り、逃げ込んだ先の裏路地。
カーの攻撃が飛んできたと同時に、足首に痛みを感じたと思いきや、見事に怪我をして血が滲んでいた。避けようと思ったらよけられた。自分らしからぬヘマをしてしまったことに、バクラは再び舌打ちを鳴らした。
衛兵の声が遠くなったことであるし、そろそろいいだろうか。念のために様子を伺いながら、適当な布をちぎり応急処置を行うが、一向に止まる気配を見せない。
それどころか、衛兵とは別の気配に気が逆立つ。慌てて気配の方向へと顔を向けると、フードとマントで姿を隠した少年がいた。年齢は同じくらいだろうが、正確にはわからない。

「誰だテメェ…」

威嚇して睨み付けるが、驚きも怯えもしない。小柄な見た目とは裏腹に肝は据わっているようだ。あまつさえ、堂々と近づいてきたことに調子が狂わされた。

「怪我をしてるのか?」

「触んなっ!」

手を強く払い除けるが、ムキになり強い力で足を掴んでくる。

「何があったかは知らない。だがこの足でいるのは無謀だ。」

応急処置の布を感情に任せて乱雑に外すものだから痛みが走る。痛みには慣れている、声には勿論出なかったのだが少年は体を強ばらせた。

「悪い、痛かったか?」

本人の気づかぬうちに、顔に出てたのを敏感に感じ取ったのか。そんなことはどうでもいい。
素直で裏表がない相手は何年ぶりだろう。拍子抜けである。

「変わってるなお前。」

「俺からしたら、お前の方が変わってるぜ。こんな裏路地にいるなんてな。」

「なら、こんな所にくるお前も変わり者じゃねぇーか。」

「そう…なるか?」

天然な少年に、自然と腹の底から笑いが漏れた。不機嫌になりながらも、拗ねるだけで少年は押し黙るばかりだ。

「面白れぇ奴。ま、精々応急措置を失敗しねえようにな。」

「煩いぜ!」

年の近い者と、たわいなく話したのは、初めてかもしれない。よく見れば小綺麗で、可愛らしくもある。

「お前、このへんじゃ見慣れないな。」

平民にしては、身なりがよいと言うのが素直な感想。そして頑なに素顔を見せないその態度。憶測するに、貴族のお忍びか値のはる奴隷か。思った通りに発破をかけただけで、分かりやすいほど目が泳ぐ。素直すぎる少年に、思わず声を上げて笑ってしまった。
何かを隠しているのは丸わかり。だが自分も"わけあり"故にあえて追求はしなかった。

「手がサボってるぜぇ?"その辺の少年君?"」

からかってやったが、威勢のいい言い返しがない。不思議に思って顔を覗きこむと、心なしか青ざめている。

「こ、これ…痛くないのか?」

言われて改めて足を見れば、肉が割れて血が吹き出している。バクラすらここまで酷いと思っていなかった。少年はこびりついた血の量に戸惑っている。

「嘗めてりゃ治るだろ。」

怪我なんて盗賊をやっているといつものことだ。「気にすんな」と手をヒラヒラと振るが、少年は心配そうな顔のまま。
足を掴まれたと思いきや。目を瞑ってり傷に唇を這わせてきた。
これには驚いた。流石に予想外だった。
プライド高く見える彼が、足を舐めるとは思っていなかった。まさか自ら進んで行うとは。征服欲がかきたてられる。
しばらく舌の動きを楽しんでいたが、恨みがましい疑心暗鬼の目に邪魔をされた。

「本当に舐めたら治るのか?」

恥ずかしそうに言う彼に、加虐心がが刺激される。バクラはニヤリと意味深に笑った。

「そうだな…綺麗に舐めとってくれたら治るかもな。」

素直に信じる少年に声を上げて笑いそうになった。赤い舌が足を這う度、少年の屈する姿を見る度に興奮を覚える。
男色の趣味はなかったが出来心だったのだ。思わず顎を掴むと、不思議がり眉を寄せる少年。自らの血で赤く染まった唇を嘗めとってしまった。
真っ赤になる少年。不思議と湧かない嫌悪感。バクラも驚きである。

「な、なっ…!?」

「血が付いてたぜ。」

「あとはこれでも巻いてろっ!」

照れ隠しに乱暴にバクラの顔めがけて投げた布は難なく受け止めた。この布は少年の顔を隠していたものではないか。パニックになり、正常な判断も出来ないらしい。
それよりも見えた綺麗な紅い目にバクラの目は釘付けになった。

「次は怪我するなよ!」

捨て台詞のように駆け出していった少年を、追う気力も余裕もなかった。足が痛いのは勿論。だが見覚えのある独特な髪型、何よりも意志の強い紅い目がひっかかる。
思いつくのは1人だけ。この国の王子ではなかろうか。

「おいおい、マジかよ……。」

お忍びか脱走かは知らない。今からでも、追いかければ捕まえられる自信もある。
だが、バクラはそうはしなかった。

「案外可愛いじゃねえか。」

王子はバクラの正体を知らない様子だった。ならば、いくらでも出会うチャンスはある。
狙った宝は逃がさない。例え王族の宝であっても。
見えなくなった後ろ姿に、バクラは目を細めて舌なめずりをした。

+END

++++
まだ古代編をちゃんと読んでないときに書いたようです@4年前

修正15.1.7

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