ゆぎお | ナノ



表裏一体


※二人は別体設定
※表遊戯視点



"もう一人の僕"はモテる。
男のボクから見ても格好いいし、しっかり者だし、運動神経抜群で頭もいい。一見取っ付きにくそうでも優しく、才色兼備を兼ね備えている彼。そりゃあ納得も出来る。

僕はそのは正反対だ。
鈍くてよくヘマをするし、頭もよくもない。運動なんてもっての他で、誰かに頼らないとダメ、何をしても失敗ばかり、ダメダメな僕。唯一皆より秀でるのはゲームだけど、もう一人の僕には適わない。取り柄も無くなっちゃった。
まるで光と闇。コインの裏表みたいな僕らだけど、見た目だけはソックリな双子だったりする。同じ血が流れているはずなのに、世の中不公平だ。神様のバーカ。

え?兄弟の事を"もう一人の僕"って呼ぶのはおかしい?
でも本当にソックリだから、小さい頃は鏡を見ている気分だったんだ。だからか知らないけどいつの間にかこう呼ぶのがクセになってさ。もう一人の僕だって、僕のことを"相棒"なんて呼ぶし。でも周りの皆はもうなれたから気にはしない。

ふともう一人の僕の声が聞こえてきた。


「相棒、今日はどうしたんだ?やたらプレイが荒いぜ」
「気のせいだよ。いつも通りじゃないか」
「いつも通りの相棒は、ブラックマジシャンを放置しないぜ。魔法発動"千本ナイフ"」
「あー負けたっ!」

そういえば、今はボクの部屋でデュエル中だった。
思考が変なところに飛んでいたから冷静な判断が出来ていなかった。間違ってクリボーを場に出しちゃうし、今の魔法カードでボクの場のモンスターは全滅。このダイレクトアタックでボクの負け。大の字で寝転がるともう一人のボクが近付いて覗き込んできた。

「相棒らしくないミスばかり…どうしたんだ」
「ちょっとした考え事」

心配した顔をするものだから白状すれば、力強く「相談に乗るぜ!」なんて言ってくれるけど。何と言えばいいものか。しかし待たせるとまた心配をかけてしまう。とりあえず、疑問をぶつけておこう。

「もう一人の僕は彼女は作らないの?」
「か、彼女?それがどうしたんだ?」
「ただ聞いただけ」

上半身だけ起こし、真剣に聞くものだからユウギも困るのはわかる。だけどはっきりさせておきたいのだ。
僕が好きな女の子・杏子は目の前で戸惑っている彼の事が好きだ。彼も鈍感ながら気づいているはず。なのに反応を示さないというのはどういうことか。他に好きな子がいるのか、はたまたただ単に彼女を作らない主義なのか。

(僕は妬いてるのかな)

杏子が取られてしまう、それもある。しかし一番の理由は、もう一人の僕が取られること。
今まで片時も離れることはなかった。小中学校は勿論、高校まで一緒。彼はもっと頭のいい学校に行けた筈なのに、僕に合わせて同じ学校に入った。理由を聞いてもはぐらかされるだけなので、結局動機は知らない。
そんな彼が僕を置いて行ってしまうような感覚。いつかは離れなくてはならないとはわかっていても、割り切ることはできないこの感覚。それが苦しい。醜い独占欲だ。

「聞き方が悪かったかね。ねぇ、好きな子いないの?」

単なる好奇心、怖いもの見たさ、僕なりのけじめ。彼を真っ直ぐ見て問えば、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。普段はクールな顔しか知らないから、珍しい表情が可愛いと思ってしまった。クスリと笑えば顔がしかめられる。だが顔が赤いために怖くもなんともない。

「照れてる…可愛い。」
「相棒に言われたくないぜ!」
「なにそれ。どういう意味さー」
「相棒の方が可愛いってこと」
「嬉しくない…。」
「俺だって嬉しくないぜ」

睨み合ったと思えば、どちらともなく二人で笑いあう。
この二人だけの空間が大好きなのだ。誰にも邪魔されないこの穏やかな時間が、僕は大好きなんだ。

「で。可愛い可愛いユウギ君は好きな子はいるのかなぁ〜?」
「また可愛いって言ったな!…い…るけど……」
「ウソ、誰!?」

まるで恋愛話をしている女子高生のように食いついてしまった。色恋沙汰に興味がないと思われていた彼に、好きな人がいるなんて!
杏子だろうか。興味あるが、聞いてしまえば後悔しそうな気がする。だが彼の門出なら祝福して応援すべきだ。それが"兄弟"として僕に出来ることだから。

「……嫌わないでくれるか?」
「いいよ。…杏子が好きでも、僕は君の応援をする」
「そうじゃなくてだな」

いつもは自信満々に構える彼がうなだれて目には不安の色が宿っている。口振りからして杏子ではなそうだが、一体誰なのか。こっちまで緊張してしまい、思わず正座をしてしまった。

「俺は……」
「うん」
「その…」
「君がどもるなんて、初めてだね。カッコイイところ見せてよ。」
「あ、相棒が好…きだ!」

再び予想外な発言に唖然としてしまった。顔を真っ赤に染めて少し潤んだ瞳がまた綺麗で可愛い。ポカンとしていると体を小さくした彼がおずおずと見上げてきた。答えなんて決まっている。

「ボクも好きだよ。だって大切な兄だもの」
「そうじゃなくてだな!違う意味だぜ…」

もう一人の僕の顔は、可哀想なくらいに真っ赤である。ここまで言われれば、嫌でもわかる。彼はボクを恋愛としての目で見ていたらしい。
男同士、そして兄弟だが軽蔑や拒絶はなかった。ただただ予想外すぎる展開に頭がついていけなくて思想が完全停止状態。
そこへ追い討ちをかけるように、もう一人の僕の柔らかい口付けがおりてきた。

(もう何がわからないよ…これは夢?)

悩みが、一つ増えてしまったようだ。

+END

++++
王様はモテるけど、恋愛対象は相棒だけしかいないということを書きたかったのです。

10.2.7
修正15.1.1



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