ゆぎお | ナノ



不器用恋模様


※遊戯+獏良sは別体設定



今日も心地よい太陽の光が降り注ぐ陽気。
こんな日は日向ぼっこもいいね、とのほほんと考えながら、遊戯は外を眺めていた。午後の授業は始まったばかり。内容も厳かに先生の子守歌を聞いていたのだが。
チャイムの代わりに聞こえてきた、学校に似つかわしいプロペラの音が聞こえてきた。

「来た。」

「来たな。」

同時に鳴るチャイムと、同時に立ち上がる遊戯と城乃内。先生は全く動じることなく、教室を後にした。
獏良は楽しそうにニコニコ笑い、御伽と本田は顔を押さえて呆れているのは明らか。皆も誰が来たのかよくわかっているのだ。

「おいおい王様、どうするんだ〜?」

茶化したバクラは、獏良に足を踏まれてうずくまってしまった。それでもニコニコと笑い続ける獏良はさすがというか、恐ろしいというか。

「本当にどうするのユウギ?海馬君、引きそうにないわよ?」

杏子は心配そうにユウギを見るが、席から立つ気配はない。そればかりか、腕を組みどっしり構えてしまっている。眉間に皺が寄っているわ、こめかみが痙攣しているわで誰から見ても明らかに機嫌が悪い。
そんなユウギを煽るように、海馬の声が校庭に響き渡る。

「おいユウギ!聞いているのか!?」

ちなみにこの声は、拡張機無使用の地声である。
やっとユウギが立ち上がった。
しかし、海馬には見向きもしないで黒板に近づき、黒板消しを取り海馬目掛けて投げつけたのだ。距離はあるのだが、黒板消しは見事に海馬の額に命中した。

「ナイスコントロール!」

城乃内が上機嫌に口笛を吹き、海馬を見やると。ホバリングをした安定しない状態で、吊るした縄梯子に捕まりつつ踏ん張っている海馬の姿。脅威の反射と運動神経に、教室でどよめきが上がった。

「ユウギ、貴様ァァァァァァ!」

怒声をあげる海馬を再び無視して、満足したのか席に戻るユウギ。やれやれ、と肩をすくめた遊戯は、海馬へと叫び返す。

「海馬くーん、話があるなら直接こないと。無視決め込まれてるよ―?」

「貴様に言われなくとも出向いてやるわ!このうつけが!!」

「いちいち一言多いんだよねー…」

ヘリコプターの音が遠ざかって約10分。勿論諦めた訳ではない。教室の扉が勢いよく開き、海馬が姿を現した。

「ユウギ!さぁ構えろ!!」

挨拶も説明も、勿論アポもなく。不躾に近付いてくる海馬には、ユウギは頬杖をつきながら溜め息で返した。

「お前も毎度毎度飽きないな。」

「当たり前だ。俺の勝利へのロードに休みはないっ!」

「ワハハハハ!!」と大口で笑い出す海馬に、周囲は苦笑いだ。いつものことなために誰も触れたりはしない、暗黙の了解だ。

「そして今日は特別ルール。敗者は今日1日勝者の下僕となる!」

「へー。そんなことを言うってことは、自信あるのか?」

「当たり前だ。今日こそ貴様を倒す!」

「その台詞、聞きあきたぜ。」

呆れたように言いつつも、ユウギの機嫌はいいようだ。楽しそうである。

「いいだろう。その挑戦、受けてたつぜ!海馬、約束は忘れるなよ!」

「その言葉、貴様にそのまま返してくれるわ!」

勿論一番楽しそうなのは海馬である。
再び馬鹿笑いをし、周囲を呆れさせてはいると、モクバが息を切らせて合流した。

「はぁ、兄様、ユウギのことになると早いぜ…。」

「遅いぞ木馬!既にユウギとの契約は交わした!」

「…素直に誘えばいいのに。」

ポツリと呟かれた言葉は、幸い本人には届かなかった。

「さあ行くぜ!」

「「デュエル!!」」

盛り上がったところで慌てた遊戯が分け入って屋上に移動させ、デュエルが始まった。
決着はいつも通りだった。0というライフの表示と共に膝をつく海馬に響き渡る遊戯は勝ち誇りデュエルディスクをたたむ。

「兄様!」

駆け寄るモクバに、悠々と海馬に近寄るユウギ。海馬は未だ衝撃が大きいのか、膝を付いて戦慄きながらも呟いている。

「ま、まさか…またしてもブルーアイズが…」

「約束だぜ海馬。」

「ック、いいだろう。」

言葉の意図を理解して憎々しそうに顔を歪めたが、海馬が素直に聞き入れたことに一同は正直驚いた。

「へー、あの社長がなぁー…。」

「バックレると思ってたぜ。海馬のヤローのことだからよ。」

「いや、変なものでも食べたのかも。」

「何か企んでるのかもしれないぜ?」

「素直にユウギには勝てないって、認めたとか!」

「それでもきっと明日は季節はずれの大雪だよ。」

「もう一人の僕!せっかくだからレアカードを貰おう!」

「貴様ら……言わせておけば……」

好き勝手な事をいう取り巻きに、海馬が怒りで戦慄いた。睨み周囲を黙らせると、改めてユウギへと視線を向けた。

「何が望みだ?」

「ホントに何でもいいのか?」

「勿体ぶらずに言え。」

念を押され、まどろっこしいと海馬は眉を顰めた。いつもの覇気がなく、顔色を窺うユウギに新鮮さすら感じた。

「…今日一日、一緒にいてくれ。」

ポツリと漏らされた言葉に、海馬は目を見開いた。
海馬とユウギは、俗に言う恋人同士。しかしユウギが積極的になったことはないために驚きが隠せない。

「今…なんと言った?」

「二度は言わないぜ!」

赤くなりながら怒鳴りつけ、皆の元へ走りだそうとしたユウギの腕を、海馬のものが掴んだ。膨れっ面で振り返るユウギに、海馬の微笑み。言葉を詰まらせ赤くなるユウギに、気をよくした海馬は柔らかい声でモクバを呼んだ。

「モクバ。今日の仕事は任せられるか?」

「勿論だぜぃ!」

元気よく答えるモクバの、兄を見る目は優しい。

(兄様も、"迎えにきた"だけだしなぁ)

素直に言わないことはわかっていた。そしてデュエルを始めた時はどうなるかと思ったが、心配はいらなかったようだ。信頼し、尊敬する兄に不可能はないと。ユウギと兄の絆を再確認させられたモクバだった。

「そう言えば海馬。遅くなったけど…誕生日おめでとうだぜ。」

「フン。来年は当日に、一番に祝いにこい。」

偉そうな物言いだが、海馬も照れているのだ。モクバ、ユウギが乗り込むのを見届けて自らも搭乗しようとした時に、遊戯が走りよってきた。

「海馬君、もう一人の僕に何かしたら許さないからね!」

「母親か貴様は!!」

「大丈夫だぜ相棒。明日には戻るぜ。」

飛び立つヘリコプターを最後まで見届けた遊戯は、相棒を取られた悔しさと幸せそうな相棒を見る嬉しさで、はにかんでいた。
ライバル同士の、不器用な恋模様。

+END

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珍しい海闇でした。リクエストされて、誕生日に間に合わせようとして失敗したようです(通常運転)

14.12.30



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