天の邪鬼との付き合い方
※現パロ仕様で『アストラル=アスト』『96=ミズト』という名前になっています
※ゆま→アス、ベク→96表現が一部あります
「なぁアスト。俺、今日俺告白されたんだけど。」
「そうか。」
今日、クラスメイトに告白された。
相手は親しかったわけでもなく、今まで話したことも気にかけたこともない相手。正直、何故好かれたのか、今でもきっかけすらわからない状態だ。
好意を向けられることは悪い気がしない。だが、素直には喜ぶ気にならない。別にちやほやされることは好きでもないし、興味もない相手にはどう思われても構わないのがミズトの考えだ。失礼ながら有り難迷惑とも言える。
「他に言うことないのかよ。」
告白されることなんて、滅多にないから。ただそれだけだった。報告したからって、どうなるかなんて期待していなかった。しかし、少しはアクションを起こしてくれれば、優越感に浸れたものを。
だが相手は冷静沈着、最早感情があるのか疑いたくなるほどの鉄面皮である、双子の兄・アストだ。そんな願いは完封なきまでに打ち砕かれた。
「何か言ってほしいことでもあるのか。」
「そういうわけじゃねーよ。」
「ならばいいだろう。」
今日も心理学だろうか、小難しい本を読みながら顔すら上げないアストに、ミズトはふくれっ面になる。
(嫉妬してくれるわけ…ないか)
少しでも、アストが自分に興味を持っているのではという確証が欲しかった。対抗してほしかった。
鏡のような兄。
自分より優れ、目の上のたんこぶだった兄。
綺麗で賢くて、遠い存在の兄。
好きで好きで、愛して止まないアスト。
(こんなことなら、体だけでもOKしてやるんだった)
そう、相手は男。元気一杯だが、どこか裏のありそうな貼り付いた笑顔のクラスメイト。
せめて体だけでも満たされたい。でも、まだアストへの気持ちは諦めたくない。頭にぐるぐると回る思考に、ドラマの内容も入ってこない。イライラが頂点に達して、抱きしめたクッションをソファーの端に投げつけた。
「…寝る。」
「あぁ。お休み。」
相変わらず視線は本に向けたままアストが反応を返す。自然と溜め息が漏れ、体を引きずるように自室へと向かった。
*
「今日、遊馬に告白された。」
「えッ!」
アストが告白されるのは、日常茶飯事だ。
OKするはずはないため、"いつもなら"聞き流す。だが今回ばかりは勝手が違う。ソファーでテレビを見ながら寛いでいたミズトだったが、飛び起きてリモコンを床に落としてしまった。
「ゆ、遊馬に…告白??」
「『ずっと好きだった、付き合ってほしい。店に、なんてベタことは言わないぞ!』…だそうだ。」
アストは遊馬が好きだ。直接聞いたことはないが、家ではずっと遊馬の話をしている。遊馬の話をしている時のアストは、まるで恋する乙女のように楽しそうで、嬉しそうで。そんなアストのことが、やはりというか遊馬も好きなんだ。
遊馬もアストが好き、アストも遊馬が好き。
こんなの勝ち目があるわけない。自然と涙が浮かんできてしまった。
「そっ、そーかよ!大好きな遊馬君と両想いになれてよかったな!!」
イヤミな言葉の裏腹に、上擦った声。
少しでも気を抜けば、鼻を啜る音が聞こえてしまう。顔を見られないよう、丸くなりテレビを睨むように凝視すれば、アストがクスクス笑う声が聞こえた。
「断ったよ。」
「は?ば、ばかじゃ……ねーの…」
「"好きな人がいる"と、丁寧に断った。」
「え…な、なんだよ、それ…」
頭上に影が差したと思えば、アストの穏やかな笑顔がある。見られた、と青くなる前に顔を抱き込むように手が添えられ、体がビクリと跳ねる。優しく髪をなでる細く白い指に、ミズトはうっとりと目を細めた。
「嘘だ。」
「…は?」
「遊馬は真っ直ぐだ。好きならすぐに告白する。」
アストの言葉に間抜けな声が上がった。
「ど、『どこまでが嘘なのか』から説明しろ!!」
「遊馬に告白された事例、全て。」
悪気もなくミズトの頭を撫で続けるアストに、安心と安らぎを覚える。先程までの悲しみと怒りはどこへやら。すっかりアストに甘えるように首へ抱きついていた。
「お前が真月からの告白を断ったのは安心した。奴は黒い噂が絶えないと遊馬も言っていた。」
行儀悪く、ソファーを跨いで向かい合い座るアスト。
相手の名を出していないのに、知っていることには驚いた。が、アストから出てきた"遊馬"という単語のほうが問題だ。
「遊馬も…ね。」
見るからに膨れっ面になるミズトに、アストはクスクス笑う。髪に指を通すと、ミズトの唇にキスを落とした。
「遊馬は私の大切な人だ。だが恋愛感情なのかはまだわからない。第一、男同士だし遊馬は女子に人気だ。」
「俺たちも、男同士…」
「そうだな。嫌だったか?」
確信犯が、わざとらしく首を傾げる。悔しくなって唇を噛み締めるが、アストは無邪気に首を傾げるばかり。
「お前なんか、嫌いだ。」
「それはすまなかった。タオルを取ってこよう。」
「大っ嫌いだ。」
顔をアストの胸に埋め、肩にしがみつくミズト。抵抗するわけでも抗議するわけでもなく、アストはすすり泣くミズトを愛おしく眺めていた。
最近の愛読書は専ら"天の邪鬼との付き合い方"。
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アス96はこんなイメージで出来ています。
14.11.23
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