ゆぎお | ナノ



想いのベクトル


※現パロ
※病んでれ



目を引く赤い髪に、人懐っこい無邪気な笑顔の彼は、学年が一つ下。
初めて出会ったのは彼の入学式だった。初めはなついてくる後輩がただ可愛い、という程度だった。それがいつもいるうちに感覚が麻痺してしまったようだ。
いつもの場所が近づいてきて、心臓が高鳴り気分が高揚する。
見付けた。
いつものように、木にもたれかかる姿を。

「先輩。一緒に帰っても・・・・・・いいですか?」

可愛いというには少し違うだろう、しかしときめいてしまうのは狂ったというか、脳内麻薬が生む都合のいい脳内変換。
身長は同じなのに少し屈み、そらした顔を覗きこんでくる。
答えなんて元から出ている。
首肯に喜んでついてくる雛鳥を待ちながら、歩幅を合わせる。

「今日は早かったですね」
「隼がおとなしかったから」
「黒咲さんが暴れるから、サークルが延びるんでしたっけ」
「時間が延びてるというか、相手が伸びてるというか」

普通空手では暴動は起きないだろうに、お陰で型よりも、相手に捩じ込む時の力加減だけを覚えてしまった。
喧嘩のために始めたわけじゃないのに、本末転倒もいいところである。不満を露のするユートだったが、遊矢は楽しそうに笑っていた。

「やっぱり先輩はかっこいいや」
「・・・・・・どこが」
「俺、喧嘩弱いし」
「誰かを傷つけるためにやってるわけではないのだが」
「そういう優しいところも大好きですよ」

無邪気に頬を染める遊矢に、喜びよりも怒りが沸いた。
理不尽だとはわかっているが、気持ちの違いに気が立ってしまう。
どうあがいても諦めるしかない。純粋な羨望の眼差しが向けられる度に、暗い感情が沸き上がる。
気づけば、ネックレスを乱暴に引き、唇同士を押し付けていた。
驚かれるのも無理はない。それでももう後には引けなかった。

「お前の好きと俺の好きは違う」

へたりこんだ遊矢に背を向けて走り去る。しかし邪魔をする腕があった。

「なんだ、遠慮することなかったんだ」

壁に叩きつけられる体に、遊矢の暗い笑顔。思いもよらない表情に唖然としていたら、頬を捕まれ無理矢理唇を塞がれた。
予想だにしていなかった荒々しいキスに、強い力。力はないと聞いていたはずの握力から、逃れられない。
涙が溢れようとも肩を掴もうとも、遊矢は離れようとしない。
酸欠になり、意識が飛びそうになる絶妙なタイミングで解放され、荒い息をつきながらへたりこんでしまった。

「まさか先輩からキスしてくれるなんて思わなかった」
「お前・・・・・・っ!」
「確かに"好き"が違うかな。どろどろのグチョグチョになるくらい汚したい、それが俺の好き」

深紅の目が、深く黒い欲望を称えた。

「この出会いも偶然じゃない、ただの必然」

唇を弄ばれながらも遊矢の目から逃げられない。細くなる目は雛なんかではない、成熟した猛禽類だ。心と体が蹂躙されていく。

「先輩の、ユートのことは前から知ってたよ。だって同級生だったし」

「どこに行くかわからなかったし、調べるのに半年もかかっちゃった」とおどけて言う裏の狂気への恐怖。
面識はなかったし、どのクラスか、どの学校にいたかすらわからない。遊矢はそうではなかったのだろう。
肉体だけでなく、頭も、精神も侵されるような声に体が動かない。
違う。

「いつ、から?」
「忘れた。1年、2年? もしかしたらもっと長いかもしれない」

首もとに熱い息がかかる。
ガサゴソと紙袋を漁る音と、首に触れる冷たいもの。
慌てて外そうとすれば、やんわりと、強く手首を捻られる。片手で金具を操り、少し締めたら出来上がり。

「指輪なんかより、明確で分かりやすい証だ」

それは鉄の輪のように光る黒いチョーカー。優しく強く引きながら、顔を寄せては無邪気に笑った。
違う。

「今更口説き文句はいらないな。答えなんて1つしかない、聞くだけ無駄だろ」

腕にも黒い革製の手枷をつけて恍惚とした表情。
自らつけたチョーカーに嫉妬するように強く引っ張り、白い首筋を視姦する。熱い息からは激しい情欲を感じる。
違う、そうじゃない。
今はまだそんなことを望んでいたわけではない。


「好き、なんてさ。軽々しく口に出来るものじゃないな。。そんなに軽いものじゃないんだから」

同じものなんて何一つない。
本当に歪んでいるのは自分か、彼か、それとも世界か。
力の抜けた体に這う手に、明らかなる欲望。白い肌を食む赤い唇を見ながら、動かない体で恐怖に身を委ねた。

+END

++++
ヤンダと虚構

16.6.30



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