食う前に食われてしまえ
※同居一家パロ
一日も終わり、自室に籠っていたときのことだった。デッキもおおよそ調整できたし、もう休もう。
出来たばかりのデッキを置こうと手を伸ばせば、それを阻止すべく手がのびてきた。この部屋にはユートと、もう一人しかいない。遊矢だ。
「終わった?」
いきなり背中に錘がついたと思えば、首筋に顔が寄せられる。
身を捩るが、動きやすいように体をずらすだけで根本的な解決にはならない。
「遊矢」
「うん、やっと俺を見てくれた」
「たまに振り返っただろう」
「ずっーと見てくれなきゃ、意味がないじゃん」
こっそりついたため息は聞こえなかったようだ。ささいなことでも嬉しそうに笑いすり寄ってくる。
これが猫ならまだしも、人間で同年代の男である。それでも猫より可愛いげがあるのは、恋人だからであろう。
なついてくる喉を撫でても、やっぱり猫なで声はでなかった。
「そうじゃないだろ」
「・・・・・・んっ」
不満と唇に這う細く荒れた指。
しゃぶるように噛みついたが、わざとらしく痛がるだけ。あろうことか更に奥へと指が突き進んでくる。
「あはっエロい顔」
「んっ、くるひっ」
「何言ってるのかわからないって」
わざと口内を掻き回わされいる。特に恨みがある、とかではないが、思わず思いきり噛みついた。
「いったぁ!」
「・・・・・・すまない」
「俺なんかした!?」
「しただろ」
「ユートも気持ち良さそうだったのに」
「それはない」
骨の形がわかるほどの強さにさすがの遊矢も飛び退いた。悪いのは遊矢ではあるが、わざとではない。罪悪感に駆られたが、すぐに後悔した。
「お返しっ!」
「つぅっ!」
噛みつく、というよりも吸い付くだ。シャツの合間を縫って剥き出しの鎖骨にかぶりつかれて短い悲鳴が上がる。
色気のある声ではないが、満足したらしい。
「骨のところが弱いよな」
「それは誰でもだろう、ひっ」
「ごめんごめん。怪我してない?」
「舐めるな、ふぁっ」
拗ねると悪戯が過剰になるのは知っているから、言うだけ無駄だ。
鼻から抜けるような声が出て、遊矢がニヤニヤと笑っている。服を掴みながら恥辱で肘打ちをねじ込むが意味はない。
「照れたらすぐ手をだすの、癖だよね」
「知らんっ!」
「あはは、顔真っ赤」
その肘すら受け止めて、なめまかしい動きで肘裏を撫でられてはまた女のような声が出てしまいそうだ。
遊矢はそれを待っている。
熱っぽい目に射ぬかれて、背筋が泡立つのがわかる。
「声だしてよ」
「うるさいっ盛るな!」
「相手してくれなかったし」
「二時間も我慢できないのか」
「うん無理。見てるだけでムラムラしてた」
じっとしていただけでも偉かったということなのだろうか。まとわりついてくる腕を振り払おうとするほどまとわりつくのはタコのよう。
なんとか食い千切ろうとするが、逆に食べられるのも時間の問題だろう。
「いいだろ?」
「今から寝たいのだが」
「寝るのは同じだろ」
「睡眠を取りたいんだが」
「三大欲求は発散しないと困るんだよ?」
そう言いながらも人のベッドに引きずり込もうとする。
首筋に甘噛みをされては抵抗しようにも出来ない。
「ユート、しよ?」
こんなときにずるいと思う。
鼓膜を通じて頭を揺さぶるのうな甘い囁きに、腰まで痺れてしまう。
「ユートって、言葉での愛情表現言好きだよね」
「そんなこと」
「嘘。顔も真っ赤だし、嬉しそうだし」
「そ、んなわけが」
「いつもそうだよ。知らなかった?」
ユート、ユート。
熱でショーとした頭を他所に、言葉のシャワーが頭上から降り注ぐ。
額に、肩に、腕に、腹に。徐々に降りてくるキスのシャワーに小さな抵抗を示すしかない。すっかり体が濡れきって、ぐったりしていると遊矢が笑う。
「もう濡れてるでしょ」
唾液と共に浸食してくる言葉に、情けないが体の芯までしまった。手を伸ばせば、腕によって邪魔される。
「あれ、言葉だけでよかった?」
「馬鹿、やろ・・・・・・!」
「興奮した赤い顔で言われても、誘ってるようにしか見えないんだけど」
「遊矢、」
「わかってるよ」
「早く、きて・・・・・・」
悔しいが始めから逃げられるとは思っていない。スイッチの入ってしまった体は言うことを聞かない。
「満足するまでお付き合いしますよ、お姫様」
「姫はやめろ・・・・・・」
「物語だと俺が王子、っていうのがセオリーだろ?」
「なんの話だ」
「んー、ユートの話」
胡散臭い演劇口調とと笑顔。
それでも愛情だけは嘘ではない。胸をまさぐられ、くすぐったさに体が震える。的確に弱いところを突いてくるのは、遊矢も我慢できないから。
「好き」
体温が上がるのが嫌でもわかる。
「大好き」
顔が熱くなって、目すらも潤んできた。
「愛してる」
我慢できなくなり抱きつけば、耳元で「好きなんだろう?」と意地悪く囁かれる。
答えてなんかやらない。お返しに唇に噛みついてやるが、逆に食われてしまった。
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お題先
Twitterの「しろくま@お題bot」さんより
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