アンロマンチスト
「どの世界でも、月は綺麗なものだな」
アンチノミーは雲1つない夜空を見上げて呟いた。
今更ロマンチストぶるつもりはないし、「君のほうが綺麗だ」という甘ったるい口説き文句に続けるつもりなんて更々ない。ただ、気分がよかっただけなんだと思う。
本人すら、何故このようなことを言ったのかわからないでいた。恐る恐る隣へと目を向けると、驚き目を見開いているプラシドがいる。その目はやめてほしい、珍獣を見るようなその目は。
「...とんだロマンチストだな」
「やめてくれ。無意識だったんだ」
「なおさら質が悪い」
不自然に距離を開けようとするプラシドが憎らしいが、ここでむきになって殴りあいをするのもバカらしい。それでも目で訴えることだけは許してほしい、こっちも言いたいことはあるのだから。睨み付けてくるアンチノミーなど物ともせず、プラシドは空を見上げた。雲1つない星空を見たのはいつ頃だろうか。ここまで見事な正円を見ていると、確かに美しいと感じる。
「...そうだな」
「だろう」
「まるでタイヤのようだ」
違う、そうじゃない。
言いたいことはわかるが、そうではないんだ。アンチノミーは言ってやりたい言葉を、必死で飲み込んだ。
プラシドにロマンチックを求めるとこは最初からしていなかったが、こう、言い方というものがあるだろうが、それを言ったところで「お前、気持ち悪いな」と言われるのがオチである。わざとらしくため息をつくと、不機嫌な紅い目がアンチノミーを射抜く。
「...そうだな」
せめて同意してやろう、と目を逸らしながら返事をしてやると、拳を頭上に降り下ろされた。
+END
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あなたは『「月が綺麗ですね」って冗談で言ってみたら「確かに。スイートポテトみたいにおいしそう」と返された』アンプラのことを妄想してみてください。
プラ「Dホイールのタイヤのようだな」
アン「そうだな!」
16.2.21
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