ゆぎお | ナノ



きまぐれな女王様


※学パロ
※ジャックにょた化




「不動遊星!このオレが付き合ってやるぞ、ありがたく思え!」

全ての始まりはこの突拍子もない言葉だった。
五竜高校の不動遊星は無口だ。クラスでは、髪型以外は目立つタイプの男ではなく、いつも読書が内職をしているだけの一般高校生である。
実は何でも出来る万能な男ではあるが、人前では発揮することはない。冷めた見た目にそぐわず熱い心を持っていたりもする。そんな、彼を知れば惹かれてしまう、内なる魅力を合わせ持っている人物なのだ。話を現実へと戻そう。

冒頭での叫びは、ジャック=アトラスのものである。遊星とは初対面である。彼女は目立ちたがりなのか、王者体質なのか。この学校で知らぬ者はいない、よくも悪くも有名人である。絶対両方の意味である。
容姿端麗な巨乳美人、頭脳明晰、金持ち令嬢という、男なら憧れる高嶺の花なのだが、唯一性格が壊滅的。気が強い、というか強すぎるというか、その辺の男は口で言い負かしてしまうほどの気ぐらいを持っている。おまけに力も喧嘩も強く、身長も180センチ代という男顔負け。憧れる者もいる反面、恐れられてもいる、この学校の女王なのだ。
ここで本題。
平凡一般生徒の遊星と、学校の女王ジャックとは、接点などない。親友二人が知らないところでなにかあったのかもしれないが、そんな話は聞いたこともない。たまに鬼柳が遊び半分で話しかけていたが、遊星とクロウは口すら聞いたことなど全くない。
なのに、何故こうなった。
遊星はきょとんとするばかりだ。

「俺じゃないのかよ〜っ」

「貴様に用はない。そこの蟹頭に用があるんだ。」

鬼柳への切り方はともかく、用のある相手に"蟹頭"とは失礼ではないだろうか。元から身長があるというのに遊星が座っていると、そな差は開くばかり。偉そうに胸を張られて完全に見下されている状態だ。

「で、どうなんだ!勿論了承だろう!!」

「…いきなりだな。」

遊星は真面目な奴だ。
男女関係もふしだらなことはよしとせず、鬼柳への無言制裁をしばしば見かける。だから初対面の女性といきなり付き合う、など許さない質なのがわかる。というか完全に引いている。ツッコミ役のクロウすら、食べかけの握り飯もとりこぼしている。

「何故だ!オレの何が不満なのだ!?」

「不満ってレベルじゃあねぇだろ…」

「何か言ったか鳥の巣頭。」

「とっ!?遊星もう行こうぜ!オラ鬼柳も立て!」

ジャックはクロウの逆鱗に触れてしまった。クロウは乱暴に弁当を咀嚼していた遊星の腕を引き、未だジャックにアピールを続ける鬼柳を蹴り飛ばす。鬼柳がニヤニヤと「なんだ、クロたん嫉妬?」という言葉を発したが最後、股間に蹴りが炸裂し地面へと沈んだ。
立ち去る準備は万端だ、と屋上を後にしようとすると背中からジャックの焦った声がする。

「待て!話は終わってないぞ!」

遊星の腕を掴んで引っ張るジャック。なかなかしつこい性分である。ワザとか無意識かは知らないが、胸に抱き込み女の武器の有効活用までしている。さすがにポーカーフェイスの遊星からも、焦りの表情が浮かんだ。

「いや終わってるだろうが。」

「貴様と話をなどしてない!オレは不動とだなっ」

「少し落ち着け。」

この状態で一番辛いのは、勿論遊星である。食事を邪魔されたことに腹をたて、ジャックの口を塞ぐように無理矢理卵焼きを詰め込んだ。得意のお喋りを封じられたジャックは、何か言いたそうな目で遊星を見たのち、ピタリと口の動きを止めた。

「…これは買ったのか?」

「自分で作った。」

「それがどうかしたか」と返す遊星に、ジャックは顔を真っ赤にする。何が起こってるのかわからない三人をよそに、ちゃんと飲み込んでからジャックは再び口を開いた。

「貴様が料理上手とは気に食わんがな。と、…特別に食べてやる…っ」

誰も食べてくれとは頼んでねーよ。そんなツッコミが出来る者、は誰もいなかった。
なんだこの偉そうな態度は。しかし、どうやら女としてのプライドを押し殺しながらの"強請る"という一種のツンデレらしい。クロウと鬼柳がそう理解した頃。天然な遊星は、親鳥の如く開かれた口に唐揚げを入れているところだった。
座り込んで寛ぎ食事モードに入った遊星を動かすのは至難の技だ。遊星の横に座り込んだ大きな小鳥を眺めながら、クロウはボソリと呟いた。
「あぁ、餌付けしちまったな」と。


その日から予想以上のアピールの嵐だった。昼は勿論強請りにくるし、放課後も待ち伏せしてでもついてくる。小鳥みたいな可愛いものじゃない、アマゾネスのように強気でデカい女だ。もう憑いてくるでいい。
完璧な女子でも、性格が合わないと毎日疲れるものだ。しかしそんなクロウの苦労も知らず、遊星自分に害がない限りはあしらわず彼女を黙認している。
そんな中、いつからか彼女の視線が変わった。始めは、告白した割には淡白な視線だったのに、徐々に甘い含みが入り今やクロウや鬼柳を見る目とは全く別ものになっていた。
まるで、恋する少女のように。

「遊星。今日は暇か?」

「あぁ。どうした?」

「少し……付き合え。」

うってかわって遊星の態度はずっと"友人"のものと変わらない。ただ、よく一緒にいることから"親友"にまで格上げされているようには思うが、遊星の鈍感さは仲間内じゃあ黙認だ。ジャックもそれがわかってきたようだが、ただただ遊星の答え一つ一つにこっそり微笑んでいた。

「また二人きりか?」

「貴様ら邪魔するなよ。」

「しねえよ。」

「オレらはオレらでデートだからな。」

「バカ京介。ちげえよ」

「で、デートではない!パシりだ、パシり!」

照れ隠しを遊星が本気にしてしまい、必死に修正するジャックは正直、見ていて飽きない。俺様が、誰かの為にやきもきしているところは楽しいものだ。

「今日はどこに行くんだ?」

「ふん!特別に家へ招待してやる!」

ジャックの発言を遮るように、クロウと鬼柳は盛大に噴き出した。
二人を不思議な目で見る遊星を、思いきり殴り倒してやりたい。それが今の二人の心中である。呼ぶほうも呼ぶほうだが、行くほうも行くほうだ。首を縦に振る遊星に、もはや声も出なかった。
「遊星出来婚か?」とかいう奴にだけは、腹に一撃いれておこう。


*


ジャックの豪邸の噂はかねがね聞いていたが、これほどとは思わなかった。
広い庭、バラのアーチ、噴水、大理石の道……外だけでも、どこの映画の金持ちだと問いつめたくなるほどの豪邸。こんなものを拝める日がこようとは思いもよらず、遊星は開いた口が塞がらなかった。

「どうした。こないのか?」

「あ、あぁ…」

いつの間にか入口が見えてきていた。これまた象すら通れそうな玄関が見え、手招きするジャックは上機嫌。早歩きでどんどん先へ進む彼女に、置いていかれまいと後を追う遊星だが、見慣れないものに気をとられ、呼ばれを繰り返して一向に追いつけない。足の長さにも差があるが、男としても示しがつかない。家へ一歩入った所で、また広さに驚かされたのは言うまでもない。

「おい。ここはリビングじゃないぞ。」

「いや…噂には聞いていたが凄いな…」

「噂?オレは誰も家に上げた覚えはないが。」

冗談めかしくからかってきた表情が反転し、本気で嫌そうな顔をされてはどうしていいものか困る。あまり自分に対し不快感を催す話は、ジャックが本気で嫌がりキレることは実証済みだ。あまりふれないように誤魔化し、家族の話へ逸らすことには成功した。しかし、この話もハズレだった。

「両親近々顔すら見ていない。」

「なら家事はどうするんだ?」

「朝早く出て行き夜は帰らない時が多い。大体メイドにやらせている。」

「俺と似ているな。」

「お前も両親共働きか?」

「いや父子家庭だ。俺の父さんもなかなか帰ってこないがな。」

反省の色を見せるジャックに「別に気にしてない」と答えれば、少し安心した表情。そしていきなり机を叩くと。

「リビングで座っていろ。オレ直々に紅茶を入れてやる。」

そう言い残し、意気揚々とキッチンの方向へと早足で消えてしまった。誰もいない空間へ視線を向けるが、成る程。立派な装飾品ばかりだ。またも口を開けたまま感嘆の声を上げていたが、誰もいないためにそれを指摘するものはいない。

(…ん?誰もいない?)

ジャックの話ではメイドがいるはず。なのに今はジャックの、うまいとは言い難い鼻歌しか聞こえてこない。遠い部屋で仕事をしているのか、休息をとっているのか、それとも屋敷全体が完全防音設計なのか。真実は家主のみぞ知る、と言ったところだろうか?

「遊星。口がまた開いているぞ。」

「あ、あぁ。」

戻ってきたジャックの手には、湯気をたてたカップと茶菓子。口を閉じながら、湯気のたてるカップと茶菓子を丁寧に広げていく様を眺めていた。上品ないい香りが漂い始める。紅茶に詳しくない遊星も好感をもつ香りだ、きっと高級なものに違いない。

「冷めないうちに食べるがいい!」

嬉しそうなジャックに急かされ口へ運ぶが、これは美味い。「うまいか?」という問に嘘偽りなく頷いてやれば、「そうだろう!」嬉しそうに声を張り上げる。
夢中で食べていて忘れていた。素朴な疑問を。

「そういや使用人はどうしたんだ?いるんだろう。」

「今日は休暇をとらせている。」

なんてことないように答えたジャックに、首を傾げる。

「今日の家事はどうするんだ?出来るのか?」

「貴様はオレを何だと思っているのだ。使用人はお前がいるから下がらせたのだ、遊星!」

この返答には誰だってクエスチョンマークがでる。察する人間はいるが、天然な彼には無茶な話である。わけもわからず怒りだす彼女に、遊星は首を傾げるばかりだ。

「…どういうことだ?」

「オレは家事が苦手なんだ。」

「俺も苦手だ。」

「知らん。誰もいないのだ、今日は帰さんぞ。」

勝手に不機嫌になったと思えば、勝手に予定を決められてしまった。遊びにきただけなのにどうしてこうなってしまった、と遊星は混乱するばかり。ジャックの奇行はいつものことだが、これは予想だにしていなかった。
一気に紅茶を飲み干し、ソファーに根付いてしまったジャックは口すらも梃子でも動かないだろう。やれやれと諦めかけた時に重要なことに気づいた。

「待て。男と女ではマズい。」

「なんだ?貴様程度がオレを組み伏せられると思っているのか?」

鼻で笑う彼女の言うとおり、そんな自信はない。女の子相手に情けない、という次元ではないのだ。ジャックは普通に強い。風の噂で数人の男を殴り合いで倒したと聞いたこともある。一度ならば根も葉もない噂と流してもいいだろうが、同じような噂を何回も聞くのだからたまったものではない。

「それでも俺が気にするんだが…」

「気にしないようにしろ。」

なんとムチャを言う女王様だ。言い返す気力もなくなりため息を吐くと、遊星は渋々ながら首を立てに振った。
その返答に満足げに笑ったジャックの表情は柔らかく綺麗なものだった。

+END

++++
当初の予定じゃあアーッな場面までいくつもりでした。今回はそこまで書きます。


10.8.2
修正16.2.28



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