ゆぎお | ナノ



戦場でしか咲けない花3



ボタンを一つずつ外す度、ユートの体が震えるのがわかる。
外界に晒されていく少女の白い柔肌。紛れもない発育途上の少女の体に、控えめな胸を隠す黒いブラジャー。ああ、前見た下着は見間違いではなかった。それにこの色香に中てられている、遊矢自身も気のせいなんかじゃない。

「うわぁ…っ」

勿論異性の裸体なんて初めてだ。不可抗力ながら小さな胸に触れたのも初めての経験。遊矢の耳まで熱くなった。思わず赤くなり、感嘆の声を漏らすと、ユートはびくりと体を跳ねさせた。体のことで変に思われたのかもしれない、と遊矢の顔色を伺いながら腕で主に胸を覆ってしまった。

「ああ、違うって!すごく綺麗だから、つい!すごく…」

当初の目的も忘れてユートに見入ってしまった遊矢は、慌てて乾いたタオルを取るとユートの体の汗を拭う。荒い息をつきながらも気持ちがよさそうに力を抜くユートと、胸を見ないようにしつつも煩悩と戦う遊矢。
一通り汗が拭けた、と思えば胸にもたれ掛かる重み。見下ろせばユートの苦しそうな顔。そして隠すために寄せて押しつぶされたことで、しっかり見える胸の谷間があった。

「〜〜ッッ!」

顔から火が出るかと思った。赤く染まり仄かに汗ばんだ裸体は情事を彷彿とさせる。
慌てて体を離そうとするが、それだと全体重を預けてもたれ掛かっているユートが倒れてしまう。逃げることも進むことも出来ず、顔を赤くして夕日へと目をそらしていた。
今日の夕日は一段と赤くて綺麗だと思う。
まるで黄昏の世界に迷い込んだよう。

「遊矢…?」

ユートが不安そうに見上げてきたが、遊矢はそれにも気がつかずに夕日に魅入っていた。何も言わず、夕日だけを見つめる遊矢は、どこか遠くへ行ってしまいそうで。ユートは顔を青くしながら遊矢の腰に倒れ込むようにして、抱きついた。

「遊矢…っ私を、見て…」

そのまま押し倒せば、頭を打ったことで遊矢が我に返った。頭をさすりながら目を瞬かせ、天井を見つめて放心している。それすら許さないとユートが間に割り込んだ。
泣きそうな灰色の目は今にも涙が零れ落ちそうだ。そこへ横から夕日が照らし、まるで涙の粒1つ1つが宝石のように輝きを放つ。
それに白い肌が赤く照らされ、まるで満開の桜のよう。思わず感歎の声を上げて、手を伸ばしてしまう。

「綺麗……綺麗だよ、ユート…」

頬に触れ、首筋を下り、細い肩をなぞり。遊矢の性的なボディタッチに、ユートも恥ずかしそうに身震いする。

「遊、矢……」

「ユート…」

自然とユートが屈み、唇が合わさろうとした時だった。遊矢が我に返ったように目を見開き唇を抑え隠す。
その行動にユートはショックを隠せない。赤いルビーのような涙が静かに零れ落ち、床を濡らす。

「やっぱり、俺には選べないよ…」

浮かぶのは親しく想い焦がれていた柚子の笑顔。ユートも好きだ。大切な女の子の1人だ。しかし柚子と比べて選ぶなんてできない。静かに涙を流すユートに「ごめん、ごめんな。そんなつもりじゃなかったんだ」と弁解はするが、一向に涙は止まらない。

「俺、ユートのことも大切だから。いい加減な気持ちでこんなことしたくないんだ。」

「やっぱり、柚子が好き…?」

「柚子は……、柚子も、大切だから………ごめん。すぐには選べない、ごめん…。」

苦い表情の遊矢に、ユートは何も言わない。真っ直ぐに見つめ、時折鼻を鳴らしているが落ち着いてはきているようである。

「…私こそ悪かった。無理強いをした。」

再び嗚咽を上げ始めたユートに、遊矢は慌てて体を起こして慰める。頭を撫でるたびに、髪が手から抜けだし反発するかのように跳ねる。

「その気持ちは凄く嬉しいよ、ありがとう。」

「わ…、俺も一緒にいれるだけで嬉しい。」

遊矢に再び抱きついて押し倒すが、今度はユートも倒れ込む体制になる。ヘラリと笑うあどけない顔から汗が流れるのを見て、遊矢は慌てて体を起こすとユートの体を支える。

「床、気持ちよかった…」

「そうだよ、今風邪を引いてるんだった!」

「ん…ゆーやぁ、」

「俺の部屋に行こうな。抱き上げていい?」

"遊矢の部屋"という単語に、ユートはとろけた頭ながら目を見開いた。反射で顔を押し返すと、遊矢を見つめて警戒を色を露わにして服を引き寄せた。

「部屋で…、どうするんだ?」

「俺の部屋の方が暖かいし、ソファーだと寝にくいだろ?」

純粋な返答にユートは少し落胆しながら服を着替え、遊矢に両手を伸ばす。子供が抱っこをせがむポーズに、遊矢は慌てて抱き上げて、いつも羽織っている上着で肌を隠す。甘えるように首へと回される腕はまだ先程のキスの未練を残しているのか。しかし遊矢は密着された緊張によりそれどころではない。ユートを気遣いゆっくり階段を上がる遊矢に擦りより目を閉じる。それを熱によりぐったりしているととった遊矢は、慌てて細い体を抱え直した。

「もう少しで部屋だから。ご飯も後で持っていくよ。」

走らないように、しかし急いで2階へと駆け上がり、カラフルな部屋にたどり着く。サーカスのテントのような、病人には優しくない部屋ではあるが、まごうことなき遊矢の部屋である。
空色のベッドにユートを優しく寝かせる。布団を頭から被りながら、少しだけ顔を出し不安そうに遊矢を見る目に遊矢も困った顔である。

「すぐもどってくるから。」

名残惜しそうな顔のユートに後ろ髪を引かれながら、遊矢は部屋を後にした。

(落ち着かない)

布団に潜りながらユートは荒い息をつく。
遊矢の匂いがして落ち着かない。遊矢に抱き締められているような錯覚に陥り、落ち着かない。
応えてはもらっていないが、拒絶もされていない。でもこれ以上遊矢に迷惑はかけられないし、柚子を裏切るわけなもいかない。甘えるわけにもいかない。

女であることを明かし、それを受け入れてくれただけでも嬉しい。痴態も見せてしまったが、短い間だけでも想っていた相手に甘やかしてもらっただけでも、ユートの頬を熱くさせるには充分だ。それだけで充分幸せだ。もう、これ以上甘えるわけにはいかない。
親友の妹を助けると決めた時から、戦士になった時から女であることを捨てたのだ。この程度で揺らぐ決意など、最初からないものと同じだ。
短い間だったが、幸せな夢が見れた。キスは出来なかったが、お姫様抱っこもしてもらえた、それだけでもいい。
次目覚めたら、この幸せな夢は終わってしまう。だが遊矢に包まれ得た安堵に、睡魔がやってきた。

「ゆーや……」

眠ろう。例えこの夢が覚めてしまっても、一時の幸せを噛み締めたかった。


**


ノックをしても返事がない。
簡易のお粥を作り、部屋に戻るとユートはすっかり寝入っていた。静かに、物音一つ立てぬよう忍び足で自分の夕飯も乗ったおぼんを机に置くと、ベッドの脇に正座で座り込んだ。すっかり深い眠りにおち、幼く幸せそうなユートの額に手を当て、自分の体温と比べてみる。大丈夫、もう平熱だ。最初は怖いほど熱かったために、心底安心した。

(しかし、綺麗な顔…まつげも長いや)

女として、好きだと意識してしまえば色目で見てしまうのは仕方ないだろう。まじまじと眺めているだけでムラムラきてしまう。

(柚子とは、別の可愛さがあるもんな…)

男勝りなところは2人とも似ているが、柚子が可愛いならユートは綺麗。そう、影のある美しさなのだ。
まじまじと観察して真っ赤になっていると、呻き声と共に寝返りをうち、遊矢へと向く。

「ううん…ゆー…や…」

(そういや、この唇とキス…し損ねたんだっけ…)

今更ながら後悔が生まれる。しかしあの決断には後悔は生まれない。誰も傷つけたくない。いい加減な気持ちで、彼女たちを困らせたくない。この唇に触れるのは、決意の後だ。

「ゆーやぁ……ありがとう…」

寝ぼけているのはわかる。しかし名前を呼びながら笑顔を見せられては、誰でも照れくさくなるだろう。いつも仏頂面のユートの、満面の笑み。これが見れただけでも幸せ者だ。

「お休みユート。明日は一緒に遊びに行こう、な。」

頭を撫でているうちに、睡魔が移ってしまった。遊矢は欠伸をかみ殺すと、湯気の上がる夕飯も忘れてユートにもたれ掛かりながら眠りに落ちてしまった。


***


寄り添うように眠ってしまい、朝日のせいで目を覚ましたら、ベッドはもぬけの殻だった。
時計の針は6時前。いつもより早い時間の目覚めに、頭は全然回らない。だがユートがいない、それだけははっきり理解した。まさか何も言わずにいなくなるなんて思ってもいなかった。眠い目をこするが、ベッドの布団は綺麗に整えられ、まるで誰もいなかったかのような風貌である。
ユートは、夢だったのだろうか。いや、肩からかかる薄い毛布に彼女の思いやりが残っている。

「でも…黙っていかなくてもいいだろ…」

振り返れば夕飯にと用意したおぼんと、上には空の器とメモが1つ。そこには達筆な字でこうあった。

―――ありがとう。さようなら。
ユート

何故"さようなら"なのかは遊矢にはわからなかった。慌てて外に飛び出してはみるが、近所の住人の姿はおろかユートの後ろ姿はない。家の中も隅々まで探したが、形跡すらない。
本当に、昨日ユートは本物だったのだろうか?都合よく、自分が作り出した幻影か、朝の毛布も自らが無意識に手繰り寄せたのか。朝日も空も思い出も、なにもかもが美しさすぎて実感がわかなくなってきた。

「ユート…どこに行ったんだよ…。1人で行かなくていいだろ…」

もしかして、ユートという存在も嘘幻だったのだろうか。唇をゆっくりなぞれば、あの悲しそうな笑顔が浮かんだ。
その日からだ。ユートを見かけなくなったのは。


(戦場にしか咲かけない花)

+END

++++
4ヶ月もなにをしていたのでしょう

15.10.22

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