幻すい | ナノ



*泣き虫の仮面

※T主人公:ナムダ
U主人公:ノキア(愛称ノア)
※病んでます





「君は、親しい者を殺したことはあるかい?」

ノキアの執務室は、日当たりのいい高い場所にある。書類整理は主にシュウの仕事だが、最後のサインは城主であるノキアの仕事だ。シュウに脅されながらもせっせと手を動かしていたノキアだったが、いきなりの来訪者に邪魔をされてしまう。元反乱軍リーダー、ナムダ・マクドールの手によって。
書類覗き混みながら、乱雑な紙の上に座り込む彼。「いい天気だよね」と呟きながらもナムダが光に手を伸ばせば、窓から風が入ってくる。長く伸びきった髪を揺らし、ナムダは機嫌がよさそうに目を細め続ける。

「自分のために人が死に、事切れていく瞬間。声すら聞けず、声すら出せないんだ。
意に反して人を殺める瞬間。知らない誰かの目が、俺を映した瞬間に化け物を見るように怯えきるんだ。
自分の手で、肉親を殺す瞬間。大切に作った物を自分で壊した気持ちになるんだ。」

「…めてください。」

「知ってるかい?本当に怖い時、痛い時って声なんて出ないんだ。声が出せるのは、まだ心が生きてる証拠なのさ。」

「やめてください!!」

今すぐやめさせたかった。ノキアが感情のままに机を強くたたけば、表紙にインクが倒れ書類や本を黒く濡らす。無邪気に目を瞬かせたナムダは、首を傾げるだけ。
何故怒られたのか、彼には分らない。
彼にはもう”なく”だけの心が残っていないのだから当然だろう。

「ノア。書類に代えはないよ。」

「そんなことどうでもいいです!」

絞り出し、ヒステリックな金切り声になる。しかし叫ぶのはやめられなかった。泣くのをやめられなかった。 黒と綺麗な雫が混ざり合い、灰色の水たまりを作り出す。強く握りしめた拳からは赤い血すら流れ出した。
しかし、右手からは何も流れない、傷すらつかない。聖なる盾の力は―――紋章の力はここまですさまじいと改めて実感し畏怖畏敬の念を禁じ得ない。

「すごいね。さすがは盾の力。癒しの力だ。」

物珍しげにノキアの手を眺め、ナムダはぶらぶらと机の上で足を遊ばせる。無邪気で、好奇心旺盛で、いつも笑顔な彼。
乱暴にまかれて擦り切れた包帯が視界に入る度に、ノキアは顔を歪めて新たな涙をこぼす。

「何故ノアが泣くの?」

「ボクは泣いてません。」

「泣いてるじゃないかー。屁理屈は子供の証かな?」

「…そんなんじゃありません。」

涙を乱暴に拭うがぐちゃぐちゃの顔がさらに汚くなるだけだ。鼻水と涙にぬれた袖を拭おうとしたナムダの手をとり、右手を見つめた。

「貴方の代わりに泣いてるんです。」

「ああ、そういうことか。うんありがとう。」

淡白でそっけない言葉に、ノキアは更なる涙を流す。
ナムダが冷たくなるのは、近づいた証。冷たくなったときは、図星の証。助けを求めるサイン。

「例え貴方が貴方を許さなくても、ボクが許します。」

包帯を外そうとすれば、強い力で頬がぶん殴られた。無表情な彼。赤くなった頬を擦るノキアだが、ナムダからは頑なに視線を外さない。昔の彼なら、ここで涙を流していただろう。しかし、”彼”は痛みでは泣かないから。

「君は、人を殺したことがあるかい?自分で自分の大切な人を殺してしまったことはあるかい?」

壊れたラジオのように、同じ言葉が同じ音程で聞こえてくる。

「君はこうなっちゃいけない。」

綺麗な顔で笑う彼は、確かに哭いていた。

+END

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イメージとしては次ナナミが死にます

15.10.23

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