幻すい | ナノ



ラブポーション

※後天的にょた
※T


薬のせいで、体が変化してしまったのはわかっている。今のところは特に体から変化は見られないが、いつ戻るのかも副作用だあるのかもわからない。薬を持ってきた本人も、首を傾げるばかりだ。
とりあえず、無責任なバカを殴っておいた。


「殴るぞ。」

「殴ってから言うなよな。」

殴ったのはフリック、殴られたのはビクトール。不機嫌に男を見下ろした女は、力が抜けたようにベッドに座り込みため息をついた。断っておくが、フリックは元々『男』である。しかし、ビクトールから「珍しい酒だ」と言って渡された謎の液体を飲むと、女の体になっていた。
原因はすぐにビクトールとわかった。問い詰めて吐かせてやろう、と部屋に乗り込んだら案外すぐ降参したのだ。
日は落ちて、窓からは微かにカラスの声が彼らを嘲笑うように聞こえてきた。

「さっきそこで買ったんだよ。『夜のマンネリ防止の薬』だって言ったが、確かにマンネリ防止にはなりそうだ。」

「ふざけんな。女に飲ましたら男になる薬だろ。男同士でヤるつもりだったのかよ変態。」

「そうだよな。普通に考えたらそうなるよな。だったら、この薬は胸がでかくなる薬だったとか…」

フリックの豊満な胸を見ての意見であることは丸わかりである。再び容赦なく脳天に拳を振り下ろせば、蛙が潰れたかのような呻き声がした。

「本気で殴るなよなー……」

「うるせえ。人の体で実験しやがって。」

「や、媚薬とかだったらそのままフリックさんを連れて、夜の町にでも繰り出そうと思ってな。」

「最低だなテメェ。もし変な薬だったらどうするつもりだったんだ。」

構っていられない、と背を向けるとビクトールが声をあげた。いやな予感がするが、気になるのは気になる。煩わしさを隠そうとしないで振り返るとビクトールの満面の笑みがあった。

「お前、風呂はどうすんだ?」

「は?」

「いやな。お前は今『女』だろ?男湯に入るわけにはいかねえだろ。なら堂々と女湯に入って覗きか??」

思わず聞き返せば、理解してないととられて至極丁寧な説明をされて腹が立った。しかもニヤニヤと、カメラを渡されて顔面につっ返した。防水加工がされてるとは、覗く気だったのだろうか。

「女湯なんか入るわけないだろ!!」

「ならフリックー。俺らと入ろうぜ。」

「魂胆は見え見えなんだよ。誰が入るか。」

今日の目的は、資材集めと人材集め。力仕事が多いから、メンバーも男性ばかりである。ビクトールにタイ・ホー、ヤム・クーにルック、そしてリーダーのナムダ。独り身の男ばかりである。

「タイ・ホーの奴、喜ぶぜ。美人だってな。」

「元は男だっての。」

「うるさいな。おちおち読書も出来ないだろ。」

声のする扉側を見ると、不機嫌な顔で小脇に本を抱えたルックがいた。

「悩むくらいなら自然の露天風呂でいいじゃん。」

「なんで知って!?」

「隣まで丸聞こえだよ。」

心底煩わしそうな顔をしているのは、彼の性格故致し方ない。

「ナムと入れば?」

「一人でいいだろ。」

「女が露天風呂で一人でいて、何もない保証はないけど。」

「それはアイツといても同じだ。」

「ナムは女に酷いことしないんじゃない?真面目な奴だし。」

今身内に女はいないんだ、諦めなよ。ルックから言われた言葉にフリックは観念してため息をついた。

**

事件は、ナムダが部屋で明日の予定を再確認していた時におきた。扉をノックする音に横柄に返事を返し、マッシュのメモと目的地の地図に向き直ると扉が開く音がした。
確か声はフリックのようだったから、真面目な話だろうか。ちょうど一区切りがついたので顔を上げると。

「ナムダ。一緒に風呂に行かないか。」

フリックに似た、見慣れぬ女性が一人こちらを見下ろしていた。少し恥ずかしそうに染まった頬に、腕に支えられた豊満な胸。思わずペンを取り落としてしまい、地図に黒いインクが突き刺さる。

「えっと…部屋を間違えてます?」

「間違ってないぞ。オレだ、フリックだ。」

髪をかきあげ、トレードマークでもあるバンダナを見せると、やっと納得したような気の抜けた返事が返ってきた。

「でもさ。フリックって男だったよね…?どうしたの…その体。罰ゲームか何か?」

「罰ゲームでも女装趣味でもない。」

「じゃあどうしたの?まさか…本物ってわけじゃないだろう??そんな紋章は聞いたことはないし…。」

から笑いを浮かべながら、目線を合わせることなくナムダが問いかける。説明しようにも、この自体に一番頭が追いついていないのはフリックだ。真面目な性格もあり、どのように説明しようかでも混乱してしまう。頭を乱暴にかくと、入り口のドアを顎でしゃくる。

「いろいろややこしいんだ。風呂で話す。」

「ち、ちょっと待ってよ!」

手をつかみ無理矢理連れて行こうとすると、慌てたナムダにフリックは怪訝な顔。

「今話してよ!女装や詰め物じゃなかったら…今日はエイプリルフールでもないし…」

「嘘でこんな面倒くさい真似するかよ。」

「じゃあどうして…」

面倒だ、と不機嫌な顔を隠すこともなくフリックはナムダを睨みつける。慌てる様を隠さないナムダは面白くもあるが、如何せん混乱してると話が出来ない恐れがあり面倒だ。

「あー……これはだな。あれだ。ピクトールのせいで、本物の女の体になっちまったんだ。」

「本物の…?」

「わかったなら行くぞ。」

「わ、わからないんだけど…。」

「早く寝たいんだ。早く行くぞ。」

「今日くらいはお風呂に入らなくてもいいんじゃないかな…」

『今日は風呂に入らない』、ということは頭から抜けていたようだ。動きを止めたフリックに息をついたのが束の間。困ったようにため息をつきながらナムダを振り返った。

「オレ一人でこの体に向き合うのも気が乗らない。」

「僕を巻き込もうって言うの?」

「そういうことだ。観念してこい。」

納得がいかないとぐずるナムダに、フリックはため息をついた。先程から視線を合わせようとしないところも癪である。半ば無理矢理腕を掴むと、引っ張った際にフリックの胸へとナムダの腕が当たる。柔らかい感触に体を強ばらせたナムダには、フリックは気づかなかった。

「ほ、本物……」

「だからそう言ってるだろ。」

「でも、これって混浴になるんじゃ…」

「まぁ、形だけ見たらそうなるな。」

混浴という事実を自覚させられ、ナムダは顔を赤らめた。その初々しい反応に、確信せざるを得ない。
『ナムダは女慣れしていないのだ』と。
天魁星ということもあり、周りに女の影がイヤというほど見えたナムダだが、実際交際しているという噂を聞いたことがなかった。

「なかなかこんな機会もないだろ。いろいろ教えてやるからこいよ。」

「い、いろいろ…!?」

「ははっ!健全男子はそうじゃねえと。」

からかわれた、と頬を膨らませるナムダにフリックは声を上げて笑う。負けた気はするが、興味がないわけじゃない。無理矢理連れて行かれる間、顰めっ面ではあったが、足取りは素直なナムダだった。


**

フリックのプロポーションは完璧だった。タオルという布一枚を前にして改めて自覚させられた。健康的な小麦色に、しなやかな筋肉。それに豊満な胸にくびれた腰。
目に毒だと見ないようには努めてはいたが、悲しきかな男の性。体を洗いながらも、湯船に浸かるフリックを盗み見てしまうことに、ため息をついた。それに気付かないフリックではない。ナムダの視線にからかいを込めた笑顔を浮かべた。

「なんだ。お前も女に興味があるんだな。色恋沙汰には全く興味がないと思ってたぜ。」

「…誰もそんなこと言ってない。」

湯船から顔だけ覗かせて、子供をみるような優しい顔をするフリックに、拗ねて背中を向け続けるナムダ。乱暴に髪を流し汚れを落とすと、フリックを横目で睨みつけるがすぐに前へ向き直る。顔は依然真っ赤だ。

「人の気も知らないで…。」

「一人で入りたい質だったか?それはお互い様だ。」

「そういうことじゃなくて。」

見るからに拗ねているのは間違いないが、如何せん理由がわからない。ぼんやりとナムダを見つめていたフリックだが、突然「あ。」と声を上げた。

「女の裸に慣れてなかったんだったな。」

ナムダの動きが止まったということは、図星である。湯のためだけではないだろう、肌の赤みにフリックは声を上げて笑いだした。

「そんなこと一言も言ってないだろ!!」

「でも、童貞だろ?ガラになく照れてるじゃねーか。」

ナムダからは返事はない。無言の肯定に、『普段見れない子供らしいナムダ』を見れ気をよくしたフリックは、挑戦的な視線をナムダに送り続ける。

「照れんなよ。男同士だろ?」

もっといじってやろう、と挑発すれば鋭い眼孔が向けられたら。怒っているのか悔しいのか、ワナワナと震える肩には少し罪悪感を覚えた。しかしこの子供の年相応な顔を見ることはなかなかない。絶好のチャンスなのだ。

「そうだよ。俺はど、童貞だよ。だから裸の女性なんか見たことも触ったこともないよ。」

「やっぱり童貞か。」

「う、うるさいな!」

「照れんなよ。別に焦らなくてもいいだろ。」

少々のぼせてきたため、湯船からあがるとナムダの体が強張ったのがわかる。
背を向けて囲いの岩に座ると、後ろからぼそぼそと声が聞こえてきたような気がした。

「モテる人にはわからないよ。」

「何か言ったか?」

「とにかく、僕は先にあがるから。」

最後にかけ湯をしようと、意を決して風呂へと向くと目尻の下がったフリックがいた。予想外である。一人でゆっくりしたい、っ言っていたから喜ぶと思っていたのに。それに、困った顔も綺麗で。慌てて顔を逸らしたが、赤い顔は隠しようがない。

「オレもあがる。」

「ゆ、ゆっくりしてなよ。」

「女の体は予想以上に不安だ。」

確かに、露天風呂は誰でも近付けるし誰が見ているかわからない。今暴漢に襲われたら、いかにフリックであれどもひとたまりもない。

「その辺の奴らには負けない自信はあるが…それは男の時の話だ。今は…」

「そ、そうだね……一緒に上がろうか。先に着替えてきなよ。」

「置いて先行くなよ。」

甘えるような言い方に、不覚にもときめいてしまった。普段は二枚目なフリックが、可愛く見えてしまって。「わかったよ」と慌てて返事をすると、そのまま近くの木陰に消えていった。

(まずい)

腰に溜まる熱に戸惑いながらタオルをまき直す。気のせいだ、これは別の事で興奮したんだと、わけのわからない自分への言い訳ももう通用しそうにない。しっかりとフリックへと向けられた欲望に、泣きそうにすらなる。

(なんであんなに綺麗なんだよ…)

八つ当たりなのはわかっている。だが恨まずにはいられない想いに、重い溜め息をついた。


+END

++++
Tの時間軸
ふーしぎな薬飲ーまされて♪
→温泉旅行
→女湯に入るのは嫌なフリック、だが男湯に入れず困る
→「悪いなのび太。この温泉は三人までなんだ。」…じゃなくて混浴出来る露天風呂が。
→ナムダと入る、意外にも紳士的で、何もしてこない
→童貞のナムダをからかうフリック、からかわれて飛び出すナムダ。
→「エッチすれば戻れるかも」という言葉に戸惑う
→からかったお詫びに、ナムにいろいろ教えてあげてry(※裏)
愛はない、ナムダが発情してるだけ


なんだこのメモwwwwwwww

14.7.7

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