幻すい | ナノ



オチないお話

※後天的ショタ

目が覚めたら、借りている部屋のベッドに潜り込んでいたものがあった。
何か後ろめたいことがあるのか、手を伸ばしきれば届きそうな距離にあるシーツの山は、姿を綺麗に隠してしまっている。小さいのは、丸まっていりからなのか本来がこの大きさなのかは今は判断しかねる。言えるのは、規則正しく上下する布団が『中に生き物がいて、眠っているだろう』ということだけ。
何がいるのか、純粋に気になったのだ。中のものを起こさないように体を起こし、布団を捲ると元気に跳ねた毛が飛び出した。子供だろうか。
小さな体を更に丸め、無意識に暖かい物を求めさ迷う手がナムダの服を掴む。そのまま顔を夢心地に綻ばせて引き寄せる。純真無垢な表情に心がほんわかと温まった。

しかしこの子供、どこかで見たことがあるではないか。しかし子供に知り合いは少ない。尚更顔など忘れないはずである。ならば知らないはず、でも身近な誰かだという確信があり、思い浮かんだ顔とはどれもサイズが違っていて―――。

「ん…ナム……」

子供特有のソプラノに、親しい者しか口にしない愛称。目はまだ開いていないが、確信は得た。

(誰かの隠し子かな?)

きっと親しいだれかの子供であろう。戦中であるから結婚式をあげたりはしない。簡単な登録のような処理だけで、結婚という儀式は終わる。子供も同様だ。いつ死ぬかわからない状態で、子供を抱えるのは厳しい。それに、お喋りな面々から噂も聞いたことはないとなると、隠し子であろうと推測できる。
愛称は、如何せん親から聞いて覚えたのだろう。

(うーん、フリックにそっくり)

「……、デッサ…」

嬉しそうに綻ぶ顔にこちらも嬉しくなってきた。頬を優しく撫でると、小さく身じろぎ。胸にすり寄りながら、暖かいと笑顔を見せてくれる。しばらく横に寝そべり眺めていると、気配を感じてなのか目が開かれた。目が合ったから微笑んでみると、まだ覚醒していない様子。

「おはよう。」

「うー…ん、?」

「よく眠れたかな?」

「…」

「君のお父さんは、って…あれ?聞いてる?」

「!?――!」

完全に硬直している子供に首を傾げていると、魚のように口を開閉し顔色を赤へ青へと変えている。しばらくすると、慌ててベッドから文字通り転がり落ちた。器用に布団を巻きつけて。

「もしもーし。怪我はない?」

「わ、わすれろ!」

「何を?」

「いまみたことすべてだッッ!」

「落ちた事は見なかったことにするけど、本当に大丈夫かい??」

「だいじょうぶだから!」

「そっか。」

忘れろ、と言われたら忘れてやるのが情というもの。何事もなかったように、朝の支度を始めると丸い目がベッド越しに覗いてくる。
「きかないのか?」

「何を?」

「…いい。」

ベッドの影へと引っ込んだ少年に、ナムダは笑みをこぼす。互いの表情が見えなかったからよかったが、見えていたら少年はムキになっていたことだろう。

「話したくないなら、何も聞かないよ。帰りたくない事情があるなら、満足するまでここにいればいい。」

「ナム……」

長い髪を、ポニーテール状にゆった時だった。背中から小さい体が抱きついてきて、服へすがりついてくる。一旦手を止めるも、振り返らず続いてマントに手を伸ばした時に、少年がぽつりぽつりと呟き始めた。

「あさ、おきたらこうなってたんだ。」

「うん。」

「ほかのやつ、とくにビクトールのやろうにみつかると、ぜったいバカにされるからな。」

「うん。」

「……おまえはバカにしないよな。」

「しないよ。ところで。」

言葉を遮ってでも、聞いておきたいことがある。見上げてくる少年を見つめながら、笑顔を浮かべた。

「君のお父さんは?」

その質問に、少年の額に皺が刻まれる。なにか悪い事を言っただろうか。首を傾げた瞬間、まさか拳が飛んできた。子供の力で、手加減もしてくれてはいたが、咄嗟に反応できるほど反射はよくない。的確に額を狙ってきた拳はなかなか痛かった。

「テメエ…ひとのはなしをきいてなかったろ。」

「いてて…聞いてたよ、失礼な。朝起きたらこの部屋にいたんだろう?」

「ちげえよ!!」

再び飛んできた拳に、理不尽な痛み。わなわわなと震える体を、恨めしい目で見つめていると、子供に似つかわしくない眼力で睨み返された。

「おれはフリックだッッ!!」

叫んでおきながら外に聞こえるという可能性を思いだし、慌てて口を抑える少年。確かにフリックに似ているとは思った。だが彼は三十路に近い大の男である。一日で子供になるなど想像も出来なければ、予想もつかない。
だが、言われたら納得してしまうのも事実。確かに口調も態度も見た目も似ているし、愛称で呼ばれたことも納得がいる。所謂、二人は恋人同士なのだから。
だが、非現実的すぎて納得がいかない。鵜呑みにするには情報が少なすぎる。

「原因は?」

「ニナのしわざだ。ジーンにへんなもんしょうをかりてきたらしい。」

「服は?」

「子供のサイズなんてあるかよ…」

「だからずっとシーツとカーテンを巻いてるのか。それ、部屋の?」

「そうだ。」

「オデッサは?」

「…あ…。」

慌てて腰に手を回すあたり、本人で間違いないようだ。オデッサを"剣"と認識しているのだから。信じられない点はまだあるが、紋章の力だとすればとりあえず納得はしておこうと思う。
厳重に顔を隠すカーテンを取り除こうと手で払う仕草をすると少し覗いた顔は幼く、丸い瞳がナムダを映す。可愛い、と言おうものなら拗ねてしまうであろう。しかし眠っていたときの笑顔が忘れられない。このもう一度見たいと思うのは間違いではないだろう。

「うん。可愛い。」

「うるさい。嬉しくない。」

「そんなところも可愛い。」

丸い頬を親指の腹で撫でてやると、目尻が下がる。困ったような顔に言葉を待っていると、まさかの頭突き。思いもよらない攻撃に、鼻を押さえて苦悶の声を上げた。

「なんで今日に限って、手が早いのさー」

「こっちのせりふだ!どさくさにまぎれて、しりをなでまわすんじゃねえ!!」

「柔らかくって、つい。」

「なにが『つい』だ!」

「じゃあ。誘ってたから、つい。」

尻に回された指を割れ目に入れ、かき回すと体が面白いくらいに跳ねた。下着も何もつけず、無防備な裸体に手を這わせると真っ赤になるフリック。苦笑を漏らしながらも再び尻へと手を進めると、小さく息をのむのがわかった。おまけに顔も真っ赤である。

「ふふ、可愛いね。このまま食べちゃおうかな。」

「まて、やめろって…っ」

「本当にイヤなら抵抗しなよ。」

抵抗の意志と共に突き出される拳を難なく避け、小さな手を捕まえると指を口に含む。跳ねる肩と焦る顔に笑いが漏れた。

「子供の力で適うと思った?」

「う…、やめろ…」

「俺が意地悪なのは知ってるだろ?」

妖しく微笑み押し倒そうとのしかかるナムダに、怯えきった表情。手を伸ばしてカーテンを乱暴に取り去ると、いよいよ身に危険を感じ、フリックは体を固くする。

「フリック。」

「おまえっ!もどったらおぼえてろよ!」

「じゃあ旅に出るからいいもん。」

その言葉に、フリックは困惑した。嫌いなわけじゃない。嫌だと言うのは言葉の綾だ、本当に嫌ならこんな姿で彼の前に現れたりはしない。それに恋人として、やることはやっている関係である。今更恥ずかしがることもない。
だが、自分の不可思議な変化で興奮されるのが不愉快なのだ。まるで、いつもの自分が否定されたようで。でも伝える術がない。伸ばした手を下ろすと、小さな溜め息が聞こえた。

「なんて嘘だよ。俺は子供に欲情したりしないって。」

「うそつけショタコンが。ノリノリだったじゃねえか!!」

「それはからかっただけ。本気じゃないよ。」

「しんようできない…」

「なら本当に食べちゃおうか。」

舌なめずりで体の下に閉じ込め、腕までも拘束する。裸体を晒すこととなり、再び身をこわばらせるフリックをしばらく無表情で見つめ、ナムダはヘラリと笑った。

「嘘だよ。可愛いなぁフリックは。」

体が離れたことでホッと溜め息をつき、心配そうにナムダを見つめれば楽しそうに笑う。ベッドの離れた所に座り、こちらを見つめてくるナムダからは何か寂しさが伝わってくる。体を起こせば、手で静止ながら微笑んだままだ。

「今日は俺が甘やかしてあげるからさ。存分に甘えなよ。」

「よけいなおせわだ。」

「じゃあ、せっかくだしヤる?」

「あたまのなかはそれしかねーのかよ。」

「んー。いつ戻るかわからないし、今のうちに出来る事をやりたいなって。」

身を起こしたフリックを抱き込んだナムダは上機嫌だ。簡単に抱き込まれたことで、今は子供だと再認識させられムスッと膨れるフリック。それすら可愛いと頭を撫でるとクスクスと笑う。

「俺もいつまでここにいるかわからないし。」

「やめろ。」

「戦争もいつまで続くかわからないし。」

「…」

「だから、今出来る事をしようよ。」

至極最もな事を言われたら、言い返す言葉もない。笑顔で選択を強要しないナムダには、いつも困らされる。何も言わないが、無言の威圧感に折れたのは勿論フリックで。

「……ほんとうによけいなことはしないな?」

「約束するよ。」

「じゃああまえる。」

諦めたのか、開き直ったのか、信頼したのかはわからない。抱きついてきたフリックを優しく包み込むと、ナムダは小さく微笑んだ。

(さいしょから、こうしたかったなんていえない)

+END

++++
ショタ書いたら満足してオチが行方不明です

14.7.21

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