女の尊厳
※先天的
※ひんぬー
人の価値は見た目で決まるわけじゃない。更には女性の魅力も容姿の美しさで決まる訳がない。勿論美しさだけではなく、身体的特徴でも。
ケイオス城の風呂はとにかく広い。広くはあるが、人数も多い。だから一人静かに入りたくても、このように鉢合わせすることなどしょっちゅうである。
今日は特に運が悪かった。賑やか少女であるニナに出会ってしまったのだから。
「アップルって、思ったより胸があるのね。」
「ちょっと、どこ見てるんですか!」
「胸。」
悪そびれもなく凝視することは、同性と言えどもセクハラである。しかし赤くなり胸を隠すアップルを助ける気にもなれず、フリックは風呂場の縁へと体を預けて一同に背を向けた。
「カスミもなかなかね…」
「そうですか?」
「あるわよっ!私と年も近いのに悔しい!!」
今にもヒステリックを起こしかねない剣幕に、カスミも苦笑いだ。他のメンバーも目を付けられないように徐々に距離を置く中、次の獲物を求めてニナは周囲を見回した。
「フリックさんは、どうなんです…??」
きた。何故かニナに「かっこいい」と慕われてしまい、妙に絡まれるのだ。ため息をついて首だけ振り向きはするが、胸は風呂の壁と湯で隠している。
「今まで生で見たことなかったですが、フリックさんのことだから脱いだらすごいんですよね!?いつもは縛ってるんですよね??」
一体この少女は、どんな幻想を抱いているのだろうか。一人盛り上がる夢見がちな少女、と「縛ってる」という言葉にため息をついた。
「…なんの話だ?」
「胸の話ですよ〜!さては考え事でもして聞いてませんでした??」
キャッキャと一人盛り上がるニナを、「フリックに関心が向いたら自分は大丈夫」と言わんばかりに胸を撫で下ろす一同。自分の事を棚に上げてなんだが、薄情だと睨みつけておいた。
「見せてくださいよ〜。あ、嫉妬したりはしませんから。」
「…」
フリックからの返事はない。視線はニナの胸元でさ迷い、苦い表情を浮かべている。
「?フリックさん、聞いてます??どうしたんですか?」
目の前で手を振られ、我に返った。不思議そうに首を傾げるニナから罰が悪そうに視線を逸らすと「ごめん、」と覇気なく呟く。それを気分が悪いととったニナも、少し申しわけなさそうに「のぼせないように気をつけて」と、労いの言葉を残してメグと共に脱衣場へと駆けていった。
やっと解放されたと息をついたが、背後から水音が近づいてくる。誰がきたのかと振り返り、口元が引くついてしまった。
「こんばんは。」
「こ、こんばんは…」
物静かではあるが、彼女ことリィナも苦手な部類に入る。前に街を脱出する際、着せかえ人形にされた事が未だにトラウマなのだ。
「…本当のところ、どうなのかしら?」
「どう、とは?」
「とぼけないでくださいな。胸ですわ。」
触れられたくない話題に聞こえないようため息を吐き、壁に胸を押し付ける力を強くする。覗き込むようにしていたリィナだが、何かに気づいたように澄まし顔で笑った。
「女性は胸で決まるわけではないですからね。」
余計なお世話だと言いたかったが、ぐうの音も出ない。「お先に失礼します」と、見せつけるように誇示した胸を疎ましく思いながら、誰もいなくなった湯船に体を預けて盛大なため息を吐いた。
風呂上がり、人に会いたい気分じゃなかったため部屋に直行することにした。本当は夜風にでも当たりたかったが、特に女性に会いたくない、更に更に巨乳の女性には。
しかし、自分の部屋から漏れる灯りにフリックは何度目がわからないため息をついた。扉を開けると、案の定。
「お前は人の部屋で何を食べてる?」
「は、ふひっふ……プリン。」
机を占領し、黙々とプリンを貪っていたのはナムダだ。何をしにきたかなんて、まともな答えが返ってこないに決まっている。
あえて問わずにベッドに座ると、少しはすまないと思ってか振り返ってくる。
「ごめん。レオナさんが一つしかないって。」
「そっちか。いらないからゆっくり食べろ。」
勝手に入ったことに対する謝罪ではないとは思っていたが、呆れるしかない。
「代わりにホラ、牛乳。」
ただの親切だということはわかっている。しかし憤りが湧き上がるのは事実。
「よく飲んでたよね?どこか伸ばしたいところがあるのかな?」
これは身長のこと。わかってる、わかってるのだが今フリックの頭を占めることは一つだった。
「…胸のことか。」
「ふえ?」
「イヤミかこの野郎。」
スプーンをくわえ、しばらく思い当たる節を探すナムダだったが、一つあった。先ほどフリックを待つためにこの部屋へと移動していた時の話だ。
「…ニナちゃんが、夢見がちにフリックの事を話してたのと関係ある?」
「夢見がちってなんだよ。」
「『フリックさんは脱いだらすごいんだ』ーって、嬉しそうに話してたよ。」
ナムダがプリンをつつくと、プルプルと弾力を持って揺れた。それが先ほどの風呂場での胸を思い出して、フリックは顔をしかめて隠すように胸を抑える。
気づかないナムダは上機嫌にプリンを掬うと口に運んで、至福の声を上げた。
「ん〜!甘い。やっぱりプリンはいいね。」
その言葉がささくれ立ったフリックにはイヤミに聞こえたので、一発殴っておいた。わけがわからないと目を瞬かせるナムダに、少しは罪悪感がわいた。目をそらしながら「ごめん」と謝れば、ヘラリと笑うナムダがいた。
「どうしたの?ニナちゃんに胸のことで何か言われた?」
「何でわかるんだ。」
「牛乳のこと。それにプリンのこと。裸のこと。連想するのは胸かなって。」
「別に。大したことじゃない。」
「フリック。」
バツが悪くなり目線を逸らすフリックの手を、ナムダは強く握りベッドまで引き寄せる。今度はフリックが困惑する番だ。そのまま押し倒され、目の前にはナムダの顔。抵抗することも出来ずに、見つめ返していると笑う気配がした。
「俺はこのままでいいと思うけどな。」
「男に女の気持ちがわかるか。」
「逆に、フリックも俺の気持ちはわからないでしょ。」
ぐうの音も出ず言いよどんでいると、胸に触れる熱。失礼にもナムダがフリックの胸へ触れてきたのだ。
「別に俺は小さくてもいいけど。十分柔らかいし。」
「お前っ!セクハラっ!」
「今更今更。じゃあなんでフリックは大きくしたいの??」
そう言われても、本能的な悔しさだったために返答にも困る。
「悔しい、から。」
「大きいからって何かに勝てるわけでもない。」
「お前も、ナイよりはアルほうがいいだろ。」
「あればの話だけど。」
未だに胸へとさ迷う手には触れないことにした。
悔しいのは悔しい。でも最終的に女の満足を得られるのは『異性を惹き寄せる』ことだろう。恋人が、ナムダが喜んでくれないと意味がない。
「んー…でもやっぱり、今のままがいい。」
「何でだよ。まさか女じゃなくてもいいのかよ。」
「どうしてそうなるのさ。胸はあったらあったで嬉しいけど、フリックはそのままがいいの。」
「失礼なこと言ってないか??」
「ピリピリしないでよ。もし、フリックのスタイルがよくなったら、これ以上男が寄ってくるじゃないか。」
手は頬を滑り、ナムダは笑う。言いたいことは遠回しでも伝わった。恥ずかしくなり目線を逸らすフリックにナムダは笑う。
「俺はフラフラしてるけど、フリックが他の人に取られたら寂しいんだよ?」
「フラフラしてる自覚はあるのか。」
「ちゃんとあるよ、失礼だなぁ。それに。」
今度は、優しい笑顔から打って変わって悪戯っ子の笑顔。いやな予感がして身を捩ったが、再び胸へと移った手に硬直した。今度は服を託しあげて、直接小さいながらも自己主張する胸へと触れた。
「こうやって、コンプレックスを抱えて悩んでいるフリックが可愛いから。」
「…趣味が悪い。」
「なんとでも言ってよ。それでも胸を大きくしたいならさ。」
服の上から胸を弄る手が、段々性的になってくる。くすぐったくて身を捩るとクスクス笑うナムダの声。
「俺が大きくしてあげるから。」
「今からか。」
「今からがいい?」
「……任せる。」
体を完全に預けてきたフリックに、ナムダは上機嫌に覆い被さった。
+END
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いつもはにょた化=貧乳なので書きやすかったです。
でもフリックはやっぱり巨乳なイメージ
14.6.19
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[mokuji]
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