「オデッサ」
夜の愛剣の手入れはフリックの日課である。
剣士にとって剣は命。それをナムダは邪魔する気はないが、面白くない事ではあった。普通、人の趣味に首を突っ込んでとやかく言う性格ではないが、これだけはあまり許容できない理由があった。
「その剣には、大切な人の名前をつけるんだよね?」
「そういう村のしきたりなんだ。」
「ふうん。」
聞くだけ聞いて、興味を失うナムダだったがフリックもそれ以上詮索はしないし気を悪くすることもない。枕を抱き寄せるナムダが子供らしくて苦笑が漏れ、逆に睨まれてしまった。
「名前を変えることはしないの?」
「人と同じだ。一度決めた名前は変えない。それが村での暗黙の了解なんだ。」
「ふうん。」
再び丸くなるナムダに、首を傾げる。突拍子もないことを言うのはいつもと変わらない。だけど、わかりやすくむくれる姿は珍しい。オデッサを置いて、ナムダに近づくと上目遣いでこちらの様子を伺ってくる。どうやら機嫌はよくなったようだ。分かり易い子供の顔が珍しく、微笑ましく。
「なんだ。『ナムダ』ってつけてほしいのか?」
「うん。」
からかってやろうとしただけなのに、予想外の答えだった。いつも飄々として肩すかしを食らう分、驚いてしまった。そんなフリックの心を読んだように「俺をなんだと思ってるの。失礼な。」とナムダがむくれる。
「もしかして妬いてるのか?」
「俺より、」
「『オデッサのほうがいいんだろ』なんて事を言うのはナシだ。」
「じゃあ妬いてる。」
『じゃあ』ということは、図星か。ため息をつくと、ナムダが立ち上がりフリックの背後にある壁に手をつき見下ろしてくる形になる。
「別に気にしてはいないよ。フリックの"彼女"はオデッサただ一人だって知ってるから。」
やっぱり妬いているのと、卑屈な思想が原因か、とフリックは笑う。今も膨れっ面が目の前に晒されている。ナムダの考えている事はお見通しだ。
「じゃあこれは知っているか?俺の彼氏はナムダただ一人だってな。」
「む、知らない。」
「何でも思い込みで塞ぎ込むなって、いつも言ってるだろ。次バカなこと言ったら殴るぞ。」
「じゃあ最後に女々しいけどベタな事を言わせてよ。『オデッサと俺だったら、どっちが好き?』」
本気で言ってるのかはわからないが、求めている答えならテンプレートで知っている。だが、あえて正解は言ってやらない。この問題は、実は数学じゃないんだから。
「バーカ。二人とも好きの意味がちげーよ。」
+END
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なんかぴんとこない
前にもこんな感じの書いて…る、ね、うん、
14.6.21
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[mokuji]
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