幻すい | ナノ



愛の証明

「フリック。」

情事の後の、気怠くも甘い空気の中、ナムダは愛しい名前を呼ぶ。振り返ったフリックは、微笑みながらも頬を撫でてくれた。甘んじて受け取った優しさに、自然とナムダの口元が綻んだ。

「どうした?今更甘えてくるなんて珍しいな。」

「いいじゃない。恋人同士なんだから。」

笑うナムダに、フリックは苦笑を漏らす。ナムダとフリックは恋人同士。同性であるどころか年齢の差まである。最初はどちらが言い出したかわからぬ関係性に、抵抗がなかったと言えば嘘になる。
しかしナムダの笑顔の裏側の、不安定な部分を見て放っておけなくなった。
オデッサに似ているから。失った彼女の代わりでもいい、支えてあげたい。
そんな意識がフリックの中にはいつもあったのだ。そんな事はナムダもわかっている。だが一度温もりを知ってしえば、抜けることは容易ではない。ナムダもそんなフリックの気遣いに甘えてしまった。

「恋人、か。」

「なんだよ。自分で言ってきて自問自答か?」

「いーや。なんでもないよ。」

フリックは、いつかはナムダの元を離れてしまうだろう。不安定で歪んだ関係の上に成り立った愛だ、いやそもそも愛も存在しているのだろうか?していないかもしれない。
不安に煽られ、無意識に離れてしまうナムダに先程までの甘い雰囲気はない。不審に思ったフリックだが、どうしてか検討もつかない。

「ナム、どうした?」

「べっつにー?」

「別に、じゃあないだろう。どうした。」

答える気のないナムダに、フリックは眉を寄せる。隠し事をしているのは明確だ。しかし一度口を閉ざしたナムダの口を割らせることは骨の折れる事だとフリックも知っている。だが、彼の一人考え込む癖も知っている。無理矢理吐かせるわけではないが、フリックはナムダの髪を優しく梳きながら有無を言わせぬ強さで問う。

「どうした?何を悩んでる?」

「んー。フリックの事。」

「茶化すな。真面目に答えろ。」

「本当なんだけどな。わかったよ。」

降参、と冗談めかしく手を上げるナムダにフリックは眉を寄せる。冗談は言うが嘘は言わない、根は真っ直ぐなのがナムダだ。大丈夫だとは思うが。
意外にも、口はあっさりと開いた。

「フリックはまだオデッサの事が好きなんだろう?」

その言葉の意味はすぐわかった。何もないように装ってはいるが、ナムダは目を遠くに向けている。きっと。見えない相手の心を見ようとして、もがいてる印。遠まわしにフリックを試しているんだろう。
"本当に、自分でいいのか"
と。

「バカな事は考えるなって、約束しただろ。」

ナムダの頬を挟み込みながら強く叩くと、驚いた表情。子どもみたいだと笑えば、不機嫌になるナムダ。コロコロと表情が変わるところがまたおかしくて。だが笑えば言いたいことを言う前に逃げられてしまう。真剣な目がナムダを捉えた。

「俺が簡単に股を開くと思ってるのかよ。男だぞ。」

膨れっ面をしたフリックがナムダを真剣に睨みつける。恥ずかしさを隠すようなその行動に、次はナムダが笑いを堪える番になった。

「好きでもない奴に無防備なところを見せられるかよ。」

真っ直ぐな愛情表現に、ついに笑いが弾けた。真っ赤になるフリックがおかしくて。更に笑い声は大きくなる。一分ほど経過しただろうか。さすがに笑いすぎだ、とフリックに頭を叩かれてしまった。

「笑うな。」

「ごめんごめん。フリック可愛い。」

「男に可愛いとか言うな。気持ち悪い。」

「惚れた弱みだもん。大目に見てよ。」

未だ引かぬ笑いに肩を震わせながら、フリックの頭を胸に抱き込む。ナムダの甘えた包容に答えるように、腕が背中に回るのはすぐの事だった。嬉しい、というように強くなる腕の力。未だ手袋をした右手が当たると、少し痛みを感じた。

「俺の彼女の為にも頑張らないとね。」

「待てよ。俺が彼女か。」

「違うの?突っ込まれて気持ち良さそうに喘いでたようだけど?」

純粋に首を傾げるナムダに言葉が詰まる。

「ヨくなかった?」

「…ヨかったのは認める。」

恥ずかしいことではあるが、男でありながら挿れられて感じてしたのは事実。素直に答えたことに気をよくしたのか、ナムダの笑みが深くなる。ふとフリックの頭を抱き込んでいたはずの手が、背中を伝って降りてきた。背中を伝う性的な意図は、一糸纏わぬ臀部を這い、そのまま穴に付き挿れた。

「ひぃっ…」

フリックの掠れた悲鳴に火照る肌。気をよくして指を動かせば、耐えながらも我慢できない甘い嬌声が聞こえてくる。

「またムラムラしてきちゃった…」

うつ伏せにし、のしかかってくるナムダにフリックはため息をついた。発情したナムダの熱い息が耳へとかかり、体が疼いて仕方がない。

「わかったよ。…だけど明日に支障が出ないようにしろ。」

「…善処します。」

「善処じゃない。やれ。」

「はーい。」

クスクスとどちらともなく起きた笑いは、重なったキスでもみ消されてしまった。

+END

++++
不安になる
愛の確かめ合い


がテーマでした。ナムは元々暗いから。

14.4.28

[ 38/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -