努力は恋のスパイス
※フリックとナムダが同い年(17)設定
「男はどんなことをされたら嬉しいんだ!?」
突然の言葉だった。いきなり切羽詰まった表情で詰め寄られて冷や汗をかいた。ただでさえ整った顔立ちに険しくシワが刻まれ、迫力満点である。
しかし、切羽詰まっていることは目に見えてわかる。茶化すのも気が引けてしまう。
「なんだ、俺に惚れたか?」
「そんなわけないだろ!とりあえず、お前はどんなことをされたら嬉しいかってきいてるの!」
思った通りからかうと睨みつけられてしまった。これは真面目に答えないと、女王様はへそを曲げてしまうだろう。
「どんなって、彼女にってことか?」
「え。そうだな……ときめく、というか、好きになる、というか…」
「いきなりだな。お前は普通にしててもモテるじゃねえか。」
「好きな奴にモテなきゃ意味がない…」
「遂に春がきたのか!」
まるで自分の事のように喜ぶビクトールに、フリックはたじろいだ。まさかこんな反応を返すとは。予想外である。
「相手は誰だ?言えば力になるぜ??」
「誰が言うかっ!」
「話の流れ的に俺か??」
「しつこい!」
ヘラヘラ笑うビクトールに噛みつくフリックだが、反省する様子はない。からかいではなく本当に祝福してくれるらしい。面倒見がいい彼らしい行動ではある。
「そうだなー。やっぱり尽くしてくれる事に男は弱いものだな。うん。」
「尽くす?」
「手作りで弁当を作ってくれるとか、俺のためにおしゃれをしてくれるとか、な。」
「なるほど。」
真面目な大人の意見に、素直に感謝した。普段は子供たちと戯れるビクトールであるが、こういう時は頼りになる男の顔を見せる。残念ながら恋愛対象ではないが、好感はもてる。
「自分の為に頑張ってくれるのは嫌じゃないもんだ。で、相手は誰だ??」
「だからしつこい!」
しかしビクトールはビクトール。人気のフリックがどのような恋をしているのかが気になって仕方がない。思春期であるし、素直に教えてもらえるわけはないが、興味は止められない。
「いいだろ。減るもんじゃなし。好きな奴くらい教えろよー。」
「うるさい!お前こそ早く好きな奴見つけて結婚しろ!」
「あれ、珍しく恋愛話?」
「ん。フリックに好きな奴ができたんだってさ。」
「へえ!!」
ここまで自然に流してしまったが、ここで違和感に気づくフリック。油を注してないブリキ人形のように振り返ると、城主が笑顔で手を振っているではないか。
「…ナムダ…」
「おめでとう!ケイオス城の名高い姫の心を射止めたのは、どんな王子様かな??」
「それは、その……」
言葉を詰まらせるフリックの言葉を、ナムダは笑顔で待つ。興味本位で集まるギャラリーたちを睨みつけたい衝動に駆られるフリックではあったが、如何せん顔が真っ赤で上げることが出来ない。
「お。そうだ。ナムなら女の子になにをしてもらうと嬉しい?」
「何をって??」
「えーっとな。どんな子を彼女にしたいかだな。可愛いとか色っぽいとか、家事が出来るとか。」
その言葉にフリックが敏感に反応したことを、ビクトールは見逃さなかった。先程の興味本位とは違う、聞き逃すまいという眼力に驚きながら納得した。顔を綻ばせながら真剣に首を捻るナムダに、真剣なフリックと共に緩い視線を向けた。
「僕は……見た目は別に気にしないかな。小さい子は可愛いとは思うけど。」
「ナム。お前何センチだ?」
「百六十…、最近測ってないや。」
自分とナムダを見比べ、心なしか肩を落とすフリックをビクトールは横目で見つめる。
「じゃあ技術は?裁縫とか洗濯とか…」
「料理かな。お菓子が美味い人だと尚嬉しい。」
「料理…」
呟くような言葉にビクトールは微笑みビールを飲み干した。
突然立ち上がったフリックに、その場にいる皆苦笑を浮かべる。しかし一人だけ首を傾げる者がいる。ナムダだ。
「フリック、どこ行くの?」
「…腹が減った。」
「食堂かな?じゃあ僕も行くよ。」
「いや、こなくていい!」
フリックのあまりに必死な形相に笑い出したビクトールは、文字通り鬼の形相で睨まれた。意味が分からないナムダは、唇を尖らせてフリックがいた席に座り込む。もう甘酸っぱい空気はなくなった、と主に女性陣がから笑いを浮かべて喧騒の中に戻っていった。
「料理ならグレミオに教わったらいいんじゃないか?」
「な…!そんなんじゃねえよ!!」
「ナムダは甘党だってさ。」
「か、関係ないだろ!!」
「何の話?」
「こっちの話。」
真っ赤な顔のフリックが厨房へと消え、甘いケーキの匂いが漂ってくるまでそう時間はかからなかった。
素直じゃない子供に、ビクトールは苦笑を浮かべ残り少ない酒を飲み干した。
+END
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あわあわしてるのが書けるのは二十歳前後だけだというね
14.6.12
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[mokuji]
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