こどな
※先天的にょた化
※ティアクラ設定有
「君がナムダ?」
ノキア率いる軍のケイオス城で昼食を終え廊下を歩いていた時の出来事。
後ろから聞こえた声に振り返れば、小柄な少女が一人。気の強そうな目に、生意気そうに上がった口角。一瞬ルックに似ているとも思ったが、違うようだ。
「初めまして。私も有名になったものですね。お名前は?お嬢さん。」
「ふぅん、噂通りつかみ所がないね。ボクはコノン。」
ニヤリと強気に笑い、品定めをするようにナムダを見つめる。こんなに見つめられたら居心地が悪くなる。だが彼女の様子を見ていたら、何かを思い出す気がしてならない。しばらく動けずにいたら、上目遣いで見上げられた。
「彼女はいるのかい?」
ナムダが答えようと口を開いた瞬間、角から青いマントをまとった女性が現れた。
何かを探すかのように周囲を見回しながら、ナムダを見つけたら嬉しそうに近づいてきてコノンに目を留めた。
「ナムダ。コイツは誰だ?」
相手を見て警戒を始めたのは女の勘、というやつであろうか。しばらく睨み合う二人を、ナムダは交互に見つめて手を鳴らした。
「似てるね。」
「は?」
同時に発せられた言葉に、ナムダの笑みは益々深くなる。
「ごめん。フリックちょっと待ってて。」
「あ、おい!」
彼女を待たせて他の女を優先するとは何事か。吠えるフリックに愛用の棍を渡すとコノンへと向き直った。
「コノンさん…だっけ。どこから来たんです?」
「別の世界さ。」
「…電波か。」
「聞こえてるよ。嫉妬は見苦しいね、おばさん?」
「おば…っ!?」
怒りに口の開閉を繰り返すフリック。あざ笑うコノン。間にナムダがいることにより、なんとか均衡を保っているような二人である。相当馬が合わないらしい。
「お前も結構な年齢じゃないのか!?…ああ、見た目通り子どもなのか。」
「殺すよ?」
殺気すら出し始めた二人に、さすがのナムダも焦り体ごと分けはいる。体は押さえ込んでも罵詈雑言と互いに対する敵意は止まらない。そんな女の華々しくも毒々しい空間に近づく猛者がいた。
「何をしてるのです?」
色男と有名な元赤の騎士団長のカミュである。優雅な物腰で物々しい空気を臆せず近寄り、睨み合う二人を交互に見つめる。隙あらばフリックに噛みつこうとするコノンはナムダが押さえ、フリックはカミュが押さえ込む。勿論、迫力のある鋭い眼光がカミュを射抜いた。
「カミュ!邪魔するなって!」
「何があったかは知らないけど、落ち着いた方がいい。ただでさえ目立つのに、皆がこっちを見ているよ。」
検問のようにマイクロトフが人払いをしてはいるが、通りすがりの者たちは、野次馬根性で喧嘩を見ようと集まってきている。
「…いつから?」
「さっきからですが。」
通りすがりの人々の注目を浴びるのは最も。目立つには十分な美男美女の顔ぶれである。フリックとナムダが恋仲であるのはこのケイオス城でも有名。そして彼氏を挟んで彼女と見知らぬ女が口喧嘩。どう見ても痴話喧嘩、の真っ只中である。
その事実に気づき、恥ずかしくなったフリックの顔は真っ赤である。おとなしくなったフリックを挑発するようにコノンはナムダに抱きついた。余程馬が合わないのだろう。
「ナム…なんとか、だったよね。よくみたらカッコイイじゃん。」
「そう?」
甘えるコノンにナムダは抵抗を見せない。それどころか優しく髪を梳いて穏やかな笑みすら浮かべている。
「ね。ボクの方があんなオバサンよりいいだろ?」
誘うように挑発するように流し目がナムダとフリックを捉える。目をそらしたフリックに優越感を感じたのか、嬉々としてナムダの首に抱きつき体をすり寄せる。
「フリックの年は、君とそこまで変わらないと思うけどな。」
「ボクのほうが若いよ!」
「怒らないで。バカにしてるわけじゃあないよ。」
頭を撫で諫めようとするが、強く振り払われてしまった。くだらないことで拗ねてしまったコノンに、ナムダは呆れるどころか微笑を浮かべているではないか。
それがフリックにとって衝撃的だった。
そこまで気に入ったのだろうか。
顔色が悪くなったことに気がついたカミュ。心配そうにフリックに近づき顔を覗き込んだ。
「フリック、大丈夫です?」
「ああ…。」
「ナムダさんの事です?確か二人はお付き合いをしていましたよね?」
「ナムダは困った奴は放っておけないから仕方ないんだよ。」
突っぱねた物言いとは裏腹に、寂しそうな表情を浮かべるフリックに惹かれてしまう。今ならつけいれられる、傷心の彼女を手に入れられる。カミュに悪魔が囁いた。
「見ていたら辛いでしょう。彼が呼びに来るまで、お茶でも――」
「いい。気にかけてくれるのは嬉しいが、ここで待つ。」
腰に伸びていた手と言葉を、静かに払い落とす。魂胆がバレた、と口を尖らせるカミュをバレないように睨みつけると、その鋭い視線のまま彼に纏わりつく泥棒猫を見る。
見た目も胸も、フリックの方が上だろうと自負はしている。だがナムダの気に入りようを見ていたら不安になってくる。
彼は特に女性に対するこだわりを持たない。年齢、容姿、体型など好みを聞いてみたことがあるが掴み所のない、ふわふわした答えが返ってきた。「相手が気にしないなら、何歳差でも」「酷すぎなければ」「女の子らしければいいよ」といった具合だ。
(オレじゃなくてもいいってことかよ)
子どもをあやすように、抱き込み頭を撫でるナムダを見ていて不安になってきた。恋人同士の抱擁、というより親子や兄妹の抱擁には見えるが互いの気持ちまではわからないのだ。
「フリック。やっぱり時間もかかりそうだし、別の場所で待つほうがいいのでは?」
どちらに気を使っているのかは知らないが、マイクロトフの努力虚しくイヤというほど注目を浴びて、あることないことドロドロの恋愛ドラマみたいな囁き声が聞こえてくるのだ。今更移動したところで何なるのだろうか。噂話の火に油を注ぐだけである。
「…ナンパなら余所で、」
「ごめんフリック。お待たせ。」
フリックが望んでいた声は、一緒に天敵を連れてきた。面をあわせて睨み合う二人の間に、素早くナムダが割り込み何事もなかったように微笑む。
「ビッキーにこの子を送ってもらってから、部屋に行くよ。」
不機嫌なカミュを見つけて首を傾げながらも、ナムダはマイペース。しっかりとコノンと手を繋いで踵を返す。真っ直ぐ前を見て歩き出すナムダと、少し振り向いたコノンは赤い舌をだす。再び喧嘩になりそうだったのを慌てて戻ったマイクロトフが止めた。
「喧嘩は終わりか?」
「ああ。」
「仲直りはまだだな?」
「…行ってくる。」
彼女が去った後口説き損ねた、とむくれるカミュにマイクロトフは苦笑する。案外子どもが多い城のようだ。
***
「ただいま。」
頼りなく鏡と睨めっこしてコノンに行き先を聞いて、を繰り返したビッキー。最後は半分ヒステリックに怒りを露わにしていたコノンだが、ビッキーがヤケになってどこかへ飛ばしてしまった。彼女が「間違っちゃった」と舌を出さなかったから、きっと大丈夫だろう。
そう信じてフリックの部屋に行くと、鎧を外しベッドの上で微睡んでいる彼女を見つけた。
「おかえり。」
返事はあるが、少し寝ていたのか元気はない。半分伏せった目を擦る彼女が可愛いと思うのは間違ってはいない。顔を覗き込むように地面に座り込んだ。
「フリック。寂しかった?」
「わざと言ってるだろ。」
「うん。試した。『寂しかった?』」
「…寂しかった。」
ナムダの優しいキスを受け入れ、首に腕を伸ばし、半ばのしかかるように倒れ込んできた。
長く甘いキスの後、潤んだ瞳で見つめ返せば「ごめん」と素直な謝罪が聞こえてきた。
「あのコノンとかいう子、フリックに似てたんだ。」
「…オレ?」
「認められようと、自分を主張しようと足掻いて、それでもうまくいかないと葛藤して誰かに当たって。ね、昔のフリックだろう?」
「オレはそこまで当たり散らさなかったぞ。」
「うっそだー。俺、オデッサのことで相当怒られたよ。」
痛いところをつかれて目をそらせば、優しく頭を撫でられた。まるで子供をあやすように。怒りより、先ほどの言葉からの恥ずかしさが湧き上がる。素直に腕へと顔をうずめると何も言わず抱きしめられた。
「昔のことだろ。忘れろ。」
「忘れたくても忘れられない。だってフリックのことだもの。」
この言葉は計算ずくなのだろうか。いや、これは天然だろう。慈愛に満ちた笑顔を崩さないナムダを睨むが、少し涙目になっているために迫力もなにもあったものじゃない。ナムダは知れず苦笑を漏らした。
「モテる奴は油断できないな…。」
「フリックには負けるけど。」
「嘘。さっきみたいなタラシ文句を誰にでも言うだろ。」
「え、ごめん。無意識だった。」
本当に無意識らしい。真剣な目は本心からのもので、子供らしく慌てる姿は可愛らしく見える。笑われたことにむくれるナムダは、フリックを指差しわざと声を低くした。
「そういうフリックこそ、さっきカミュに口説かれてただろう?」
「オレは本気じゃなかった。」
「フリックは優しいし。懇願されたら、許しちゃうんじゃないの?」
「そこまでガードは緩くないぞ。」
「俺とマイクロトフが見てたからよかったもののさ。二人きりだと思うとゾッとするよ。」
まるで誘拐されそうだった子供のような扱いに、カチンときた。ナムダから体を離し、ベッドのなるべく遠くに座ると背中を向け拗ねてしまった。
「それはお前もだろ。小さい子ばっかり可愛がりやがって。このロリコン。」
「そうだね。小さい子は可愛いよね。」
否定しなかったことに、ショックが隠せない。寂しさで目を伏せるフリックはナムダには見えない。そして満面の笑みを浮かべ忍び寄るナムダはフリックには見えない。
「小さい子は、抱き締めて守ってあげたくなる。でも大きい子は抱きついて求めたくなる。」
先ほどとは違う、求めるようにかき抱かれて全身が粟立った。
「いつ抱いても抱き心地がいいね。」
「胸を揉むな。変態。」
「十分大きいもんね。」
「……このくらいでいいのか。」
「あれ、俺の好みに合わせてくれるの??」
「気が向いたらな。」
「フフッ」
振り返り求めるように強く抱き締められ、互いに見えない顔で笑みを浮かべた。
+END
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なんか似てるなって思っただけのノリだけの文
Uのフリックはすごく変わりましたね
14.5.27
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[mokuji]
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