幻すい | ナノ



*命が終わる前に

「フリック。俺たち別れよっか。」

いつも通りでいつもと違う出来事。
自分の机で本を読んでいたナムダからの突然の言葉に、フリックは手入れ中の愛剣オデッサを取り落とした。
しばらく口を閉口させるだけで、やっと振り絞れた言葉は我ながら情けない声だったと思う。

「な…っ!何でだよ!」

「そろそろ別れ時かなって。」

「意味がわからねえ!」

慌てふためき、冷静さを欠くフリックと違い、ナムダは冷静そのものである。右手を押さえて淡々と述べるナムダに、言い知れぬ不安を覚えた。

「フリックは俺のどこが好きなの?」

「支えてやりたくなるところ。強いところ。それに、優しいところとか…じゃなくて。何で別れ話なのか聞いてるんだ。」

「それは、俺じゃなくてもいいんじゃないかな。」

「…何かあったのか?」

フリックの問いに、少しナムダの眉が下がった。その行動が何かあったことを知らせている。

「何があったんだ?」

「何も。」

「嘘つけ。お前はいつも隠そうとするけど、わかるぞ。」

「だから何もないって。」

「俺にも言えないことか。」

しばしの沈黙と、目での訴え。「聞かないで」と「助けて」二つの声が聞こえてくる。

「…顔も頭もいい色男なのは勿論。面倒見もいいし、何より人が困ったときに手を差し出してあげる優しさ。俺はフリックのそんなところが好きだよ。」

改めて言われれば照れてしまう。散々異性からモテるフリックも例外ではなく、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「お前、よく恥ずかしいことを堂々と言えるな…」

「でも。」

恐ろしいほど冷静な顔で、フリックを振り返り笑う。その時ナムダが泣いているようにも見えた。

「ソウルイーターが疼くんだ。だから限界。」

右手を押さえて苦い顔をするナムダに、かける言葉が見つからない。どうすればいいかもわからなかった。

「俺たち、別れよう?」

懇願に似た言葉に、呆然と立ち尽くすしかなかった。

++++
好きだけど、別れないといけない

14.6.5

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