幻すい | ナノ



歪んだ愛の形

※先天的にょた


「今日は、優しくしてほしい。」

夕食と入浴を済ませてから、風を浴びて部屋で寛ぐのがナムダの日課である。
そこへ扇情的なネグリジェを着て、フリックが現れたら了承のサイン。夜の営みを行い、二人ベッドで甘い時間を過ごすのだが。

「どうしたの?」

目をぱちくりさせながらナムダがフリックを見つめ返す。答えは赤い顔と恥ずかしそうにくねらせた体。腰に手を這わせると、熱い吐息が肌を掠める。

「…やる気がないってことじゃないのか。」

「誰もそんなことは言ってないだろ…」

熱っぽい目でナムダを見つめ、フリックが熱い息を吐く。唇を奪うと、ナムダの笑みが深くなった。

「色っぽい…」

「待てって。」

そのままの流れで押し倒そうとするナムダの顎を、フリックは渾身の力で押し返した。元より鍛えているフリックと、運動が苦手なナムダでは性別ではカバーできない力の差が生まれている。渋々体を引いたナムダを、フリックは真剣に見つめ返す。

「オレの言うことを、聞いてくれるのか?聞いてくれないのか?」

「いや、喜んで聞いてあげるけど。理由がしりたい。」

丸みを帯びた腰を撫でる手は止めないナムダに、咎めないフリック。時折悩ましく腰が揺れるものの、OKサインはまだ出ない。

「いつも優しくしてるつもりなんだけどな。何か至らないところがあった??」

悪気なく首を傾げるナムダに、この事を口にしていいのかどうか悩むところである。しばらく視線をさ迷わせて思案していたフリックだが、覚悟したのだろう。体の力を抜きナムダの漆黒の瞳を見つめ返した。

「言いにくいんだけどな、」

「うん。」

「…いつも痛いんだ。」

視線をさ迷わせ、独り言のように漏れ出た言葉に、ナムダは苦笑を浮かべた。

「だけど、お前も余裕がないみたいだから、言えなかったけど…。」

言われた事に、ショックを受けるわけでもなく、ナムダはフリックを抱きしめる。背中をさすれば、少し涙がきたらしい。鼻をすする音が聞こえる。

「ごめんね。出来るだけ優しくしてたんだけど、やっぱり痛かった?」

「やっぱりってなんだよ、自覚してたのかよ。」

「うん。」

力強く断言され、力が抜けた。
でも下手に誤魔化されるよりは清々しい。ナムダらしい答えに、フリックは気が抜けた。自然と浮かんだ笑みに、ナムダも優しく笑う。

「優しくしてないってことは、優しく出来るってことだな。」

「そうなるね。」

「お前のことだろう?」

「そうだけど、出来るかな。」

しかし変に曖昧な言葉が返ってきた。煮え切らない態度が、やはり気に入らない。胸倉をつかみかからんと前のめりになった所で、ナムダは身を翻して距離を置いた。相変わらず行動は早い。

「なんでも言うことを聞いてくれるんじゃなかったのかよ。」

「これにはふかーいワケがあってね…」

「何が深いわけだ。」

詰め寄るフリックは、獲物を狙う狩人の目である。いつの間にか壁にまで追い詰められ、ナムダは降参だと手を上げた。

「ごめんごめん!降参だって!」

「ならその深いわけとやらを言え。」

「でもなぁ…言いにくいしなー。」

「降参だろ。捕虜は言うことを聞け。」

「…怒らない?」

「聞いてみないとわからないな。」

そんなに咎められるような内容なのだろうか。なかなか口を開こうとしない。

「何を言っても怒らない。Sでオレの苦痛の表情で感じてると言われてもな。」

「そんなんじゃなくてさ、怖いんだ。」

「オレが?」

「違う違う。」

ナムダの顔に笑いが浮かび、緊迫した空気が和らいだ。やっと口を開いたと思えば、フリックの頬に触れる手。優しく健康的な肌をなぞると寂しげに微笑んだ。

「怖いんだ。愛してしまえば、ソウルイーターがフリックの命を食らってしまいそうで。」

右手をいつも覆う手袋に、フリックはうなだれた。
魂喰らいのソウルイーター。
呪われた紋章故に、持ち主の幸せまで喰らう紋章がナムダの最大の枷。愛する家族を失った故に、愛に敏感な彼を好きになったのは必然。互いに愛に飢えていたんだと思う。気の置ける仲間だったから、甘えていたんだと思う。
思っていた以上に重い言葉に、罪悪感が湧き上がる。

「こういう話をすれば、ビクトールやノアが怒るからさ。」

あくまでナムダは軽く答える。その軽さが逆にフリックの心にのしかかる。

「ごめん、」

「気にしてないよ。」

「その紋章、取れないんだよな。」

「俺が継承者に選ばれてしまったから。」

誰に対してかはわからない。諭すようにフリックの髪を梳き微笑む。

「…俺なりの紋章に抵抗なんだ。本当はちゃんと優しく愛撫してあげられるよ。」

啄むようなキスを繰り返し、胸を優しく揉み込む。下着をつけていない身体は敏感に反応を示し、熱い吐息を出す。

「じゃあお願いだ。」

身体を性的に弄る手に拒否は見せずに、フリックは目元を赤く染める。上目遣いでナムダを見上げれば、優しい笑顔で首を傾げるナムダが見える。

「子どもが欲しく、なったんだ…。だから、今日だけでも、優しく触ってほしい。」

慈しむように自らのお腹を触るフリックに、ナムダは少し視線を逸らした。
考えていることはわかる。

『自分の子どもにも、この紋章の呪いを継がせることにならないだろうか。』

真の紋章を守り受け継ぐことは、誰かがやらなければいけないことである。それがたまたまナムダ・マクドールに回ってきただけなのだが、ナムダはこれが自分の産まれてきた意味のように背負い込む。前任者のテッドも気負っている節があったようだが、吹っ切れていたように見えた。
受け継いだ者は、責められる謂われはないだろうに。

「お前との子どもが欲しいんだ。他の男に抱かれるつもりはない。」

逸らされた頬を包み込み、自分を見てほしいと懇願する。しかし頑なに逸らされた視線。フリックの眉も下がる。

「他でもなくお前に『愛してほしい』って言ってるのはオレだ。ナムが気に病む必要はないから。」

ナムダの手を取り、今はまだ平らな腹の上に乗せると困ったように伏せられた目が見える。
諦めたのはフリックだった。

「…痛みしかお前の愛がないなら、それでもいい。喜んで受け止めてやるから。」

「ごめんね。」

合わさった額は、勢いがあったせいか少し痛かった。

+END

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ナムダとセックスするとマゾになるよってお話。

14.5.21歪んだ愛の形

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