幻すい | ナノ



幸か不幸かU

※前の続き、去勢注意
※ビク→フリ


捕虜となり、捕まっていたフリックが戻ってから二週間が経った。
皆が口々に彼の無事を案じ、祝福して迎え入れてくれた。彼に恋心を抱くニナに至っては、安否がわからない間ずっと門で座り込み泣きじゃくっていた。愛しの王子様が帰還してなお、抱きついて安堵で涙した。

そして、いつも通りの風景が戻る、わけではなかった。
戦況以外何かが変わった、というわけではない。でもいつも通りでもない。ただ、何か違和感があるのは城の皆も自覚している。

一つは、オーラ。
まるで恋人のオデッサがいた時のように、柔らかく寂しそうな表情を浮かべる事が多くなった。しかもそれが女性だけでもなく、男性までもがハッとする表情だったりするので質が悪い。元々男色の気があったとか、大きな声では言えないが捕虜になりながら仕込まれた、や様々な噂が飛び回る原因となってしまった。

一つは、仕草。
まるで恥じらう思春期の乙女のように、同僚に触れられる事を拒み始めた。元々特に女性と触れ合う事を嫌っている節があったが、更に浮き彫りになった。自ら接触しそうになると、申し訳無さそうに顔と手を離すのだ。それすらも、魅力になり皆を惹きつけるのだ。

そして、一つは、入浴。

「フリックさん、今日は一緒に入りましょうよ。」

「すまない、ゆっくり静かに入りたいんだ。」

「うるさいのが嫌でしたら、おとなしくしますし!」

「すまない、一人がいいんだ…」

フリックは"あの日"以来、人と入浴を共にする事を拒み続けた。腐れ縁が誘おうと、子供たちが言おうとも、軍主がせがもうとも頑なに拒み続けている。
なかなか首を縦に振らないフリックに、ノキアも困り顔である。しかしきまってフリックも申し訳無さそうな表情をするので、責めることも出来ない。お手上げである。

最後の一つ、定期的な夜中の外出。

「お前、どこ行くんだよ」

「どこでもいいだろ。」

「いいわけないだろ。こんなに遅くに、月見なら城の屋上でいつもやってるじゃねえか。」

フリックは食事が終わる頃、城から姿を消す事がある。まだ日は浅いため定期的かはわからないが、タイミングはいつも同じ。偶然見つけたビクトールが見張ってはいたが、深夜になっても帰らないところを見て日に日に気が気でなくなってきてしまった。
腕を掴んでまで止めようとするビクトールに、フリックは忌々しいと舌打ちをしつつ乱暴に振り払う。

「てめえは俺のなんなんだよ!余計な事で口出しすんな!」

「相棒の心配してわりいかよ!またお前になにかあったら困るだろうが!もうガキじゃねえならわきまえろ!!」

「…っ!関係ねえだろ!!」

聞く耳を持たないとはこの事だ。腕を振り払い駆けていく背中を見つめながら、ビクトールは決意した。


**


城よりそう遠くない、南下した山岳の近く。ふとフリックが足を止めて周囲を見回し始めた。
モンスターも寝静まった森に、風と木々の音だけが響く。不自然な音が聞こえて構えた瞬間だった。

「わっ」

「うわぁ!」

木から逆吊りになったナムダが現れたのだ。珍しく素っ頓狂な悲鳴を上げて尻餅をついたフリックを、着地をしたナムダが悪気もなく指をさして笑い始めた。

「びっくりした…ナム、ここにいたのか。」

「あはは、笑わせてもらったよ。元気そうだね。」

「お前こそ、ここにいてくれて、元気そうでよかった。」

徐々に近づくフリックの唇。キスをせがもうとしたらしい、彼の行動はひらりとかわされてしまう。顰めっ面を隠さずにいれば、ナムダに額を小突かれて押さえ込んだ。

「イテッ」

「せっかちだなあ。入浴後の方がいいんじゃない?」

仄かに赤くなったフリックの背中を押し、ナムダは器用にマントを取り去った。驚きながらも何も言わないフリックに笑みを浮かべる。

「俺が寒いから、マントは借りるよ。」

「一緒に入らないのか?」

「俺はもう入ったからね。」

「そうか。」

「なーに残念そうな顔をしているのさ。俺までいったら見張りの意味がないだろう?」

また抱きかかえられながらも胸の装甲を外され、ベルトを抜き取られる前に慌てて自分で脱衣を開始した。「それでよろしい」と笑うナムダの前で下着を脱ぐ事を躊躇っていたが、自棄になりながら取り払った。男らしい行動ではあったが、慌てて股間を隠すとへたり込みながらナムダに喚く姿はなんとも情けない。

「俺が持ってきたタオルは!」

「俺の後ろ。」

「取ってくれよ!」

「やーだ。自分で取りなよ、近いんだから。」

「怒るぞ。」

意地悪を貫き通すナムダに、フリックもむくれ始める。昔を知っているからこそ、遠慮がなくはしゃぐ姿は微笑ましくある。

「じゃあ俺はこのまま帰ろうかな。」

踵を返すナムダに、フリックは酷く動揺した。慌てて手を伸ばすが隠す手が疎かになる事も恐れて無駄な足掻きで終わる。感情が爆発し、上擦った声でナムダを呼び止めた。

「それだけは、イヤだ、頼むから、」

さすがのナムダも罪悪感を感じた。参った、と頭をかきながらタオルを乱暴に掴むとフリックの無骨な手の上から被せる。そのまま細い腕で戦士であるフリックの体を易々と抱き上げた。

「近くで見張ってるからゆっくりしなよ。」

湯の湧く場所まで案内すると、ナムダは背を向けて元来た場所へと引き返し、近くの茂みに石を投げる。そして誰かに話しかけるよう、口を開いた。

「何してるの?ビクトール。」

石は、鈍い音をたてて茂みをきった。渋々現れたのは頭をさするビクトール。特に驚く様子もなければ、詰問するわけでもない。近くに適度な岩を見つけると、ナムダはひょいと腰を下ろしてからビクトールを見下ろす。

「いつも会ってるのか?」

「フリックが来たらね。」

話をしながらもどこか別の場所を見つめるナムダに、ビクトールは気に入らないと睨みつける。
それすら無視しているのか本当に気がつかないのか、ナムダは綺麗にかわして口を開いた。

「ここまでつけてきたんだよね?」

「ああ。」

「もしかして、フリックの事が『好き』だった?」

「そんなんじゃねえよ。ただ『相棒』として気に入らないだけだ。」

『好き』という言葉には語弊があるだろう。確かに変わった感情は芽生えてはいるが、恋愛感情ではない、そう自覚はしている。
ただ気になる、それだけだと。
その心を見透かすかのように、ナムダは笑った。笑って呟いた。

「人には知られたくないこともあるのさ。」

「お前は何を知ってるんだよ。」

「全部、かな。でもまだ知らないこともあるかもしれない。」

焦らすような挑発するような物言いにビクトールの眉間にしわが寄る。クスクスと笑うナムダにビクトールが吠えた。

「お前のせいでアイツがおかしくなったんじゃねえのか!」

「言いがかりだよ。俺は逆に助けた側さ。」

「どうだか。お前は昔から嘘が得意だっただろ。」

「ナムダ。呼んでるだろ、返事くらいしろよ。」

二人で口論になっていた為に気づかなかった。近くまでフリックがきていたことに。素早く反応したのは、フリックとビクトール。互いの存在を確認すると、そのまま硬直してしまった。
先に動いたのはフリック。慌ててタオルを体に巻きつけた。

「ビクトール…お前、なんでここに。」

「し、心配だからに決まってるだろ。」

咄嗟なのか女のように胸までタオルで隠すフリックの仕草に、反射的に顔を逸らしてしまった。

「だからほっとけって言っただろうが。」

「そうはいくかよ。相棒が悩んでたら心配だろうが。」

肩を掴もうとビクトールが一歩踏み出すと、一歩下がるフリック。露骨に避けられてはいい気はしない。意地になって距離をつめるビクトールだったが、フリックがナムダの背に隠れてしまった。

「心配かけたのは謝る。だけど俺に関わらないでくれ。」

ナムダにすがりつく腕が見える度に怒りがこみ上げてくるのは何故だろうか。
しかし当たるのも大人気ない、と拳を握りしめたビクトールを知ってか知らずかフリックは更にナムダの影へと身を潜めてしまった。

「俺に相談すりゃいいのによ。一々コイツじゃなくとも。」

「ナムダ以外の奴に、教える気はない。」

その言葉にビクトールは雷で撃たれたような錯覚に陥った。いままでフリックとはうまくやってきた。最初はいがみ合いもしたが、『相棒』としてうまくやってきた自覚もある。なのに、何故今になって突き放したのか。その理由がわからない。

「何でだよ!」

「それは…」

「それは、こういうことだよ。」

ナムダの乱入と同時に、フリックの顎を掴み唇が荒々しく重なった。拒絶し抵抗するかと思ったが、フリックは何も言わず動かず、ただただキスを甘んじて受け止めていた。
それがビクトールに更なる衝撃を与えた。

「俺たち、こういう関係だから。」

うっとりとしていたフリックが我に返り、赤くなりながらナムダに非難の声を上げる

「ひ、人がいるのに何しやがる!」

「いいじゃん。よさそうだったし。」

「うるさい!!」

どう聞いても『痴話喧嘩』である。
和気藹々と言い合う二人の姿をこれ以上見つめていられる自信がなかった。ビクトールは苦虫を噛み潰したような顔をしながら背を向けた。

「…先に戻る。」

「ああ…?わかった。」

いきなり急変した態度に首を傾げるフリックであったが、静止の声はかけない。それがまたビクトールの神経を逆撫でる。

「くそっ!」

ナムダの方がいいのだろうか。長年付き合ってきた、相棒である自分より。
その思いに縛られ、怒りが湧き上がる。
アイツは俺のだ。俺だけのものだ。誰に渡さない。黒く汚れた感情に支配されるのがわかった。
この感情の正体は知らない。


+END

++++
続く、かな…
強姦になりそう

17.1.2

[ 51/59 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -