タバコの味は君で学んだB



僅かに開いたカーテンの隙間から溢れる光が鬱陶しくて目が覚めた。雲ひとつない晴天。洗濯物もすぐ乾きそうだ、と考えながら気付く。自分の部屋じゃないということ。つっても此処はなまえの家だ。ダブルベッドに家主は居ない。
つーか俺昨日どうしてた?クソ髪たちと飲んでいた記憶はあるがそのあとの記憶がほぼ無い。記憶を飛ばすのは初めてだった。変なことしでかさなくてよかった、と安堵のため息をつく。本当はそのやべえことをしでかしていたと、もう少し後に知ることになるわけだが。

「勝己くんってたばこ吸うんだね」

寝室のドアを開けたなまえが開口一番そう告げた。エプロンを着けたままなところを見ると朝飯を作ってた、てとこか。寝起きで覚醒しない頭ではその言葉の意味をあまり理解できずに「ん、」と頷くだけになる。
再会してからはこうしてお互いの部屋で朝を迎えることが多くなった。一緒に住んでもいいが、お互い職場の距離もあるし、俺の住んでいる賃貸のマンションももうすぐ契約更新する時期になるので、同棲はマダだった。もう離れる心配はねえから、焦らなくていい。ゆっくりこの空いた五年間の隙間を埋めていきたい。

「昨日キスした時タバコの味がしてビックリしちゃった」
「……は?誰と」
「勝己くんしか居ないでしょ」

頭にハテナが浮かんだ。俺は飲み会の席でしかタバコを吸わない。依存もしてねえし、だけど酒を飲むとなんでか吸いたくなるから。数本しょうゆ顔から貰うだけだった。金で返してはいるが。つーわけで基本的には俺の手元にはタバコはない。

「来たんか、昨日」
「覚えてないの?」
「潰された」
「切島くんもそう言ってた」

クソが、あいつらに会わせるつもりなんてマジでなかったっつーのに。特にアホ面はこういう女が好きな筈だ。癪だが。

「なんもされてねえだろうな」
「うん。…あ、でも、昨日上鳴くんに口説かれそうになっちゃった」
「ハァ?」
「相当酔ってたみたい、上鳴くんも」

酔ってたとか酔ってねえとか関係ねえんだよ。俺の前で俺の女を口説こうとしたなんて許さねえ。まあ、俺の前じゃなかったらもっと許さねえが、とりあえず、今度会ったらぶっ殺してやる。





「アホ面ァ……!」
「ひっなにかっちゃん怖い」

後日、現場が被ったアホ面。敵をぶっ殺した後にこいつをぶっ殺してやろうと近づけば、「まあまあ」と何処からかやってきたクソ髪に宥められた。クソが!

「テメェ俺の女に口説いたらしいなァ?」
「なんの話…!?」
「この前の飲み会。知らねえとは言わせねえぞ、あんなツラの良い女を忘れられるわけねえだろうが、なァ」
「えっ、惚気?」
「ちっげーわぶっ殺すぞ」
「物騒」
「今すぐ記憶から消せ、二度と思い出すんじゃねえ」
「…あ、もしかしてあの綺麗なお姉さん?が爆豪の彼女なん?」
「そう言ってんだろうが」
「嘘だ〜!お前こんなんなのにあんな綺麗な人と付き合えるとか前世でどんな徳を積んでたんだよ!?」
「知るか」

ウッゼェ。半泣きでくっつくアホ面を叩き落とせば周りの連中が「爆心地とチャージズマまたやってるよ」と笑っていた。笑ってんじゃねェ。
絶対会わせねえと思ってはいたけど、こうして周りの連中がなまえを知って認めてくれんのは悪い気がしねえな、と思う。まあ、だからといってそう何度も会わせねえが。

「つーかさすがにかっちゃんの彼女って分かってたら手出さないって」
「テメェは信用ならねえ」
「あんなべろちゅーしてるとこ見せつけられたら手出す気もおきないっしょ」
「…は?」
「覚えてねぇの?」

そこそこに酔ったって今まで記憶はあったし、記憶がとんでたとしても俺は人前でキスなんかしねえ、はず。
タバコの味がしたっつーのは店内でキスしたからか。思い出しかけて、頭を抱えることになった。




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