タバコの味は君で学んだA




一人、部屋でだらけていればポケットに入れたままの携帯が震えた。勝己くんからの着信。あれ、今日は飲み会って言ってなかったっけ、と、不思議に思いながらも電話に出る。

「もしもし?勝己くん?」
「ーーあ、なまえさん、ですか?」
「はいそうですが…?」

どこかで聞いた声。一瞬考えたが、直ぐに分かった。切島くんの声だ。当時アニメを見ていたからなんとなく覚えていた。

「今爆豪と飲んでたんですけど潰れちゃって…もしよければ迎えに来て貰えませんか?」

珍しい。再会してから何回か二人で飲みに行ったことはあったけれどいつもちゃんとセーブしていて、勝己くんが酔っているところは一度も見たことがなかった。というかわたしがいつも先に潰れちゃうから、飲まないようにしてくれてるのかもしれないけれど。
電話でお店の場所を聞きながら上着を羽織って家を出る。化粧を落とす前でよかった。



「初めまして、みょうじなまえです」
「は、はじめまして!切島です!」
「瀬呂です、なんかすみませんわざわざ」

どうやら切島くんと瀬呂くんはまだそんなに酔っていないらしい。視界の端に机に突っ伏した爆豪くんと上鳴くんが見える。

「皆さんと飲む時いつもこんなですか?」
「いや、ここまでは初めてです、今日は無理矢理飲ませちまったんで」
「そっかあ」
「爆豪、彼女さんのこと話さないから気になってて」

まあ、そうだよね。爆豪くんの彼女がどんな女かなんて確かにみんな気になるか。期待に添えてなかったら申し訳ないし、オバサンだって思われてないかな、と、ふたつの視線が気になって俯いた。

「あれえー、めっちゃタイプの人いるんですけど」

突っ伏していた上鳴くんが目を覚ましたようで、わたしの服の裾をくん、と引っ張った。イケメンに、少し潤んだ瞳で上目遣いなんかされてしまえばキュンと来ない人なんていないはず。これは仕方ない。事故だ。

「おねーさん、どうしたの?迷子?」
「おい上鳴やめろって」

慌てて切島くんが止めようとするも上鳴くんの勢いはむしろ収まらず「この前振られたの引きずってんだから声くらい掛けさせてくれてもよくねー?」なんて反論していた。振られちゃったんだ。上鳴くん、女の子が好きなだけで顔も中身もかっこいいと思うんだけどな。

「こいつァ俺んだわ、」

不意に。聞き慣れた声がして。ぐいっと首元を後ろから掴まれたかと思えば、食べられるみたいに唇が塞がれる。…ちょっと!?
慌てて離れようにもプロヒーローの力には適わずろくな抵抗もできない。更には空いた隙間から舌が入ってきて、体の力が抜けてしまった。

「んっ…んん、ぅ」
「…はぁっ、なまえ、」

普通さあ、人前でディープキスなんてしますか。驚いたまま固まる三人の目の前で好き勝手暴れる勝己くんの舌。熱の籠った赤い瞳に見下ろされれば、アルコールの匂いと相まってわたしまで酔いそうになる。それに、いつもはしない苦いタバコの味まで。

「なまえ、かわいーな」

どのくらい経っただろうか。にんまりと満足気な表情をした勝己くんがわたしを解放した頃には、すっかり腰が抜けてしまった。
いや、待って、これは恥ずかしすぎる。
財布から急いで1万円札を出して一番近くにいた切島くんに渡す。また眠りに着こうとする勝己くんを無理矢理背負ったわたしは「じゃ、じゃあまた!ありがとうございました!」とろくに三人の顔も見れずにばたばたと退散することになった。



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