ホワイトアウト



繁忙期も終わり今年の業務を終えて、年末年始の長期休暇に入った。今年は実家には帰らない旨を伝えて、勝己くんとゆっくり過ごしている。ありがたいことに普段から掃除をしっかりしてくれているから大掃除はそんなに大変ではなかった。大晦日はこたつでみかんを食べながらゆっくり過ごした。毎年恒例の音楽番組やバラエティ番組はは向こうの世界でも同じらしい。いったい時系列どうなってるんだ。初詣は0時ぴったりに毎年同じ場所に行くのが習慣になっていたから、あまり乗り気ではなさそうな勝己くんにお願いをして一緒に来てもらった。10から始まったカウントダウンが0になると、「ハッピーニューイヤー!」「あけおめ!」「今年もよろしくー!」と色んな人達が笑ってお祝いをしている。手袋を片方ずつ着けて、ポケットの中で繋がれている手袋をつけていないほうの手がぎゅうっと強く握られた。

「勝己くん、あけましておめでとう」
「オウ」
「今年もよろしくね」

目が合う。少しだけ照れくさそうに頬をかいた勝己くんが小さく笑みをこぼす。

「…ンなのこっちの台詞だわ」

こんなに幸せでいいんだろうか。好きだって、両思いだって分かってからはとくに、幸せすぎて怖くなる。

「春はお花見がしたいなあ」
「気が早えな」
「一緒に行こうね。いいでしょ?」
「…あんたが行きてえなら行く」
「へへ、うれしいな」

上機嫌でぶらぶらと繋いだ手を揺らしながら歩いても、勝己くんは文句を言うことも、振りほどくこともしない。いつものように赤い目を細めて、少しだけ口角を上げて、わたしを見つめている。恥ずかしくっていまだにいちいち挙動不審になるわたしを許してほしい。

「夏は」
「夏は海とプールと花火大会!」
「海とプールは無理」
「なんでよ、行きたいのに」
「水着きんだろうが」
「着るねぇ」
「モブに見せんなよ」
「勝己くんに見せたいのに?わたしの水着見たくない?」
「…………絶対離れねえなら許す」
「秋は美味しい物食べて紅葉も見に行こうね」
「登山もしてえな」
「いいね」
「そんなキツくない山ならいけんだろ」
「一緒に行っていいの?」
「いじけんだろ」
「いじけないし!」
「言ってら」

参拝するための長い列もずっと楽しい。だって勝己くんはよく笑うのだ。話も振ってくれるしちゃんと会話をしてくれる。アニメの中で見たことない表情だってたくさん見てきた。それもわたしにだけだったらいいのに。これからもずっと他の人にそんな表情を向けないで欲しい。知らない女の子と手を繋ぐ勝己くんを想像して胸がひどく傷んだ。…自分が嫌になる。いつか離れることを考えて苦しくなるのも、こんな醜い気持ちになることも。

「なに考えてんだ」
「…ごめん、なんでもない」
「余計な事考えんなよ」
「うん」
「心配せんでも俺は傍に居んだろ」
「うん、そうだよね、ありがとうね」

きっと彼には考えていることがバレバレなのだろう。いつも欲しい言葉で安心させてくれる。神様になにをお願いしようか。話しているうちに順番は近くなってきていた。考えていると、横から「自分の力で叶えられることはカミサマに頼むなよ」と口出しされる。自分で叶えられることって一体なんだろうか。
そういえば原作って今どうなっているんだろう。そんなこと少しだって気にしたことがなかったのに突然気になってしまい、勝己くんにばれないようにそっとスマホで検索する。軽い気持ちだった。トップに【僕のヒーローアカデミア長期休載】という記事が見えて、心臓がどくんと音を立てた。記事をタップする指もスマホを持つ手も震えてしまった。

「……おい」
「あっごめん、なんでも」

勝己くんに見られそうになって慌ててコートのポケットにスマホをしまう。マフラーを口元まで覆って表情を隠した。記事はよく見れなかったけど、漫画の中は時が止まっているんだと思った。もしこのまま帰れなかったら、勝己くんはこっちで歳をとれないのだろう。原作の話が進まないんだから多分この解釈で合っているはずだ。残酷だと思った。ずっと一緒に居たいのに、わたしばかりが年齢を重ねて、勝己くんはずっと高校一年生のままだなんて。
順番が回ってくる。横で手を合わせる勝己くんはなにをお願いしているのだろう。倣って目を瞑る。自分の力で叶えられないことってなんだろうって考えてみたけれど、答えは、勝己くんが元の世界に戻って幸せになれすように、だ。わたしでは、この世界では、勝己くんを幸せにすることはできないのだから。

「…わ、雪」

わたしの考えを遮るかのように、ふわりと空から降ってくる白い雪。体温の高い勝己くんに引き寄せられるかのように腕にしがみついた。「フードの裏ってあったかいんだよ」と背伸びして勝己くんのフードの裏で暖をとっていたら同じことをされて、向かい合ってくっつく姿は巷で言うバカップルのようで少し笑えた。顔を見上げてみれば勝己くんの高い鼻のてっぺんが赤くなっていて、可愛くて頬がゆるむ。

「にしてもさみいな」
「そろそろ帰ろっか」
「もういいんか」
「うん。お家であったまろ」
「ん」

勝己くんはわたしの生活リズムに合わせてないから気にするなと言うけれど、こうやっていつもは寝ている時間に初詣に付き合ってくれたり、残業が遅い日も夜ご飯を待っていてくれたりするから合わせてくれているんだと思う。どうせ聞いたって答えてくれないから、勝手にそう思っておくことにする。眠そうな勝己くんと手を繋いで家に向かってゆっくり歩く。そういえば、勝己くんと付き合ってから新しく買った布団セットはもう片付けた。使った期間は短かったけれどお客さん用にでもすればいい。今日も抱きしめ合って一緒に寝ようね。もうわたし勝己くんの隣じゃないとよく眠れない気がするんだ。

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