夕暮れの木



夕暮れ時の空はオレンジ色で、暖かい色だ。その色は思いを寄せている彼のユニフォームの色と似ていた。だからこの時間帯になると彼を思い出す。

「何をしているのだよ。帰るのだよ」
そう言って、私の手を引く彼。そんな彼に私は抵抗をせずに歩く。今日は高尾君が居ないんだねとか、ラッキーアイテムはウサギのぬいぐるみなんだ、可愛いね、とかそんな話をせずに私と彼はスタスタと歩く。
でも、そんな時が温かかった。

「そう言えば最近、楽器の音が聞こえるのだよ」
「あー、もうすぐ野球部の試合だからねー」
「そうなのか」
まぁ、音は悪くなかったのだよと照れ隠しの褒め言葉をもらった。私はありがとう、と言った。それきり、家の前まで彼の口は開かなかった。

「着いたのだよ」
「あ、本当だ」
いつの間にかつながれている手。それを離すのが名残惜しかった。

「どうしたのだよ」
「え、いや…何でもないよ」
私は彼からゆっくりと手を離す。

「今日の彩花は可笑しいのだよ。静かだし…」
「そ、そんなこと…ないのだよ?」
「馬鹿にするな」
「ゴメンゴメンって」
謝る気などなさそうなのだよ、という指摘に私はドキリとしたが笑顔を保った。でもそんな安い笑顔では彼を満足させることは出来なかったようで、反対に心配をかけさせるハメになってしまった。

「彩花、こっちを向くのだよ」
「え?」
大男に両肩を掴まれて、身動きが取れなくなった。それをいい事に、彼は語り出した。

「俺の生活は1にバスケなのだよ。だから、彩花が悲しんでいるだなんて思ってもいなかった。それでも好きなのだよ…お、俺は」
「私も真太郎のこと好きだよ」
「嬉しいことを言ってくれるな」
「そったこそ」
真太郎は私の身長に合わせてかがんだ。そして、そのまま、キスをしてくれた。久しぶりだった。この時が一生続けばいいのにと私は思った。

「じゃぁ、明日な」
「うん…バイバイ」
そういう顔をするな、と言いながら私の肩から手を離す。どんな顔をしていたのか私には検討もつかなかった。

「明日も…一緒に帰るのだよ」
そしたらそんな顔をせずに済むだろう? と微笑んでくれた。私はこくりと頷いた。ふん、それでいいのだよ、とツンデレに戻った。
だけど、そんな彼が私は好きだ。

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