戸惑う君と

「彩花先輩、俺前髪伸ばした方が良いっすかね?」
「小川君はそのままで良いと思うよ? 球児って感じがする」
「そーっすよね!!」
このままが一番! と小川君は言いながらブルペンへ行った。私はボール磨きをしようとその場から離れようとしたが、彩花、と呼ばれたため私は止まった。

「伸一郎! 監督との話終わったの?」
「常と何話してたんだよ」
眉間にシワを寄せて言う伸一郎。最近、監督と練習の打ち合わせをしているため小川君と喋っていたのだ。

「髪の毛の話だよ」
「髪の毛だぁ?」
「うん」
そうかよ、と言って伸一郎はキャッチャーミットを手に取った。なんか不機嫌? と、聞くと、別に、と素っ気ない返答がかえってくる。

「……私、ずっと寂しかったんだよ? ほら、伸一郎、キャプテンになっちゃったじゃん? あんまり話せなくなっちゃったし。だから、小川君と伸一郎の話したり、髪の毛の話したりしてたの」
「わり、寂し想いさせちまって……」
「い、良いの! こんなの分かり切ったうえで、伸一郎と付き合ってるんだし!」
「おう……」
伸一郎はそう言って、ガチャガチャとキャッチャーの防具を着けていった。私は手伝おうかと思ったがその時にはもう、できていたので私は座って見ている事しかできなかった。

「今日はいつ頃帰る予定なんだよ」
伸一郎はそっぽを向いて言う。私は、いつもと同じ時間を言うと、そうか、と言われた。

「ますぅ、宮本に言いたいことあるんだろ―」
その声に私と伸一郎は反応した。周りにはレスリングでもしてそうな体が結構あった。
「うっせ! お前ら早く練習行け!」
へいへーいと伸一郎の言葉を聞いて皆は散る。ブルペンからアン○ンマン体操の歌が聞こえてきた。小川君だ。早く行って来なよ、と言おうとした。

「……これからも宜しくな」
ボソリと声を出して、駆けて行った伸一郎。遅いッスよ、という小川君の声が聞こえてきた。待ちくたびれて来てしまったようだ。私はハッと顔をあげた。一瞬時間が止まったような気がした。
「こちらこそ宜しく」
私は嬉しい気持ちを押さえて、呟いた。
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