他校からの使者

偵察。それは、私の仕事である。
自分のノートを持って、敵の高校、薬師高校へと向かう。
校舎に入れば、極々普通の学校であった。
そして、普通にグラウンドへと着いた。
周りには、他校の高校生が結構居た。練習試合があるからだろうか。
いつも通り、ノートを開いてペンを走らせる。

「カハハ! お前、青道の奴か?」
ノートに背番号と名前、そして打順を書いていると後ろから呼ばれた。
青道の奴、私の事だろう。私は、はい? と後ろを向く。
そこには、4番でサード、轟君が居た。

「おぉ! お、おぉ……。
 きょ、今日は……居ない……のか?」
轟君は恥ずかしそうに言う。さっきまでの気迫はどこに言ったんだ。
私は、居ないよ、皆お留守番、と言う。

「そ、そっか……」
ショボーンとしている轟君。
可愛いなーなんて思っていると、あ! 居た居た、なんていう声が聞こえた。
そして同時に、御幸を見た女子たちの歓声と同じ声が聞えた。
薬師でこんなことになる人物は……。

「ん? お客?」
薬師高校、エース、真田君。二年生だ。

「こんにちは」
「ん? あ、青道の……マネージャーさんがどうしてここに?」
「ちょっと偵察に」
私が笑いながら言うと、そーッスか、と笑う真田君。
いやぁー、御幸みたいに悪い笑みじゃないから気楽だなー。

「んで、学校にはいつ帰るんですか?」
「んー、この試合が終わったら帰ろうと思います」
同級生だが、気を抜かずに敬語で話を続ける。
今回は、真田君と轟君は出無いようだ。クソ、来た意味がなかった。
まぁ、でも、三島君のデータとれたし良いか。

「俺のデータは取らなくて良いスか?」
「私の所の正捕手がなんとかしてくれますよ」
「ハハッ、ゲキアツ」
私と真田君が喋っていると、真ん中に立っている轟君がオロオロし始めた。
やっぱ、この時真ん中に居るのって嫌だよね……。なんて思っていると、
私の手を握った。
私がへ? と、戸惑っていると

「サナーダ先輩をこれ以上好きにさせないでください!!」
「え?」
私がそう言うと、真田君がおい、と轟君を掴んですんません、と申し訳なさそうに言う。
轟君が、だって……と、何か言いかけた時真田君が轟君の口を押さえる。

「……また、来てください。
 今度は投げさせてもらうんで」
「あ、はい! お願いします」
私が言うと、じゃあ、と真田君は言ってグラウンドに戻った。
ノートを開いて、真田君の文字を書き込む。
……私は青道高校野球部なんだ。
心にそう言い聞かせて、私は歩き出した。


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