理想と現実の分厚い壁

彼氏。
そう呼べる異性が、私にいる。
そう、居ることには居るのだ。
けれども……本当に、私の彼氏なのでしょうか。


*


「宮本、タオルくれるか。」

「あ、はい。どうぞ、原田先輩。」
私は極々、いつも通りマネージャーの仕事をこなしています。
そう、いつもと同じ……。


「……あぁー、のど乾いたなー。
 ドリンク一つ、ほしいなー」
後ろから、ズカズカと歩いてきて言った男が居た。
この人物が、そう、私の……彼氏。だと思われる人。

え? 何で『思う』のかって?
それは……。

「は・や・くっ!!」
カノジョの扱いじゃないでしょう、これ。

彼女ならさ、もう少し気使うよね!?
なのに、なんだこれ。


「はい、はい、分かりましたよー」
私はそう言いながら、鳴にドリンクを渡す。

「そういえば今日、結構暑くなるんだって。」
鳴がドリンクをチューーっと飲みながら言った。
私は、「うん、らしいね」と言った。


「だからさ……。
 少し、休みなよ。倒れるよ?」鳴はそう言いながら、自分の隣にトンと手を置いた。


「駄目だよ、仕事あるし」

「……倒れられたら困るよ。
 俺の彼女なんだから。」
鳴は心配そうに言った。
その顔はというと……可愛かった。


「……私、鳴の彼女?」
私は、涙ぐんで言った。

「は? 何言っちゃってんの?
 ……俺の彼女は、『彩花』でしょ。」
鳴は、そう言いながらニッと笑った。


「……私の彼氏は、鳴だよ?」

「当たり前じゃん。」
鳴はそういうと、私の頭を軽く撫でて
ブルペンに行った。



全身が熱くなった瞬間。


(よし、がんばろう)
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