若者よ、前を向け。
もしも、あの日、あの時。
自分がもう少し強ければ、自分にもう少し力があれば……。
そう思って、数週間……いや、今でも思っている。
けれども、そんな気持ちを引きずっているわけにもいかなかった。
「おーい、お前らぁ!!
ちゃんと練習やってっかぁ!? あぁ?」
「スピッツ先輩!!」
「だーれが、スピッツだらっしゃぁぁぁぁぁ!!」
前三年生たちはまぁ、心ではどう思っているか分からないが
頻繁に練習を見に来てくれていた。
「あ、貴子先輩! お久しぶりです」
「あら、彩花ちゃん!
久しぶり、どう? 仕事は慣れた?」
あの日、あんなに泣いていた貴子先輩が笑っていた。
ちょっと泣きそうになってしまった。
「はい、慣れてきましたよ。
先輩のおかげです」
「あ、彩花。もうドジしてないの?」
亮介さんもいつものニコニコにもどっている。
「亮介さん、私もずっと1年生じゃないんですよ?」
「宮本一手交えないか?」
「哲さん……」
皆が居ないところで泣いていた元主将。
なのに、今はいつも通りだった。
そっか……引きずってるのは私だけなんだ。
先輩方はもう、前を向いているって言うのに。
私は、少し黙ってうつむいた。
先輩方は泣いているのかと心配してくれている。
もう、昔の事を引きずっているわけにはいかないんだ。
「……はい、一手交えましょうっ!」
とびきりの笑顔を作って、私は前を向いた。
先輩方にはもう、心配かけたくないですもん。
(八四歩)
(目隠し将棋でしたか……)