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そのハートいただきます



私はやはり友人に甘いのかもしれない。先日一緒に占いに行った友人が新居を見たいと言い出した。彼女の事だ、きっとそれが目的じゃないのは長い付き合いだから分かる。きっとまた余計なお節介をするつもりなのだろう。もし安室さんと鉢合わせてしまったら面倒臭い事になるのは目に見えてるから、適当に理由をつけて断っていた。だけど、あまりにもお願いしてくるもんだから根負けして了承してしまった。昼間ならという条件付きで。その時間なら鉢合わせる可能性が限りなく0%に近いからだ。そして、当日。最寄りの駅まで彼女を迎えに行った。


「名前の家楽しみだなー!」

「目当ては別のくせに。」

「何の事かなー?」


嘘をつく時キョロキョロするのが彼女の癖だ。分かりやすくて、思わず笑ってしまう。たった二週間前に遊んだばかりなのに、彼女とは話題が尽きない。駅から家までの道程もあっという間に感じる。階段を上り、自宅に向かっていると丁度安室さんの家から風見さんが出てきた。また何か安室さんに頼まれ事でもされていたのだろうか。


「名字さん、こんにちは。」

「こんにちは。いつもお疲れ様です。」

「いえ、これも仕事のうちですから。」


相変わらず真面目そうで少しも表情を崩さない。ついいつもの調子で話していると、友人が耳打ちしてきた。


「ねえ、もしかして彼?」

「何が?」

「占いで思い当たった人。」

「そ、その話は後で!」


ぶわっと急に思い出し、彼女の話を制止する。本人を前にして、その話をされては困る。だけど、彼女は私の隙をぬって風見さんに話し掛けていた。こういう時はいつもすばっしこいんだから。ため息をつきながら、彼女の元へと向かう。


「初めまして、私名前の友人です。名前がお世話になっています。」

「これはご丁寧にありがとうございます。私も名字さんが犬の散歩に付き合ってくれて助かっています。」


頭を抱えたくなった。きっと真面目な風見さんの事だ、きちんとお礼を言うつもりでそう言ったのだろうけど彼女にとっては逆効果だ。それを聞いた瞬間彼女は私の方へ振り返りにやりと笑って見せた。この笑顔、嫌な予感がする。


「あの、失礼ですけどお兄さんは独身ですか?」

「ええ、恥ずかしながらそうです。仕事が忙しいもので。」

「ちょうどよかった!この子最近男っ気がなくて、良ければデートしていただけませんか?」

「ちょっと!何勝手な事言ってるの!風見さん、急にすみません。今の話気にしないで下さい。」


嫌な予感が当たってしまった。慌てて彼女の腕を引き、これ以上関わらせないように家の鍵を開け家に押し込む。風見さんとは言うと、何か考え込んでいるようだ。


「最近仕事ばかりで息抜きしたかったんです。しましょう、デート。」

「......え?」

「良かったじゃん、名前!」


彼女は会話が聞こえたのか、ドアから顔出し親指を立ててウィンクしてきた。一瞥すると慌てて、ドアを閉めた。これは後でお説教だな。


「これ私の連絡先です、それでは仕事があるので失礼。」


視線を友人から風見さんに戻すと、彼はポケットから手帳を出し、ササッと連絡先を書いてその紙を私に渡して去っていた。予想だにしなかった展開に思考が追いつかず立ち尽くしていた。そんな私を友人はにやけた顔でドアの隙間から見ていた。ハッと我に返り彼女をひと睨みしてから、家へ入った。


「感謝するなら分かるけど、睨まれるような事したかなあ?」

「私そんな事頼んでないけど。」

「名前の心の声が頼んできたのよ。」


私の睨みなんか効かず、キラキラした笑顔でそう言うもんだからこれ以上文句を言う気も失せてしまった。はあ、とため息つくと幸せ逃げるぞと言われ、もうどうにでもなれと思ってしまった。飲み物とお菓子を用意し、最近あった出来事や愚痴を言い合ってるといつの間にか日が暮れていた。


「そういえば、あの眼鏡のお兄さんに連絡しなよ!私もうすぐ帰らなきゃだから、見届けさせてよ。」

「見張らせての間違いでしょ。」

「そうとも言う。」


風見さんからもらった連絡先を登録し、メッセージを打つ。『連絡先ありがとうございます。名字です。先程は友人が失礼しました。』彼女が携帯を覗き込み、打った文章を読む。読み終わると不服そうな顔をしていた。


「何、その顔。」

「色気がない。」

「必要ないでしょ!」

「落としにいくならもっと色気ある文章にしないと!」

「だから、そういうのじゃないんだって。」


彼女の意見は無視して、文章を変えずにそのまま送信した。忙しい彼の事だ、返信はすぐこないだろうと思っていたら、ものの5分で返ってきた。通知音がした瞬間私の方に駆け寄り、内容を確認するよう急かしてきた。そこには、『お気になさらず。早速ですが、行きたい所はありますか?』と書かれてあった。


「お兄さんも結構乗り気じゃん。」

「いや風見さんの事だから、用件だけ連絡するタイプなんだよ。」

「ふーん、よく知ってるねえ。」

「だから、ご近所付き合いであって思ってるのと違うから!」


そうは言ったものの彼女は納得していないようで、にやにやと笑ったままだった。それにしても、どうしよう。テンプレのようなデートコースは恥ずかしいし、かと言ってご飯食べに行くだけだと、せっかく風見さんが行くって言ってくれたし息抜きしたいみたいだし。その時丁度テレビで紅葉の特集をしており、それを見て閃いた。彼女には、もっとロマンチックな所にしなよとは言われたけど、久しぶりにそこに行きたかったし、リフレッシュ出来そうだから曲げなかった。風見さんからも、『いいですね、そこにしましょう。』と返ってきたので問題なさそうだ。その後のやり取りで日にちも決まった。一週間後だから、その間にまた散歩のタイミング被るだろうしあまり緊張しないで行けるかなと思ったけど、タイミングが合わないのか当日まで会うことはなかった。





当日の朝−

「動きやすい格好が一番だよね。」


デートってなると変に緊張してしまうから、ただ遊びに行くだけと自分に言い聞かせた。ハロちゃんの散歩へ行く時は、普通に会話が出来ているんだからいつも通りにしてればいいだけ。家まで迎えに来てくれるという事で、自宅で身嗜みと荷物の最終確認をしながら待っていた。

ピーンポーン

緊張しながらドアを開けるとそこには、風見さんではなく安室さんが立っていた。突然の事に頭が混乱してしまう。そうか、ただ単に何かの用件があるに違いない。そう思って尋ねた。


「あの、安室さんどうしたんですか?」

「風見が急用出来てしまったみたいで、僕が代わりに来ました。」

「そうなんですか?それなら他の日に変更したのに。」

「風見の方が良かったですか?」


風見さんなら急用入ったら連絡くれそうなのに、それほど急ぎの用だったのだろうか。そう不思議に思ってつい思った事を口に出すと、安室さんは悪い方に受け取ってしまったようだ。確かにその言い方だとそう聞こえてしまうか。以前帰り道で会った時の、あの悲しそうな表情を見ると心にグッときてしまう。慌てて、フォローをする。


「あ、いやそういう意味で言ったのではなくて!何か安室さんにまで気を使わせちゃったかなって。」

「そんな事ないですよ!行く場所とかも聞いてますし、久しぶりに僕も行きたかったですし。ほら、準備万端でしょう?」


そう言って彼は自身の服装を指し笑顔で言った。テレビで見たような、最近のお洒落な出で立ちで彼は何着ても似合うなあと見惚れてしまった。風見さんには悪いけれど、代わりを安室さんにしてくれてありがとうと心の中で感謝した。


「確かにそうですね。それじゃあ、今日一日よろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」


目的地まで安室さんの愛車で行くことになり、乗り込む。贔屓目を抜きにしても、運転姿もかっこいい。ずっと見ていたい気もするけど、まるで自分がベタ惚れしてるように思えて前を向くように意識する。


「そういえば、何で風見を誘ったんですか?大体の話の流れは聞いてはいたんですけど。」

「あの、笑わないでくださいね?」


安室さんは当事者じゃないから話してもいいだろう、そう思って占いで言われた事、聞いていたら風見さんが当て嵌ると思った事、その後の友人とのやり取りを説明する。それを聞いて彼は、笑わないでと念押ししたのにも関わらず笑い始めた。


「もう、だから笑わないでくださいって言ったのに。」


「すみせん、面白くてつい笑ってしまいました。
因みに、その項目に僕も全部当てはまると思いますよ。」

「え!?」

「年齢は29歳ですし、僕は名前さんとは話しやすなと思っていたので、これはその占いでいう波長が合うかと思うんですけど。」

「安室さんも思い浮かんだんですけど、てっきり年下かと思っていました。」

「ははは、よく言われます。」


確かに若いのに落ち着いているなって思っていたけれど、年上なら納得がいく。まあでもよく考えればそうか、風見さんの上司なんだからそこまで年齢は離れていないはずだもんね。占いで言われた相手に安室さんも当てはまると言われ、一気に意識してしまい緊張してきてしまう。それまでは、心のアイドルのような会えたらラッキーとしか思っていなかったのに、少しづつ欲が出てしまう。少し喋るだけでも、ドキドキして仕方ないのに一日中一緒にいるなんて私は生きて帰って来れるだろうか。






そのハートいただきます