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当たらない恋占い



あれから数週間経ったけれど、安室さんに会う事は一度もなかった。だけど、安室さんの部下の風見さんとは会うことは何回かあり、その度にハロちゃんの散歩に付き合わせてもらっていた。実家にいた時はいつも犬の散歩は私の担当だったから、恋しくなるのだ。彼は余程安室さんの事を尊敬してるようで、安室さんの事を話す姿はキラキラしていた。だけど、職業については毎回濁していたから私も聞かないようにしていた。
今日もハロちゃんと風見さんと朝の散歩を終え、自宅に戻り身支度を整える。先週、友人に行きたい所があるから空けておいてくれと遊びに誘われていたのだ。場所を聞くも秘密としか言わず、楽しみのような怖いような色んな気持ちが入り混じった心境だった。待ち合わせ場所に着くと彼女は大きく手を振って合図した。


「お待たせ。で、今日は何処行くの?」

「行ってからのお楽しみ〜!」


彼女に連れて来られたのは、よく当たると噂の占いのお店だった。これなら秘密にしなくてもいいのに、と思いながら列に並ぶ。占いが好きな女子は多いと思うけれど、私もその一人だった。最後に占いに行ったのは去年だっただろうか、前回も今思えば全部当たっていた気がする。


「今回は何みてもらうの?」

「この間彼氏出来たって言ったでしょ?その相性占いをしてもらおうと思って!」

「なるほどね!私はどうしようかなあ。」

「彼氏出来るか聞いたら?」

「余計なお世話ですー!」

「まあ、占いの後楽しみにしておいて!」

「あれ、行きたいのって此所の事じゃないの?」

「まさか!だったら普通に言うよ。」


友人はにやにやと怪しい笑いをしていて、嫌な予感がしてしまう。さすが女子というか、彼氏がここ数年いない私の世話を焼く事が多いのだ。別に欲しくない訳ではない、でも今の生活で満足しているからそこまで欲しいとは思えない。それを毎回説明するも、現に彼氏が出来て幸せな彼女には聞く耳を持ってはくれない。そうこう話していると、いつの間にか私達の番になっていた。彼女の相性占いの方は、相性バッチリという事で嬉しそうにしていた。私はその姿見てるだけで十分なのになあ。


「さあ、次は貴女の番ね。何を占って欲しいのかしら?」

「今年良い出会いがあるかでお願いします!」

「ちょっと勝手に決めないでよ。」

「いいじゃんいいじゃん。」

「もう......じゃあ、それでお願いします。」

「分かったわ。......そうね、貴女仕事運は凄くあるんだけどねえ。恋愛運は、貴女が恋しようと思わないと無理ね。出会いは沢山あるのに、いつも見逃してる。今だって出会いあったんじゃないかしら?それか、この1週間であるわね。」

「家と職場の往復だからなさそうなんですよね。」

「そういえば名前、最近引っ越したんでしょ?そこであるんじゃない?」

「う〜ん。」


そこでパッと顔が浮かんだのは、今朝会った風見さんだった。まあ確かに、彼の話を聞いている限り真面目だし仕事熱心だし、いい人ではあるけれど。そうか、可能性は無きにしも非ずか。私が考えこんだのを見て、彼女はにやにやし始め占い師さんに質問をした。


「あの、どういった人かとか分かりますか?」

「そうね、彼女の星は同年代と相性がいいから同い年か1、2個上の男性ね。彼女と同じように自由人ね、だけどしっかりとした信念を持った人よ。きっと会った時に波長が合うんじゃないかしら。」

「......。」


ますます風見さんっぽい。話が合うから世代は一緒だろうし、自由人っぽくはないけれど信念は持ってそうだ。次彼と会ったら意識してしまいそうだ。それ以降も色々質問したけれど、一旦着いてしまった固定観念はなかなかとる事が出来ず全部風見さんに繋げてしまって参ってしまった。占いのお店を後にして、彼女のお目当てのお店へ向かう。


「着いたよ!」

「此処普通の喫茶店じゃん。」

「お店はね!目当ては店員さんよ、絶対名前の好きなタイプだと思うんだよね〜!事前リサーチで出勤は確認済!」

「さすが!楽しみ〜!」


店内へ入ると出迎えてくれたのが、見知った顔だった。こんな所で会うとは思わなかったから、驚いて声を上げそうになったけど、目の前の店員さんもとい、お隣さんの安室さんは口元に人差し指を持っていき口パクで「内緒で」と言ってるようだった。驚きを飲み込み、深呼吸をして平静を装う。すると、横腹を小突かれ何かと思ったら彼女が耳打ちした。


「彼よ。かっこよくない?」

「う、うん。そうだね。」


私も初めて会った時にそう思ったけれど、まさか此処で会うとは思わなかった。確かに彼女の言う通り、彼はかっこいいしタイプではあるけれど、お隣さんと分かった今素直にはしゃげない。その上、知らない振りをするなんて反応に困ってしまう。そんな私の心情を知らない安室さんは、爽やかな笑顔で席まで案内してくれた。端の席のおかげでお店全体が見渡すことができ、時間のせいもあるかもしれないけれど、お客さんの大半が女の人だった。チラチラ安室さんを見てる人が多いことから、みんな彼がお目当てなんだろう。


「どうタイプでしょ?」

「うん、さすが私の好み分かってるね。」

「あれ、もっとキャーキャー言うかと思ったのになあ。あれでしょ、さっき占いの時に当てはまった人の事考えてたんでしょ?」

「え、違う違う!そんなんじゃないって!」

「それかどストライク過ぎた?」

「さっきからそればっかり。」


彼女の言う事に呆れつつ、安室さんの方を見るとエプロン姿が様になっていて確かにかっこいい。勿論スーツ姿も良かったけれど。あれでも、安室さんの仕事って喫茶店の店員さんだったのだろうか。何か違う気がするけど、きっと何も聞かない方がいいのだろう。メニューを手に取り、何を注文するか考える。このハムサンド美味しそうだ。彼女にも決まったか聞くと決まったようで、店員さんを呼ぶ。


「ご注文はお決まりですか?」

「はい、私はこのハムサンドのセットをお願いします。」

「ありがとうございます。これ僕の特製サンドイッチなんですよ、美味しく作るので楽しみにしててくださいね。」

「......はい。」


注文を聞きに来てくれたのは安室さんで、あまり顔見るとボロが出そうなのであまり見ないようにして注文をした。すると美味しそうだと思って注文したものが、彼特製のメニューとの事だった。つい彼の方を見れば、ウィンクしてそう言うものだからドキッと胸がときめいてしまった。その後友人が注文した内容さえ全然頭に入らなかった。しばらくすると、可愛らしい女性の店員さんがサンドイッチとパンケーキを持って来てくれた。友人と話しながら食べていると、いつの間にかお客さんも疎らになっていった。


「ちょっと御手洗行ってくるね。」

「いってらっしゃい。」


彼女が御手洗に入ると同時に、安室さんが珈琲のお代わりを注ぎに来てくれた。軽く雑談をし、やはり彼も私が此処に来た偶然に驚いたようだった。すると、彼は思い出したように質問した。


「そういえば、僕の事タイプなんですか?」

「え!?」

「さっき名前さんが席外した時に、お友達がそう言ってたので。違いました?」


「違ったら恥ずかしいなあ。」と恥ずかしそうに笑う安室さんを見たら、落ち着いてきた心臓もまた速く動き始めた。私がいない間に何言ってるんだと、彼女に悪態づきながらも、こうして話しかけてくれる機会をくれた事に感謝した。


「......間違いではないです。その、友人が急に変な事言ってすみません。」

「そんな、謝る必要ないですよ!僕それ聞いて嬉しかったので。」


クスッと笑いながら安室さんは席を離れた。それを聞いた瞬間頭が真っ白になり、徐々に顔も熱くなってくるのを感じた。その笑顔でその台詞は反則だ。パタパタと顔を仰ぐも、冷めそうにない。しばらくすると、彼女が戻ってきて顔を仰いでる私を訝しげに見ていた。


「そんな顔真っ赤にしてどうしたの?」

「な、なんでもない!ちょっと暑いのかもしれない。」

「夏は終わったのに?」

「暖房が効いてるからかな〜。」

「ふ〜ん。」


納得してなさそうな顔をしているけど、それ以上は追求してくることはなかった。助かった。昔から嘘をつくのが下手と言われているから、これ以上追求されたらボロが出るところだった。時間が16時にまわったところで、彼女は彼氏と一緒にディナーらしくお店を出て別れた。最後にもう一度安室さんを見ておきたかったけど、店内にはいなかった。残念。




夕飯も食べ終わり、集積所へゴミを持って行こうと玄関を出ると、安室さんと風見さんが神妙な面持ちで会話していた。さっきの喫茶店で働いていた時の表情とは大違いだ、風見さんも居る事からきっと仕事関係の話だろう。話の邪魔をしては悪いと思い、軽く会釈だけして集積所へ向かう。気にしないようにしようと思っていても、やっぱり気になってしまうのが人間の性なのだろうか。上司の飼い犬を散歩する部下に、会社からの急の呼び出し、部下に尊敬される安室さんの仕事は喫茶店の店員さん。でも、さっきはスーツを着ていて真剣に何かを話していた。一体彼等の本当の仕事は何なのだろうか。そんな事を考えながら、集積所へゴミを捨ててから自宅へ戻る道を歩く。階段を上っていると、丁度風見さんが階段を降りてきた。


「遅くまでお疲れ様です。」

「ありがとうございます。それでは、おやすみなさい。」

「あの!」

「何でしょう?」


風見さんの顔をを見た瞬間今日の占いの結果が頭にチラつき、つい呼び止めてしまった。反射的に呼んでしまったせいで、次の言葉がすぐ出てこない。頭に浮かんだのは占いの内容ばかりで、そのせいかあんな質問をしてしまったのかもしれない。


「あの失礼ですけど、風見さんっておいくつですか?」

「30ですが、急に年齢聞いてどうしたんですか?」

「ふと気になってしまって聞いてしまいました。すみません、呼び止めてしまって。おやすみなさい。」

「いえ、気になさらないで下さい。最近寒くなってきたので、暖かくして寝るように。」

「はい、そうします。お気遣いありがとうございます。」


喋り方は堅いけど、優しい人だなあとしみじみ思う。年齢も2個上だから、占いで言われていた通りの歳だ。あの占いで言ってた最近出会った相手というのは、彼なのだろうか。






当たらない恋占い