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神様のきまぐれ




今日からとうとう一人暮らしが始まる。転職を機に、実家から出て一人暮らしをする事に決めたのだ。と言っても、実家は同じ市内にあるのだけれど。家事は一通り出来るから問題ないけれど、環境はガラリと変わるだろうから緊張する。引っ越し作業が終わり、両隣、真上、真下の階の住人の方に母と一緒に挨拶周りをする。どの方も親切で、此処での生活に少し安心した。女の一人暮らしは何だかんだ言って少し不安だったのだ。片方のお隣さんは不在で、どういう人が住んでるか分からないけどいい人だといいな。
一ヶ月経ち新生活も慣れた頃、他の住人さん達と挨拶したり世間話することも増えてきたけれど、未だにお隣さんと会うことは一度もなかった。生活スタイルが逆なのだろうか、たまに物音が聞こえるから住んでいることは間違いないとは思うんだけど。ある日夕飯の買い物を終え、部屋に向かっているとお隣さんが丁度わんちゃんの散歩に出掛ける所だった。


「あの、此方に住んでる方ですか?」

「いえ、私は此処の住人の部下です。何か用ですか?」

「そうなんですね。最近引っ越してきたので、挨拶をと思ったんですけど。」

「彼は忙しい方ですからね、
♪〜
……少し失礼します。」

「ええ、お気になさらず。」


その部下の方は眼鏡とスーツの効果もあってか凄く真面目そうな見た目だった。それにしても、部下が上司の犬の散歩するなんて一体どんな仕事なのだろう。それ程忙しい仕事なのだろうか。電話終え、此方に向かってきた彼の表情は緊張に包まれていた。


「あの、どうかされたんですか?」

「はい、急用が入ってしまって。初対面で頼むのも申し訳ないのですが、犬は平気ですか?」

「ええ、実家に犬飼ってますし好きです。それがどうかしましたか?」

「明日の朝まで預かって頂けないでしょうか?今日一日散歩行ってないので、お願いしたいのですが。」

「明日は仕事も休みですし、構いませんよ。」

「それは良かった!助かります!」


そう言って彼は、リードとお散歩バッグを私に渡して走り去ってしまった。その場に残された私は呆然としてしまった。もっと引き継ぎみたいのがあるかと思ったのだけれど、ただならぬ雰囲気に圧倒され何も聞けずにいた。とりあえず荷物だけ部屋に置いていかないと、そう思ってわんちゃんを連れ家に戻った。その子はきちんと躾がされているようで、いい子にして玄関で待っていた。生物だけ急いで冷蔵庫に入れ、散歩の準備をする。ハーネスの部分にタグが付いており裏を見るとそこには、『安室ハロ』と名前が記載されていた。


「君の名前はハロちゃんって言うんだね。」

「アンッ!」

「ちゃんと自分の名前が分かるんだねえ、いい子。」


そう言ってハロちゃんの頭を撫でると尻尾を振ってそれに反応してくれた。うちの子みたいに人見知りだったらどうしようかと思ったけど、その心配はなさそうだ。近所を散歩し、帰りにコンビニに寄りハロちゃんのご飯を購入した。ドライフードかパウチタイプどっち食べるか分からなかったから、とりあえず両方買っておいた。家に着き、ハロちゃんにご飯あげると残さずペロリ平らげていた。私が料理してる間も、初めての場所のせいかあちこち匂いを嗅ぐものの、悪戯等せずにいい子にしていた。ハロちゃんは可愛いし、お利口さんだし、甘え上手だからいつでも預かってもいいとさえ思ってしまう。




翌朝ハロちゃんと遊んでいると、ドアのチャイムが鳴った。昨日の彼だろうか、インターホンのモニターには金髪のイケメンなお兄さんが写っていた。写ってる彼がお隣さんなのだろうか。インターホン越しに誰かを聞けば、予想通りハロちゃんの飼い主だった。ハロちゃんは彼の姿を見ると、一目散に駆け寄っていた。よっぽど彼の事が好きなのだろう。


「ご迷惑をお掛けしてすみません。」

「いえいえ、ハロちゃんいい子だったので大丈夫です。」

「それは良かった。そうだ、以前は引っ越しの挨拶いただいたのになかなかお礼を言えずにすみません。改めまして、僕は安室透といいます。」

「安室さんですね、よろしくお願いします。私は名字名前です。」

「名前さん、とお呼びしてもいいですか?」

「はい、大丈夫です。」


見た目に反して、とても礼儀正しいお兄さんだった。瞳も青い色をしているからこの髪色も地毛なのだろうか。こんなイケメンのお兄さんがお隣とは私はラッキーかもしれない。別に何かを期待しているわけではないけど、タイプの人が隣に住んでる、それだけで十分ラッキーだ。


「これお礼とは言っては何ですが、どうぞ召し上がってください。」


そう言って安室さんが差し出したのは、この近所では有名なケーキ屋さんのシュークリームだった。数量限定で、大抵午前中で売り切れてしまう。以前テレビで紹介されてからは、尚更競争率が高く並んではみるものの毎回売り切れで買えた試しがなかったのだ。


「わあ、此所のお店のシュークリームいつも売り切れで食べた事なかったんです。頂いちゃってもいいんですか?」

「ええ、部下が迷惑をかけたお礼でもあるので。それに、喜んでもらえたようで何よりです。」

「とっても嬉しいです、ありがとうございます!」

「ははは、これにした甲斐がありました。それでは、ハロがお世話になりました。」

「いえ、また何かあればいつでも声掛けてください。」

「ありがとうございます。」


そう言って安室さんはお辞儀してから、帰っていった。私も自室に戻り、シュークリームを冷蔵庫に閉まって一息をつく。安室さん、かっこいい人だったな。礼儀正しいし、スーツ似合うし、気遣いが上手だし、何より動物好きの人に悪い人はいない。彼を思い出すと自然と頬が緩んでしまう、いけない、いけない。夢を見たって無駄なんだから、現実を見なきゃ。例え彼女がいなかったとしても、私が釣り合うはずないんだから。ただのお隣さん、それ以上でもそれ以下でもないのだ。






神様のきまぐれ