×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

あわよくばここのまま君と二人で



一度自分の気持ちを全て受け入れてしまったら、後は雪だるま式にどんどん想いが溢れてきてしまう。今まで抑え込んでいたなら尚更だ。洋服店の前を通りかかれば、あの服名前さんに似合いそうだな、だとか洋菓子店の前を通ればあのケーキを差し入れしたら喜ぶだろうか、だとかごく自然に彼女と結びつけてしまう。全く困ったものだ。

「安室さん、今日機嫌いいですね。」

「え、そうですか?僕はいつも機嫌いいですよ。」

「また誤魔化しましたね〜!あのお姉さんと何かあったんじゃないですか?とうとう付き合ったんですか?」

「いや、まだ付き合ってないですよ!」

「ふーん、"まだ"付き合ってないんですねえ。」

「梓さんからかわないで下さいよ。僕、外掃いてきますね。」

全くこういう時の梓さんは鋭い。これ以上追求されたら敵わない、そう思って表の掃き掃除を理由にこの場から逃げることにした。外に出ると雲ひとつない青空で清々しかった。でも梓さんの言う事にも一理ある、今は名前さんと以前のように話せるようになっただけでも満足だが、もう一歩彼女に近付きたい。彼女の様子を見るに少なからず僕に好意があるのは間違いないはずで。ポアロで会った時に言ってたのは、あくまで外見の話な訳で今は僕の内面も見てくれているはずだ。ただまだ確証がないから、告白するには早すぎる。そんな事を考えながら掃き掃除をしていると、目の前に仲睦まじいカップルが次のデートについて話していた。そうか、それだ。

「『今度一緒に東都水族館に行きませんか?』っと。」

休憩に入ると早速名前さんにデートのお誘いのメッセージを送った。彼女と話したあの日にお互い連絡先を交換した甲斐があった。なかなか会うタイミングがなかったとしても、こうして連絡が取り合えるのだから。残念ながら休憩時間中に彼女の返信はなかったけれど、きっと彼女は仕事中なのだろう。仕事が終わり携帯を確認していると、新着メッセージがあった。内容を見るとそれは彼女からで、『喜んでご一緒させていただきます。水族館行くのは久しぶりだから、楽しみです。』と書いてあった。相変わらず文面は固いけれど、その返事を見て思わずガッツポーズをしてしまう。早く名前さんに会いたい。




デートの日にちも順調に決まり、慌ただしい毎日を過ごしているとあっという間に当日になっていた。全身鏡の前に立ち服装を確認する。

「これは少し気合が入りすぎかな。」

前回は山登りという事もあって服装に悩む事はなかったが、今回は違う。デートらしいデートなんて久しぶりでどんな服装にすればいいか悩んでしまう。数ヶ月前にはこんな事に悩むとは想像もしていなかった。散々迷った挙げ句、無難にジャケットスタイルで行くことにした。
約束の時間になり彼女の家のチャイムを鳴らすと、直ぐに彼女がドアを開けて出てきた。今まで見てきた服装と雰囲気が違っており、普段と違う可愛らしさに思わず息を飲んでしまう。

「安室さん?」

「ああ、すみません。いつもと雰囲気が違いますね。」

「久しぶりの水族館ですし、それに安室さんと一緒なので、そのちょっと頑張っちゃいました。」

「僕の為ですか?」

「あ、いや、その違くて!違ってはいなくて、そうなんですけど、」

「あぁ、もう。私何言ってるんだろう。」そう言って恥ずかしそうに、顔を隠す名前さんが愛おしくて仕方がなかった。楽しみにしていたのが僕だけじゃなかったようで嬉しくなる。素直に「嬉しいです。」と返せば、照れたようにはにかんでいた。東都水族館に向かう車中も話が盛り上がり、既に満足してしまっている自分がいた。彼女も楽しみにしていたのか、色々と調べていたようだった。楽しそうに話す彼女を見ていると、場所をそこにしていて正解だったようだ 。




「まずはあそこに行きませんか?」

「ええ、そうしましょう。」

東都水族館に着き、名前さんが指したのはメインの水族館だった。彼女に腕を引かれるがまま、目的地へと歩き出した。初めて見る彼女の無邪気な様子に、少しずつ心の距離も近付いてる気がしてくる。館内に入ると様々な魚がおり、童心に返ったように夢中になってしまう。彼女も同じようで瞳をキラキラと輝かせながら、水槽を眺めたり写真を撮ったりしていた。その様子に目を奪われ、彼女に向け写真を撮った。初めこそは恥ずかしそうに、顔を隠されたり止められたりしたけれど、しまいには目線を向けてくれるようになった。平日のせいかお客さんも疎らで、マイペースに見ることが出来て助かった。並んで歩きながら回っていると、手が触れそうになり、そのまま握ってしまおうかと何度も思った。だが彼女は意識してか無意識でかその度に手がそこから離れ、彼女の手を掴むことが出来なかった。こうなったら正面突破するしかないな。

「名前さん」

「なんですか?」

「手を繋いでもいいですか?」

「え、あ、はい。」

驚いた表情をした後、恥ずかしそうに俯きおずおずと手を僕に差し出した。今は館内が暗く彼女の表情が見えにくいが、きっとまた顔を赤くしているのだろう。かという僕も、同じなのだが。あの時も何度か彼女の手を触れたはずなのに、その時よりもドキドキとしてしまうのは気持ちをはっきりと自覚したせいだろうか。何故だか照れくさくなってきてしまい、お互い無言になってしまっていた。

「あ、名前さん。ペンギンが泳いでますよ。」

「わあ、本当だ。かわいいですね!」

「!」

この空気を打破すべく次のコーナーであるペンギンに話題を振った。水槽の近くまでいくと、ペンギンが凄い速さで泳いでいた。すると、名前さんが急に横を向き余りの顔の近さに体が固まってしまった。途端に全身が熱で熱くなっていくのを感じる。中学生のような自分の反応に驚きつつ、彼女に顔を見られないように思わず反対の方向へ向いてしまった。

「わ!すみません、急に振り向いちゃって!」

「いえ、そんな気にしないでください。」

今日こそは彼女に想いを伝えようと思ってはいるのに、自分がこんなのでは先が思いやられるな。深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。意識し過ぎなければいいんだ、と何度も言い聞かせたおかげかその後は問題なく楽しく過ごせた。アシカショーを見たり、お昼を一緒に食べたり、水族館の別館を見て回ったりして、久しぶりの平和な一日に心が安らぐ。目の前の水槽にいる海月に魅入ってる名前さんを横目に、一旦手を離し指と指を絡ませる。驚いて僕の方を見た彼女は何かを言いたげだったけれど、気付かない振りして海月を見た。もっと僕を好きになってくれればいいのに。



別館を出ると、外はもう暗くなっていた。辺りはカラフルな電灯で彩られとても綺麗だった。本当は観覧車に乗って、綺麗な夜景を見ていい雰囲気の中で気持ちを伝えたかったけれど、高所恐怖症の彼女には観覧車は酷だろう。

「もう暗くなってきましたし、帰りますか。」

「あの、私もうひとつ行きたい所あるんです。」

「それじゃあ、そこ行きましょう!それで、行きたい所は何処ですか?」

「あれに乗りたいんです。」

そう言って彼女が指したのは、苦手なはずであろう観覧車だった。リフトの高さでさえ、怖がっていたのに大丈夫なのだろうか。不思議に思って聞くと、苦手な事には変わらないけれど足が床に着けばまだ平気という事だった。それならばと観覧車の入場列に並んだものの、列が進むに連れ口数が減っていっていた。

「名前さん、怖いなら無理しなくてもいいんですよ。」

「こ、怖くないです。大丈夫です、ほら夜景とか絶対綺麗ですよ!」

表情も不安そうに変わったのを見て声掛けたものの、作ったような笑顔で強がる彼女を見てこれ以上言うのを止めた。きっと名前さんは気付いていないんだろうな、無理して笑っているのを。何故そこまでして観覧車に乗りたいのかは分からないが、彼女も頑固な所があるのは身に染みている。

「怖くなったら抱きついてもいいですからね?」

「う、子どもじゃないんだから平気です!」

悪戯っぽく笑ってそう言えば、どう反応したらいいのか分からない様子で困ったように笑って彼女は返事をした。結構本気なんだけどな。観覧車に乗り込むと、名前さんは真ん中の席に座り込んだ。窓際に座らない辺りやはり怖いのだろう。彼女の隣に腰掛けると、椅子の上に置いた手を上からぎゅっと握られた。しばらく言葉を交わさずネオンに輝く夜景を魅入っていた。頂点に差し掛かる所で、彼女は口を開いた。

「あの、安室さんに言いたい事があって。」

「何ですか?」

「あの、」

声を掛けられ名前さんの方向を向くと、その彼女の表情を見てハッとする。声と表情は緊張のせいか強張っていて、不安が入り交じっているのに頬は上気している。僕の自惚れじゃなければ彼女はおそらく。

「僕から先に話してもいいですか?」

「え、あ、はい。どうぞ。」

「本題に入る前に話しておかなきゃいけないことがあって。」

気持ちを伝える前に僕の職業について予め話しておいた方がいいだろう。全てを話せる訳ではないけれど、これによって彼女の考えが変わってしまうかもしれない。危険は付き物だし、不規則で会えない日や連絡が取れない日が多くなるかもしれない。既にそれは彼女自身も実感してはいるだろうが。一抹の不安を抱えながら呼吸を整え、言葉の続きを話し出す。

「この前僕が名前さんを避けた理由話しましたよね?」

「はい。」

「その、僕の職業についてなんですけど、実は警察官なんです。詳しくは言えないんですけど、危険が付きもので、だから今話しておこうかと......」

「だと思ってました。」

「え?」

あっけらかんと笑って答える彼女に驚きを隠せなかった。確かに今までに不自然な点はあったとしても、悟られないようにしていたはずなのに。狼狽える僕をよそに彼女はくすくすと笑いながら言葉を続けた。

「そう思った切っ掛けはドラマなんです。この間刑事ドラマ見ていたら、既視感を覚えるシーンがあって。何でだろうって考えていたら、全ての安室さんと風見さんの行動や言動だったんです。それで、もしかしてそうなのかなあって。同じ警官でも他言無用の部署とかありますしね?」

「......全く、名前さんには敵いませんね。」

尚も僕の反応を見て楽しそうに笑う名前さんにつられて笑ってしまう。彼女の言動からしてきっと警察の中でも公安に所属している事を察してはいるのだろう。それを知った上でこうして一緒に出掛けてくれているという事は、それも含めて僕にも可能性があるという事なのだろうか。

「それで本題なんですけど、」

「はい。」

「僕は名前さんの事が好きです。付き合ってくれませんか?」




あわよくばここのまま君と二人で