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身を焦がすジェラシー    




「First name起きて、起きないと置いていくわよ。」

「あと5分......」

「そう言って前も寝坊したじゃない。」


何度も揺さぶられ寝惚け眼をこすりながら起き出す。目を開けると、目の前には呆れた顔のリリーが両手を腰に当て立っていた。この世界に来てからもう何週間も経ったけれど、未だに起きた瞬間は頭が混乱してしまう。徐々にこれは現実なんだと受け入れ始めてはいるけれど、疑問点もそれと同時に増えていく。リリーに急かされ、顔を洗い身支度を整えていく。そういえば、昨日ホグズミードに誘われていたんだっけ 。ここ数週間はずっとセブにくっつき回って、今の彼の置かれている状況を確認していたから 、週末はリリー達と過ごそうと約束していたのだ。準備を終え、ホグワーツ特急に乗り込む。コンパートメントは既に友人達が席を取っていたらしく、スムーズに乗り込めた。


「それで?」

「それでって何が?」

「スネイプよ!あなた最近ずっと彼といるじゃない、どういう関係?」

「どういう関係ってただの友達だよ。」

「ふ〜ん。」


リリーも含めてみんな疑っているようだった。どの国でもやっぱり恋話は好きらしい。それ以降も何かと追及されたけれど、なんとかはぐらかした。そりゃあセブの事は好きだけれど、彼が好きなのは生涯でただ一人リリーな訳で。わたしなんかが同じ土俵に立てるはずがないのだ 。他の話題に移ったところで、リリーがそっと耳打ちしてきた。


「ねえ、本当の所はどうなの?あなたセブルスの事好きでしょう?ブラックともいい感じにも見えるけど。」

「二人とも友達として好きなだけだよ。」

「リリーの方こそどうなの?好きな人いるの ?」

「わ、私のことは良いのよ。」


慌てたように話題を遮った彼女の顔はほんのりと頬を赤く染めていた。もしかして、もう既にジェームズの事を気になり始めているのだろうか。みんなで恋話に盛り上がっていると、いつのまにかホグズミード駅に着いていた。駅へ降りると映画で見た光景と同じで、感動で泣きそうになる。ホグズミードが初というわたしに彼女たちは色々な場所を案内してくれた。やっぱり一番気に入ったのは、ハニーデュークスだった。内装も商品も全てが可愛いくて、店内を埋め尽くす甘い匂いもあって、ずっと此処に居たい位だった。一通りお店へまわっていると、向かいから悪戯仕掛け人達がやってきた。


「やあ、お嬢さん方!良ければ一緒にバタービールでも飲まないかい?」


言葉上わたし達全員を誘ってはいるけれど、視線はリリーだけに向けられていて、誰がみても彼女の事を好きなのが丸わかりだった。リリーを除いたわたし達は顔を見合わせて頷いた。暗黙の了解で、二人っきりにしようという目論見で。


「私達彼氏いるし、他の男の子と居ると怒られちゃうから遠慮しておくわ。」

「わたしは、えーとシリウスくん達に用があるの!だから、ジェームズとリリーで行ってきたら?」

「そうなのかい?それじゃあエバンス、君はどうかな?」

「しょ、しょうがないわね。付き合ってあげるわ。」


お互いが好き合ってると気付いてないのは当人だけだろう。シリウスくん達もにやにやと笑っている。もしリリーがまだジェームズに対して好意がなければ、セブとくっつくように仕向けていたかもしれないけれど、側で彼女の事を見ているとそれは無理だと悟った。本人を前にするとツンケンとしてしまうけれど、目で追ってるのはすぐ分かった。


「それじゃあ、俺たちも何処か行くか。」

「僕とピーターは用事があるから行くよ、First nameも彼等を二人っきりにする為に言ったんだろ?」

「うん、巻き込んでごめんね。」

「気にしないで、僕等の方こそ彼の幸せそうな顔見れて良かったし。」


そう言ってリーマスはピーターの腕を引き人混みの中へ消えてしまった。シリウスくんと二人っきりか、これはなかなかハードルが高いぞ。彼と居るだけで悪目立ちしてしまう。他のみんながいる時は問題ないけれど二人っきりとなると、ファンの子達からの視線が痛い。今だってそうだ、胃がキリキリする程視線を感じる。


「シリウスくんも用事があったら行って平気だよ。」

「俺は用事ねえし、どっか行こうぜ。」

「他に誰か誘わない?」

「何で?必要ないだろ。」

「シリウスくんは気付いてないかもしれないけど、視線が痛いんだって。」

「そんなのほっとけ。......そうだ、いい場所がある。」


遠回しに二人っきりを避けようと言ってみたけれど、全く効果はなく結局シリウスくんに手を引かれ街中を歩くことになってしまった。周りの囁き声がちくちくと胸を刺してくる。

「あの子彼女かな?もっと可愛い子いるのに。」
(そんなの、自分が一番分かってる。)

「最近シリウスくん達とつるんでるよね、珍しい編入生だからって調子乗り過ぎ。」
(だったら面と向かって言えばいいのに。)

どんどん胸が苦しくなってきて、足もだんだん重くなっていく。手を離そうとするけど、強く掴まれて離れそうもなかった。やっと止まってくれたと思ったら、陰気なお店の前だった。なんとも怪しくて入りづらかったが、彼に引きづられるようにお店へ入って行った。


「此処なら他の生徒来ねえから平気だろ。」


ざっと周りを見ると、ここのお店だけ今までのお店と客層が異なっていた。空いている席へ適当に座わると、先程まで俯いていて気付かなかったが店頭にはイノシシの頭が飾られていた。これは、もしやとバーカウンターを見るとダンブルドア先生そっくりの店主がいた。アバーフォースさんまでお目にかかれて、沈んでいた気持ちも徐々に晴れてきた。


「ねえねえ、此処ってもしかしてホッグズ・ヘッド?」

「ああ、本当はもっといい所連れて行きたかったんだけどな。俺のせいで悪かった。」

「ううん!わたしずっと此処に行きたかったの!」

「......First name、お前本当変わってるな。他の女は普通此処に連れてきたら怒るぜ ?」


心底驚いた顔をし、何故来たかったか理由を聞かれたけれど理由なんて言えるはずもなく適当に濁した。すると、訝しんだ顔で「すぐはぐらかすよな。」と言われ、胸にグサッと刺さってしまった。もう少し言動と行動に気を付けないと怪しまれてしまう。頭では分かってるものの 、やはり感動はしてしまうので隠しきれない。タイミングよくリリー達と寄った雑貨屋さんでグラスセットを買っていたので、それに飲み物を入れてもらった。周りに知り合いもいない事もあって、何も気にせず話せて楽しい時間を過ごす事も出来た。きっとシリウスくんも気を遣ってくれて、生徒が来ることのない此処に連れて来てくれたのだろう。


「なあ、さっきは悪かった。」

「何のこと?」

「街歩いてた時のこと」

「......あー、あれはシリウスくんのせいじゃないじゃん。まあ、もう少し自分のモテ具合を自覚して行動して欲しいけど。」

「モテたくてモテてる訳じゃないんだけどな。」

「うわ、今めっちゃイラついた。」


前髪をサラッとかきあげ、キメ顔でわたしを見た。これは明らかに狙ってモテてる、そう感じたもののやっぱりかっこいい。調子乗るだろうから、本人には言わないけれど。「たまには褒めろよ。」そう言って、シリウスくんはテーブルに突っ伏して顔だけ上げわたしを見た。自然と彼が上目遣いになり、ドキッとしてしまう。少女漫画ならポジション逆だろうに。そして、テーブルに置かれたわたしの手を握った。


「好かれたい奴に好かれるのは難しいんだけどな。」


そう言ってへらりと笑った。いつもとは違う弱った笑顔に母性本能がくすぐられてしまう。そんな目で見られると勘違いしてしまいそうになる、きっと彼は他の女の子にもそうしているだろうに。この状態は心臓に良くない、視線を逸らしたくても逸らす事が出来ない、手を離したくても離せない。


「シリウスく.....

「シリウスー!!聞いておくれよ!!僕もう嫌われたかもしれな......あ、お邪魔したかな?」

「ああ、今はタイミング悪いな。」

ううん!そんな事ないよ、わたし席外そうか?」

「ありがとう!First name、君は本当に優しいね!君にも聞いてほしいからそのままでいいよ!」


何処からわたし達が此処にいると聞きつけたのか、ジェームズくんが半泣き状態でシリウスくんの元へ駆け寄った。お互いにパッと手を離し、わたしはほっとした表情でシリウスくんは不満そうな表情でそれぞれジェームズを見た。その姿は、頭から何か水を掛けられたようにびしょ濡れだった。リリーと何かあったのだろうか。彼は店主に飲み物を頼み、渡されたグラスを一飲みするがすぐ吹き出した。その姿を見て、まるでコントのようで思わず笑ってしまう。


「お前忘れたのかよ、ここホッグズ・ヘッドだぞ。」

「そうだった、どうりでヌメヌメしてる訳だ。」

「それで何があったんだよ?」

「ああ、そうだった。それがさ、」


そして彼は話し始めた。あの後、リリーと「三本の箒」へ行き、緊張もあって空回りしていたそうだ。会話もジェームズが一方的に話してしまい、その内容も自慢話や悪戯話そしてセブの悪口。とうとうリリーも怒ってしまい、バタービールを彼に掛けて出て行ってしまったそうだ 。シリウスくんと顔を見合わせて、ため息をつく。


「女心が分かってないね。」

「ああ、First nameに同意。」

「僕だって後で気付いたさ!手遅れだったけど......どうすればいいんだ。」


そこからは、二人でジェームズを慰めて励ましていた。彼の話を聞いていると、そこまでリリーの事が好きだったのかと驚かされる。原作でも映画でもそこまで描かれていなかったから、初めて彼の立場も考えるきっかけにもなった。二人が結ばれたのは、なるべくしてなった結果だったのか。




身を焦がすジェラシー
(わたしも人を愛せるだろうか。)





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