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染まるスカーレット     




今日は待ちに待ったハロウィン当日。一ヶ月前にリリーから、ハロウィンの日にはみんなで仮装して学校全体でパーティがあると聞いた。今まで生きてきて、ハロウィンらしいことなんてした事がなかったから、つい張り切ってしまった。お菓子も沢山用意したし、衣装もこつこつと作っていたおかげで前日には完成した、あとは着替えるだけ。当日のお楽しみということで 、みんな各々何の仮装をやるかは秘密にしていた。みんなはどんな仮装なんだろうと、わくわくしながら考えながら衣装に着替える。

「よし……!」

鏡を見て自分自身を確認する、完璧かもしれない。普段の自分よりイケてる気がする、と自画自賛したくなる程自信のある出来だった。にこっ、と笑顔の練習を数回してから談話室へと向かう。

「Trick or Treat !!」

暖炉の前に集まっていた悪戯仕掛け人たちに声をかける。ジェームズはミイラ男、リーマスはフランケンシュタイン、ピーターは……パンプキンマン?そして、シリウスくんが吸血鬼の格好をしていた。まさか、被ってしまっているとは。お揃いみたいでなんだか気まずいけれど、これはこれで双子みたいかもしれない。それとも被らなさそうな日本の妖怪とかにすれば良かっただろうか、ひとり悶々と考えていると、みんながわたしを見て不思議そうな顔をしている。


「あのー、どちら様ですか?」

「どちら様って、見て分からない?」

「「「分からない」」」


わたしの言葉に誰も反応をせず無言の状態がしばらく続いたかと思うと、ジェームズが不思議そうな顔で誰かと聞いてきた。そこまで別人に見えるのだろうか、所謂男装をしてメイクもそれ用に変えてはいるけど、顔自体は変わってはいないはず。シークレットブーツを履いて、身長もカサ増ししてるから別人と言えば別人なのだろうか。


「……もしかしてFirst name?」

「That's right!正解だよ、リーマス!」


リーマスは自信なさ気に答えた。そこまで分からないとは、自分には変装の技術があるかもしれない。なかなか気付かれず少しショックもあったけど、みんなのなかなか見れない驚きの表情を見れて嬉しくもあった。


「なんで男装なんだよ!俺、露出度の高い悪魔かバニーを期待してたのに!」

「シリウス、君そんな事を期待していたのかい?」

「あぁ、男のロマンだからな。」

「そうだね!僕もリリーの……あいたっ!」

「ポッター、何を言おうとしたのかしら?」


正体がわたしだと分かると、シリウスくんからブーイングがかかった。すごく気合い入れて頑張ったのにブーイングなんて酷いじゃないか。しかも変な期待をされていたし、学生がそんな格好する訳ないでしょ、とツッコもう思ったら奥で美人な先輩が際どい格好しているのを見て口を噤んだ。ジェームズがシリウスくんの発言に同意したと同時に、妖精の格好をしたリリーがジェームズの頭をチョップして此方にやってきた。あのホグズミードの一件以来、ジェームズが彼女に謝って仲直りをし、普段喋る位には進展したようだ。


「あら、First nameすごく格好いいじゃない!」

「ありがとう!リリーもすっごく可愛い!」

「エバンスはいつも可愛いよ。」

「貴方は黙って。」

「照れてる君も素敵だ!」


もう可愛いなあ、この二人は。リリーも素直になればいいのに、と思いつつも嬉しさで顔を赤くしていて、言動と行動が伴っていない彼女は可愛いと思ってしまう。これぞツンデレと言われるものなのかもしれない。みんなも和やかな表情で二人を見守っている。


「そうだ、First name今から一緒に校内を回らない?」

「うん!」

「僕らも一緒にいいかい?」


リリーの提案により、リリーと悪戯仕掛け人達と校内を回ることになった。やっぱりシリウスくん達は人気で、学年問わず女の子達に囲まれていた。あっという間に集まるお菓子に、わたしは驚きで見ていたけれどリリーに至っては毎年の事で慣れているらしく平然としていた。


「あの!名前何ていうんですか?」

「……?」


急に女の子に話しかけられ、最初は誰に言っているのか分からなかった。でも、周りを見渡しても近くにはわたしとリリーだけ。リリーを見れば、わたしを指さしてることから自分に話しかけてるんだと気付く。その子の方を向けばまだ幼さの残る女の子だった、2年生位だろうか。名前を言う前にその子は言葉を続けた。


「急にごめんなさい、でもすごくかっこ良かったので思わず声をかけてしまったんです。」

「あー、ありがとう。」

「いえ!」


予想外の出来事に対応がしきれず、簡単な返事 しか出来なかった。それでも、その女の子は大きな目を輝かせて此方を見ていた。これは本当に男の子だと信じているのだろうか、もしそうなら罪悪感が湧いてくる。アドバイスを求めるかのようにリリーに視線を送れば、困ったような笑いを返される。これは、素直に言うしかないな。


「悪いんだけど……」

「ねぇ、あの人格好よくない?」

「本当だ、話しかけに行こ!」


素直に自分は女だと言おうと決意した途端、悪戯仕掛け人達にお菓子を渡し終わった女の子達がこちらに気付き人集りが出来ていた。これでますます打ち明けにくくなってしまった。軽い気持ちで男装したものの、これは想定外だ。周りの女の子達は男であると疑わず、色目を使っ てくる子もいれば、矢継ぎ早に質問してくるこもいれば、様々な反応があり対応困ってしまった。この状況から抜け出すには、早めに言わなければ。そう思って、普段出さないような大声で告げる。


「ごめん、わたし男じゃなくて女です!」


周りは一気にシーンと静まり返る。見渡してみると女の子達は驚いたように茫然としていて、少し離れた所にいる悪戯仕掛け人達に至ってはその状況を見て笑いを堪えているようだった。この空気に耐えられず、必死になって次の言葉 を探すけどパニック状態になった脳内では、的確な言葉を見つけ出すことは出来なかった。


「それでも……格好いいよね。」

「うんうん、逆に女の子でここまでイケメンってすごいよ!」

「名前は?」

「何処の寮?」

「何年生?」


気まずい沈黙から打って変わりまた先程と同じ質問攻め。故意がないにしろ彼女達にとって騙した訳だから、怒られることを覚悟していた。だから、予想とは違った反応に動揺し、聞かれた事を全て無意識に答えていた。






数時間後やっと解放され、談話室に戻りほっと息をつく。わたしの棺型鞄の中にはお菓子が沢山詰まっていた。「Trick or Treat」なんて一言も言ってないのに、手渡されるお菓子。それを全てお礼を言いながら受け取っていたら、いつの間にかこんな量。こんなに人から貰ったの初めてだ、対応は大変だったけれど嬉しくてつい頬が緩む。結局、みんなとはバラバラに行動になってしまったけれど。


「First name、すげえモテようじゃん。」

「シリウスくん、わたしもびっくりしたよ。」

「だけど、やっぱり俺的には男装よりバニーが良かったな。」

「わーシリウスくんのえっちー。」

「うるせー。お前が可愛いのが悪い。」


こういう時どう反応すればいいか分からなくて 、棒読みで返事をしてしまった。わたしの隣に座り、じっと見つめられる。なんだかんだ言っても、彼はかっこいいから見つめられると恥ずかしくなってしまう。その後の言葉にも言われ慣れていない為何て返せば分からず、無言になってしまった。


「あー、なんか俺まずい事言った?」

「ううん。そういう事言われ慣れていないから、何て返せばいいか分からなくて。」

「マジ?結構言われてると思った。」


じゃあ俺が初だな、って嬉しそうに笑うシリウスくんを見て思わずわたしも笑みが零れる。やっぱり人の笑顔っていいな、とても安心する。なんだか照れくさくなってきて、顔を俯ける。


「First nameさ、自分が思ってるより可愛いんだからもっと自信持てよな。」


じゃあな、そう言ってわしゃわしゃと頭を撫でて男子寮へ行ってしまった。残されたわたしは 、ひとりで赤面状態。鼓動は速いし、顔は熱いし、わたし一体どうしちゃったんだろう。






染まるスカーレット
(わたしらしく、ない)



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